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ユーザにとっての使い勝手のよいITについて考える

SaaSであまり語られないこと

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2008年はIT業界では、SaaS(Software as a Service)がキーワードとしては大きな注目を浴びた一年だったかと思います。私も昨年12月の10,11日にSaaSWord2008に出展していたのですが、2007年に出展していた時より随分パンフレットがなくなりました。また、来場者の皆さんの基礎知識がかなり豊富になっていると感じました。

2009年は?というと、恐らくIT業界のキーワードとしては影が薄くなってくるのではないでしょうか。代わりに、調査・評価を進めてきたユーザの方の本格的な導入が進んでいく年になると思います。(でも2008年はじめも同じようなことを言っていたような気もします・・・・)

SaaSが普及するのかどうか。私の正直な考えとしては、ニーズ、市場は確かにあるとは思うのですが、SaaSが適しているサービス、SaaSを利用することでメリットを得られるユーザはある程度限定されるのではないかということです。現状は特に中小企業のIT導入の切り札といった語られ方が多いのですが、すべてのユーザにとってはそうでもないかもしれません。

今日は、SaaSの普及への課題について触れてみたいと思います。(話の中では一定規模以上の業務系のSaaS導入という前提が置かれている部分がありますのでご了承下さい)

課金タイミングの問題

SaaSは一般的に利用した分だけ支払うというモデルですので、月額利用料として課金されることが多いと思います。(中には半年契約、1年契約などもあります。)

ユーザにとっては、システム導入時の支払いを抑えることができます。例えば業務パッケージを導入する場合、サーバやソフトウェアのライセンス、カスタマイズ費用、担当者のトレーニングなど色々な費用がかかります。導入するまでに1000万~3000万、あるいはそれ以上必要な場合もあると思いますが、SaaSの場合は月額利用料になりますので全体でみると非常に少ない初期費用だけでスタートすることが出来ます。

上記は非常にスマートな話なのですが、導入を勧める側にとっては、営業コストの問題が大きくなります。当然導入してもらうために営業マンや代理店担当者などが説明なり資料配布なり動くことになりますが、そのコストは契約時に回収することが難しく、継続利用していただく場合に長期分割で回収するような形になります。

営業マンがSaaSの商材を受注した際、受注時の粗利ではなく、例えば1年、2年の利用を想定した粗利などで評価を行えないとなかなか営業マンが積極的になれないということになってしまいます。(営業マンは初期費用の安いSaaSよりも、粗利の高いパッケージソフトを勧めるでしょう)

勧める側が十分な説明や活動を行えない場合は、SaaSの普及もなかなか進まないという悪循環になりかねません。

サーバインフラ、運用コストの問題

SaaSのメリットとして導入時にサーバが不要、なので運用担当者が不要(または楽)ということが挙げられます。ただ、果たして本当にそうかというと一部悩ましい部分もあります。サーバが不要=サーバの費用がかからない。運用が不要=運用費用がかからない。というわけではないためです。

サーバはサービス提供者が購入し、運用もサービス提供者が行いますので、当然その分のコストは月額利用料の中に含まれることになります。

少人数の企業でサーバの導入なんてムリという場合もあるのですが、中堅規模以上になると安価に入手したサーバで既存の運用担当者が保守を担当すれば、コストはかなり抑えられることになります。ライセンス購入が可能なSaaSサービスの場合、1年~3年利用でSaaSと買取のコストが逆転する場合が多いので、状況によっては、ライセンス購入をまず検討することになる場合もあると思います。

逆に少人数の場合、サーバの導入なんてムリな状態、運用担当者も不在なのでありがたいSaaSなのですが、上記の通り、多少の費用が月額利用料の中に含まれることになります。5年以上使うことも考えた場合、従来のように量販店でパッケージソフトを買ってきて使う場合と比較するとかなり金額的に大きくなってしまう場合もあります。この場合、SaaSは既存のパッケージソフトで代替できない機能を持っているなど安価なパッケージソフト以上の魅力を持っている必要があります。

SaaSこそが本命!という風潮がしばらく続いたのですが、今後の普及促進を考えた場合に提供者側や利用ユーザ側ともに多くの課題を抱えていることも事実だと思います。

また、一般的なメリット、デメリットが、自社にとって同じようにメリットデメリットとなるかどうかは導入前に十分検討する必要があるでしょう。他社にとってメリットがある、非常に有益なSaaSサービスだとしても自社にとって同じであるかどうかは、従来のパッケージソフト以上に選択が難しくなるのかもしれません。。

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