「仮想化」を理解するための誕生の歴史
昨日に引き続き、仮想化について、その歴史を振り返る。
1950年代から1960年代にかけての黎明期のコンピューターは、大変高価なものだった。そのため、このコンピューターを多くのユーザーと共用する方法がいろいろと考えられた。そのひとつが、「バッチ」だ。ひとつひとつの処理単位 (ジョブ)が、順次実行される処理形態。この方法では、前の処理が終わらなければ、次の処理に移ることはできない。これでは不便だと言うことらになり、生まれたのが、「タイムシェアリング」だ。
タイムシェアリングとは、1台のコンピューターのCPU処理時間を極めて短い時間単位で分割し、複数のユーザーに順次割り当て、見かけ上複数のユーザーが同時にコンピューターを利用できるようにすることでコンピューターの共用を実現しようとした。1961年、IBM 709でタイムシェアリングが実装され、さらに使いやすいシステムの実現を目指し、MITでMULTICS (Multiplexed Information and Computing Service)プロジェクトがスタートとした。MULTICSは必ずしも成功とは言えなかったが、この考えは受け継がれ、後のUNIXへとつながる。
さて、分割したCPUの処理時間は、ユーザーにとって独立した個別のCPUと見做される。ならば、これにユーザー個別のオペレーティング・システムを動かせるように発展させることで、今でいう仮想化が生まれた。1967年、IBM System/360モデル67で実装されたCP-67/CMSが商用ベースでは、初めてのモノとされている。また、その時始めて、Virtual Machine(VM)という言葉が使われた。
このようにして、仮想化が誕生した。
ここで改めて、コンピューターの歴史を振り返りながら、仮想化について見てゆこう。
1964年以前 (分散)
メインフレームが生まれる1964年以前、コンピューターは業務にあわせた専用機として存在していた。企業は、業務毎にその専用機を使わなくてはならず、分散システムの時代。また、ハードウェアは高価であり、複数の機器を利用しなければならず、その運用負担やコストの増大は課題となってた。
1964年 (集中)
この年に、メインフレームの先駆けであるIBM System/360が誕生した。「汎用機」とも呼ばれ、異なる業務もこれ一台で対応できる万能機としてその存在感を示した。浮動小数点演算も可能であり、事務計算ばかりでなく、技術計算もこれ一台でこなすことができた。ただし、異なる業務での共用は、当初はバッチ処理。その後、タイムシェアリング使えるようになる。ただし、同じOS上に複数のアプリケーションを稼働させる処理形態をとっていた。
1967年 (集中・分割)
仮想化の技術は、この年以前からもいろいろと研究されていたが、1967年 IBM System/360モデル40用に研究用の仮想化OSとしてCP-40が開発され、これをベースにSystem/360モデル67用にCP-67が開発され始めて商用製品として発売された。1972年 仮想記憶をサポートしたSystem/370シリーズ用にCP-370が開発され本格的に普及するようになった。
この仕組みにより、高価であったハードウェアをユーザー個別の専用機として「分割」することで、利用の自由度を高め、見かけ上のマシン・コストの削減を図ろうということが、この当時の仮想化の目的となっていた。
1980年代〜 (分散)
安価な小型のコンピューターの出現により、何でもメインフレームの時代から、ダウンサイジング、分散の時代へと移っていった。メインフレームほどの能力や機能はいらない、その代わり、集中システムであるメインフレームの運用上の制約を受けることなくもっと自由に使いたいとの思惑から、高価なメインフレームを仮想化で「分割」するのではなく、低価格の専用で使えるハードウェアを購入した方が便利であるという考え方が広がり、「分散」がすすんでいった。その一方で、企業が抱えるコンピューターの台数は増大し、TCOの増大を招くこととなった。
1999年 (集中・分散)
この前年の1998年にVMware社が設立され、翌年の1999年に初めての製品、VMware Workstationが発売されました。x86ベースの仮想化ソフトウェアで、これ以前も研究目的では存在していたが、商用ベースでは初めてのもの。当時は、WindowsとLinuxに対応し、主にソフトウェア開発・評価・テストを目的とするものだった。その後、機能も拡張され適用範囲が広がってゆく。また、VMware以外にも多くの仮想化ソフトウェアが出現し、現在に至っている。
この時代の仮想化は、安価な物理マシンの増大によりTCOが増大、そのことが企業のIT予算を圧迫するに至り、仮想化により物理マシンを「集約」することでTCOを削減したいという思惑から仮想化が広く使われるようになった。
このように歴史を振り返れば、仮想化そのもののコンセプトは、誕生した当時から、基本的には変わっていない。しかし、その目的は、大きく変わった。当初は高価なシステム資源を「分割」し、ユーザー毎に安価なシステムを提供することだったが、昨今はシステム資源が安く手に入るようになり、その結果、台数が増え、それに伴うTCOを削減するための「集約」へと変わってきたのだ。
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