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ユーザにとっての使い勝手のよいITについて考える

ITはSaaSによってコモディティ化する?

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インターネットを利用して企業の情報システムをアウトソースする流れは、2000年前後にASP(Application Service Provider)のモデルでサービスの提供が行われ始めました。インターネットを利用してソフトウェアサービスを提供し、ユーザは必要に応じて、必要な機能を必要な期間利用することができ、費用は月額利用料という形式で支払うものとなります。

ただ、ご存知のとおり、回線速度の問題や、提供されるサービスの柔軟性などの問題もあり十分普及するには至りませんでした。ちなみに、業界では当時のASPのモデルのことをシングルテナント(つまり企業ごとに個別にシステムを用意して、データセンターで運用する形式)という言葉でまとめています。

2006年頃からSaaS(Software as a Service)のキーワードで、上記ASPのビジネスモデルが再度注目を浴びるようになりました。多くのメディアで話題になり、2008年のIT業界のキーワードとしてはかなり注目度が高かったのではないかと思います。よく、ASPとSaaSの違いが話題になることがありますが、ASPのシングルテナントに対して、SaaSはマルチテナント(簡単に言うと複数企業のシステムを同時に並行運用できるようにしたもの)と言われることもあります。個人的には同義と考えていますが、ASPが注目を浴びていた時代からすると、アプリケーションのパフォーマンスやユーザインターフェースなど多くの点で進化しており、「SaaS=実用的になったASP」という感覚が妥当ではないでしょうか。

2003年にニコラス・G・カーはハーバードビジネスレビューで「IT Doesn't Matter」という論文を発表し、今後、ITはコモディティ(必需品)となってしまい、ITを使うことによる企業の優位性はなくなるだろうと予言したことで多くの反響がありました。ご存知の方も多いかと思います。

SaaSの普及によってITはコモディティ化し、中小企業のようなITに対する多く投資をできない企業でも以前の大企業と同様のシステムを利用することができるようになるとの話は私も非常に共感します。ITがコモディティ化するためには、SaaSの普及は必要条件なんだと思います。では、SaaSの提供・普及で十分かどうか。つまり、SaaSが普及することで、

電気、水道、ガス、IT・・・。という流れで、ITがコモディティ化するかどうか。

少し昔、携帯電話がなかった時代は電話、Fax等で情報をやり取りしてましたが、最近はほぼみんなが携帯電話を持つようになりました。その点で、情報の伝達スピードは格段に向上しましたが、みんなが使っているので、携帯電話を使うことによる企業の優位性なくなってきていると思います。つまり、コモディティ化しているのでしょう。(ここでは、単純に携帯電話で通話することのみを考慮しています)

ただ、電気、水道、ガス、携帯、いずれもサービスの多様性という意味では、ほとんど規格化されていることになります。つまりサービスが非常に単純化されています。

ITが作業の効率化の道具として使われるようになり、多くのパッケージソフトも販売されています。

  • パソコンを使って、会計データを入力し、簡単に試算表を作成する。
  • 給与計算をパッケージソフトで行い、明細を印刷する。
  • グループウェアを使って社員のスケジュールを一元管理する。

などの例ではある程度のユーザの想定する使い方とソフトウェアの提供する機能が近く、ある意味コモディティの域にあるのかもしれません。しかし、例えば販売管理(見積、受注、請求)やプロジェクト管理などの業務に目を向けると、各社各様であったり、日々改善を重ねて自社なりの効率化を模索しています。比較的各社で共通化できそうな会計処理に目を向けても、自社独自の管理会計システムを構築し、より高いレベルで会計データを戦略的に使うこともあります。

会社業務のどの部分が共通化=規格化できるのか、コモディティ化するのか。よく考えると、その範囲は非常に狭いのかもしれません。

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