避けられないコモディティ化、生き残るためのイノベーション
「御社の新しいデータセンターは、首都圏近郊では最もハイスペックです。しかし、ここからわずか数キロ離れたところにも、同様にハイスペックなデータセンターがあります。この両者の違いと、なぜ御社のデータセンターが優れているかをご説明いだけるでしょうか?」
あるITベンダーでの講演で、こんな質問をしてみた。しかし、明確な回答をいただくことはできなかった。
PCサーバーの違いを説明することは、もっと難しいかもしれない。HP、IBM、DELLとNECは、何が違うのか。プロセッサはどこもIntel、OSはLinux、データベースはOracle。各社とも違いを出そうと努力はしているものの、ユーザーからみれば甲乙つけがたく、「どれを買っても同じ」という状況になる。
「どれを買っても同じ、しかし、なくてはならない存在。」
それが、「コモディティ(Commodity)」だ。
ITの歴史は、振り返ればコモディティ化の歴史でもある。新しい技術が世の中に出現すると、最初はその技術そのものが差別化の源泉となる。しかし、その技術が普及し、需要が拡大すると、その市場への参入と事業の拡大を目指し、コストパフォーマンス競争が始まる。その結果、機能や性能の完成度は行き着くところまで行って高止まりし、価格競争へと移ってゆく。
コモディティ化された技術は、お客様の必要を越える完成度となり、その違いを訴えても競合優位を見いだせなくなる。そうなれば、技術とは次元の異なる領域に差別化の源泉を求めなくてはならない。技術そのものではなく、技術をうまく使いこなし、より大きな価値を生みだすプロセスやノウハウを提供することで、差別化を図らなくてはならない。これを「ソリューション」という場合もある。しかし、このソリューションさえも、コモディティ化の波に呑まれてゆく。
SIやシステム運用などのITサービスも、コモディティ化が進んでゆく。それは、国境を越え、オフショアを含むグローバルな価格競争を助長し、利益の確保をいっそう厳しいものにしてしまうだろう。
新しい技術の創出が廃れることはない。しかし、創出された技術が魅力的なものであればあるほど、マーケットは広がり、競争が激しくなり、コモディティ化への動きを加速する。
コモディティとどう向き合うか?
3つの考え方があるだろう。ひとつは、「スピード」だ。コモディティになる前に新しいテクノロジーやサービスにいち早く取り組み先行者としての利益を享受すること。
二つ目は、「ボリューム」。AWSに代表されるように圧倒的な規模とコストパフォーマンスでコモディティを牽引する。これには、前述の「スピード」も必須の条件となるだろう。
最後は、「イノベーション」。自らがコモディティとなるものを生みだすこと。イノベーションにはテクノロジー・イノベーションとビジネス・イノベーションのふたつがある。テクノロジーで自らイノベーションを創出することは、かなり難しく、だれにでもできることではない。しかし、旧来のテクノロジーをうまく利用して新しい市場やサービス形態を創り出すイノベーションであれば、誰にでもチャンスがあるだろう。
例えば、JiNS PCメガネ。これまで、メガネは目が悪い人のための視力補正器具であった。当然、その市場は目の悪い人に限られていた。JiNS PCメガネは、目の良い人がPCを長時間使用することで目を悪くしないようにと創られたものだ。つまり、「目の良い人」というこれまでのメガネには無かった新しい市場を創出したことになる。使われている技術の詳細は知らないが、既知の技術の応用で十分に実現できたのではないだろうか。しかし、それ以上に重要なのは、その技術を既存の市場ではないところに拡げ、新たな市場を生みだしたことである。これは、ビジネス・イノベーションのひとつの事例と言えるだろう。
コモディティ化が避けられない以上、それを前提にビジネスをしてゆかなくてはならない。その意識がなければ、ただただ時代の波に翻弄されるだけである。
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