スティーブ・ジョブズがかつて”ホビー”と呼んだApple TVが、このままコネクテッドテレビの市場を制圧してしまうのだろうか
ここ数日で一番気になったニュース。かつて、スティーブ・ジョブズが”ホビー”と呼んでいたApple TVが、コネクテッドテレビ市場において32%の市場を獲得しているという。この調査結果は、Strategy Analyticsという米国のリサーチ会社が公開したもので、完全なレポートを読むのには購読料がかかってしまうのだが、ウェブサイトにも多数ニュースが公開されていたので紹介したい。
コネクテッドテレビとは、インターネットに接続可能なテレビ装置で、一般的にはセットトップボックス(STB)型で提供されることが多い。プレイヤーには、Apple TV、Google TV、Roku、Boxee boxeなどがいるし、考えようによってはマイクロソフトのXboxやソニーのPS3も競合になるかもしれない。また、サムソンや東芝などのメーカー、ベライゾンなどのネットワーク事業者、ケーブルテレビ事業者など、今後の参入を表明している企業がひしめく、激しい競争が予想される市場でもある。
※ ニュースソース
「Apple`s‘hobby`could own 1/3 of streaming set-top market in 2011」
【1】 不振が続くGoogle TV
Apple TVがコネクテッドテレビ市場の32%を獲得したというニュースに驚いた理由は、つい最近まで、この市場の勝者がはっきりわかるまでには、まだ相当な時間がかかるだろうというのが大方の見解だったからである。
それには、去年の10月に市場からの期待を一身に集めて発表された、コネクテッドテレビ市場における本命と目されていたGoogle TVの販売不振が大きく影響している。今の現状から見て、Google TVが近い将来コネクテッドテレビの市場をリードして行くとはとても考えにくいからだ。
例えば、つい最近もこんなことがあった。12月7日にパリで開催されたネット系カンファレンス Le Web で、Google のエリック・シュミット会長が、「2012年の夏までには、店頭に並ぶ大半のテレビに Google TV が組込まれるだろう」と発言したのだ。しかし、この発言に対する大半のメディアからの反応は、当然のように懐疑的なものばかりだった
本命不在の先の見えないレース、そう思っていた矢先のApple TVの躍進を伝えるニュースだっただけに、ちょっと意外だったというのが正直なところだ。しかし、今回発表されたレポートを見る限り、Apple TVがコネクテッドテレビの本命に躍り出たことは間違いないのかもしれない。
【2】 Apple TVがコネクテッドテレビ市場の32%を獲得
まず、2011年12月末時点の、全世界におけるセットボックス型コネクテッドテレビの販売台数は1,200万台になるそうだ。その内、Apple TVの販売台数は32%にあたる400万台。この400万台という販売台数は、iPhone 4Sが発売初日に販売した台数とほぼ同じ数字になるわけで、数字的に見ればまだまだ物足りないことは否めないだろう。しかし、それでも市場の32%を獲得したという事実は意味があるし、特に大々的なキャンペーンなどをやらずにこの数字を達成したところに今後の可能性を感じる。
Apple TVが急速にシェアを獲得することに成功した理由として、Strategy AnalyticsはiOS5で実現されたミラーリングなどのAirPlayに実装された機能拡張をあげている。そして、iCloudがApple TVのシェア拡大に好影響を与えるのではないかとも予測している。
実は、もしかしたら、Apple TVがこのままコネクテッドテレビ市場において、シェアを拡大し続けるのではないかと思わせるような動きをアップルが見せている。それは、Apple TVが、最近になって国外へのサービス提供を加速させていることだ。
【3】 Apple TVの今後の躍進を予感させる海外戦略
例えばつい最近、Apple TVのキラーコンテンツの1つでもあるテレビ番組が、アメリカ以外のイギリス、カナダ、オーストラリアなどの国々でも購入できるようになった。シェアを拡大するためには、何よりもまずコンテンツを充実させることが重要になってくるだけに、今回のアメリカ以外の国へのサービス拡充はプラスに働くはずだ。
※ ニュースソース
「TV shows hit international Apple TVs, emphasizing the iTunes lead」
海外戦略を推し進めているのはテレビ番組のVODサービスだけではない。Apple TVのもう1つのキラーコンテンツである、Neflixも着々とアメリカ以外の国へサービスの提供を拡大している。今日飛び込んできたニュースによれば、ラテンアメリカの国々でもApple TV経由でNetflixが利用できるようになったらしい。
※ ニュースソース
「Netflix expands international support for iOS, Apple TV」
Strategy Analyticsのレポートによれば、コネクテッドテレビを導入している家庭は、アメリカの8%に対してヨーロッパが7%と、ヨーロッパはもはや無視することができない市場になっている。そういう意味では、Apple TVのキラーコンテンツであるテレビ番組のVOD(ビデオオンデマンド)サービスやNetflixが、ライバルのアマゾンよりも早くアメリカ以外の国にでも利用できるようにしたことは、今後のシェア争いにおいて重要な意味を持つことは間違いないだろう。
【4】 今回のまとめ
Apple TVのAirPlayは確かに便利な機能ではあるが、Apple TVがコネクテッドテレビ市場の32%を獲得することに成功した一番の理由は、その価格戦略にあるのではないかと思っている。Apple TVは、アメリカでは99ドル、日本では8,800円で売られているわけだが、日本円で1万円を切っている価格はやはり魅力だ。この価格であれば、iPhoneかiPadを持っているユーザなら「ちょっと試しに使ってみようかな」という気持ちになる。
一方、Google TVは、発売当時の一番安いモデルでも日本円にして3万円ちょっとだと記憶しているのだが、この価格設定は中途半端な気がしてならない。もちろんGoogle TVは、ディスプレイも付属しての価格であるため単純に比較はできないわけだが、じゃあ本当にディスプレイが必要だったのか、よく考えるべきだったのではないだろうか。8,800円と3万円ちょっとの価格差は、購入する側から見ればかなり大きいように思えてしかたがない。
一方で、Apple TVも、3大ネットワークの1つであるCBSとの契約が直前になって流れたりと、コンテンツの拡大には苦労している。今後もコネクテッドテレビの市場においてリーダーとして君臨し続けることができるかどうかは、既存放送局を味方につけることができるかにかかっている。サービスが利用できる国を増やす海外戦略と一緒に、メディアとの提携戦略も推し進めて行くことが重要になってくるだろう。
個人的な興味で言えば、Apple TVは、弊社が提供しているビデオ配信プラットフォーム及びiPadと組み合わせることで、教育・研修の分野で面白い活用の仕方ができるのではないかと思っている。コネクテッドテレビが、デジタルテレビとは比べ物にならないくらい可能性を秘めていることだけは間違いない。