SIerにとっての「イノベーション」について考えてみた
ジョブスのような新しい技術やライフスタイルのトレンドを生み出すことがイノベーションだというのであれば、だれもが簡単にできることではない。しかし、イノベーションとは、このような天才のやることであって、我々凡人には、そういう天才の作り出したイノベーションをただ、享受するだけの立場なのだろうか。
そもそもイノベーションとはどういう意味なのだろう。
innovationの語源を調べると15世紀のラテン語innovatioに行き着くようだ。inは「中へ」、novaは「新しい」、これらを組み合わせて、自らの内側に新しいものを取り込むという意味になるのだそうだ。
ただ、これが今のように、「物事の新機軸を打ち出す」、「新しい切り口で新しい活用法を創造する」というような意味が与えられたのは、20世紀前半に活躍した経済学者シュンペーターに始まる。彼は1911年に著した『経済発展の理論』の中で、イノベーションを「新結合(neue Kombination)」と呼んでいる。また、新結合を生み出す実行者を「アントレプレナー(entrepreneur)」と呼んでいる。
シュンペーターはイノベーションを以下の5類型に分類している。
- 新しい財貨の生産 プロダクト・イノベーション
- 新しい生産方法の導入 プロセス・イノベーション
- 新しい販売先の開拓 マーケティング・イノベーション
- 新しい仕入先の獲得 サプライチェーン・イノベーション
- 新しい組織の実現 組織のイノベーション
僭越ながら、これに加えて、「新しい体験の創造」すなわち、「感性のイノベーション」も付け加えてはどうだろう。
例えば、iPadやiPhoneのように、これまでにないユーザー・エクスペリエンス(UX)が新たな経済的価値を生み出す時代となった。これは、機能だけではなく、感性が購買行動に大きな影響を与え、新しいライフスタイルを生み出す現象ともいえる。そう考えると感性もまたイノベーションのひとつの類型に入れてもいいように思う。
さて、我が国では、イノベーションのことを、「技術革新」と言い換えられることが多いようだ。これは1958年の『経済白書』において、イノベーションを「技術革新」と訳したことに由来しているといわれている。高度成長時代の当時を考えれば、経済発展は技術によってもたらされるという考えが普通だった。しかし、本来の意味は、もっと広範な経済活動全般に適用される言葉として使われている。
またシュンペーターは、「イノベーションは創造的破壊をもたらす」とも語っている。その典型として、イギリスの産業革命期における「鉄道」によるイノベーションを取り上げている。彼はこんなたとえでそれを紹介している。
「馬車を何台つなげても汽車にはならない」。
つまり、「鉄道」がもたらしたイノベーションとは、馬車の馬力をより強力な蒸気機関に置き換え多数の貨車や客車をつなぐという「新結合」がもたらしたものだという解釈だ。
これによって、古い駅馬車による交通網は破壊され新しい鉄道網に置き換わっていった。それが結果として、産業革命を支えるものになったという。
ここで使われた技術要素は、ひとつひとつを見てゆけば必ずしも新しいものばかりではなかった。例えば、貨車や客車は馬車から受け継がれたもので、蒸気機関も鉄道が生まれる40年前には発明されていた。つまり、イノベーションとは新しい要素ではなく、これまでになかった新しい「新結合」がもたらしたものだというのだ。
「JINS PC」をご存知の方は多いと思う。発売から2年で、販売累計本数300万本を突破したパソコン用メガネだ。このビジネスの成功もまた「新結合」の典型的な事例と言えるだろう。
これまで、メガネの需要は、「目の悪い人」に限られていた。この常識を打ち破り、「目の健康な人」、すなわち「PCを使う全ての人」に、市場を拡げた。必ずしも、最先端のテクノロジーが使われているわけではない。しかし、既存のノウハウやテクノロジーをうまく使い、ビジネス・プロセスやビジネス・モデルの新結合、すなわち、イノベーションを生みだした。
必ずしもテクノロジーが主導だったわけではないので、「ビジネス・イノベーション」としてもいいのかもしれない。このアプローチであれば、凡人にもチャンスはあるかもしれない。
これをSIerの仕事に例えて考えてみよう。SIerは、これまでも、ビジネス・プロセスの改善や改革をテクノロジーによって実現することを期待されてきた。日々、進化するテクノロジーを見据えて、これまでとは違うビジネス・プロセスを創造し、新しい組合せで、お客様にとって最適な解決策を作り上げることが求められている。これを、「ソリューション」というとすれば、「ソリューション」は、シュンペーターのいう「新結合」と考えることはできないだろうか。そして、お客様にイノベーションをもたらすアントレプレナーは、SIerということになる。
そして、それは、同時にこれまでの収益構造を破壊し、その新しい組合せに最適化された収益構造への転換を求められる。SIerにとっての創造的破壊が進行する。
少々強引な解釈ではある。しかし、SIerにとって、このような解釈は、改めて自分たちの役割を考え直すきっかけになるのではないだろうか。
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