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マイクロソフトのスカイプ買収 どうみるか?

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マイクロソフトのスカイプ買収が発表された。
大型M&Aとして注目を集めると同時に、実に様々な意見があるようだが、限られた情報に基づいてでだが一つの見方をまとめてみたい。

主な論点は三つ:
①値段が高すぎないか(投資に見合うリターンが得られるのか)?
②どういう目的か(どんな戦略にスカイプを活用するのか)?
③失敗しないか(ちゃんとグループに統合のexecutionができるか)?

①買収価格

キャッシュで$8.5Bはないだろうという声が多い。バブル的との見方も。
バルマーは、上場後の買収よりも経済的との見解。
 2005に$2.6BでeBayが買収
 2009 に$2.75Bの評価額でSilverlakeらが買収
これと比べると3倍以上で高いなあと見ることもできる。
 売上高$850m, EBITDAはプラスだが赤字。
 ユーザー一人当たり$50に相当。
売上の10倍も払う理由あるのかと、バンカー的な見方では、クレージーとか割高といった声が出てもおかしくない。
これはtransactionalな見方に過ぎないので、結論は実際に得られる果実が問われることになる。
これくらいしないと、今後の市場での強いポジションをとれないだろうという見方もある。

②ねらい

マイクロソフトはIPコミュニケーションについては、かつて先進的な取り組みを見せていた。ロングホーン開発(Vistaとなった失敗プロジェクト)にあたり、音声だけでなくプレゼンスほか統合的なIPコミュニケーションを提供しようと考えていた・・・のだがうまくいかず、音声をはじめIPコミュニケーションでは低空飛行のままだった。

スカイプ買収で、Windows(PC・モバイル)、XBox、Kinnect、Outlook, Lync、Messenger、Hotmailほか、マイクロソフトの既存製品・サービスに統合化できそうなものは種々ある。
大きく言うとエンタープライズよりコンシューマー市場への対応ということになろう。

もちろんPCでのスカイプ体験を改善することが考えられる。
タブレット端末にもプラスになろう。
一方、スマートフォン用OSの世界シェアで、Windowsは低下を続けている。1割を超えていたのが、いまは5%を切っている。スマートフォンにスカイプを統合化すること、そしてPC&スマートフォンでのスカイプ体験を向上させることもできる。
なお、Verizonなど電話キャリアとの問題もあるが、auの例もあるように、長期的には着地できるのではなかろうか。(スカイプが出始めの頃に日本のキャリアに話したときは、否定・拒絶モードだったが、いまや状況は激変した)

スカイプの2億人弱のユーザーを誘導してシナジーも追求できる。Bingの売上へのプラスなどもあるかもしれない。

そして、バルマーが例に挙げたXboxだが、テレビとゲーム機を使ったIPコミュニケーションは、これまでのスカイプ利用者の枠を拡大する可能性がある。ちなみに、昨年すでにゲームのKinectとIP通信を組み合わせたデモがつくられている。これは新たなユーザー体験だ。


YouTube: Video Kinect and Messenger Demo

多様なプラットフォームをまたいで、総合的なIPコミュニケーションを提供する鍵としてスカイプを活用することのメリット大きいだろう。

エコシステム(生態系)戦略としては、スカイプを通してFacebookや様々なものとの連携を図ることも考えられる。もちろん、バランスは工夫を要するが、やり方次第かと。(スカイプのAppleなど他社製品対応など、MS的には嫌かもだが、Skype的には重要といったことは、常態として受け入れねばならない)

なお、エンタープライズ市場へもプラス要素はある。Windowsモバイルはエンタープライズのシステム連携が一つの強みだが、スマートフォンの魅力をアップする点もあるだろう。
iPad2はエンタープライズに売れているとも聞く。スレート(タブレット)市場でのポジション向上もあるかもしれない。
もっとも、peer-to-peerのスカイプをエンタプライズに馴染ませる開発が求められる。エンタープライズ用もポテンシャルはあるが時間軸としては長い。

③エクセキューション(実行)

M&Aの成否は、かなりの部分がポスト・マージャー・インテグレーション(買収後の統合化)の実行にかかっている。

@SamFURUKAWA さんの「スカイプを6800億円で買収したMS...テレビ端末WebTVを4000億円で買収し撤退、同じ連中が携帯のデンジャーを起業、これまた5億ドルで買収、中心人物のアンディー・ルービンは独立してアンドロイドを創作...なんて、MSによる買収の歴史を彷彿とさせる。」
とのツイートのように、案じられる。

もちろんマイクロスソフトは数多い買収の経験があるは、$8.5b級の大型は少ない。シスコ・システムズほどは、鍛えられてはいないという印象だ(シスコについて詳しくは拙著「成長を創造する経営」を参照ください)。

起業家精神あふれる欧州発のベンチャー企業スカイプが、かなり大企業化したシアトルの会社とうまくやれるのかは、不透明だ。SkypeのベイツCEO(シスコ出身)は引き続きリーダーシップを執るそうだが、人の相性という面でも未知数。
・参考ブログ「SkypeのNiklas Zennstromが学んだこと

一部で高いと言われる買収額も、可能性あるシナジーをフルに実現すればさほど悪い買い物ではない感がある。問題は、その実行ということだ。

<参考>

TechCrunch記事「MicrosoftのバルマーとSkypeのベイツ、買収の意義を語る―「地球上のすべての人々とコミュニケーションできる能力を獲得した」

WSJビデオ「How Microsoft Plans to Monetize Skype

NDTVビデオ「Skype deal a booster for Microsoft: Analysys Mason

Bloombergビデオ「Oppenheimer's Reback on Microsoft's Skype Purchase

Daily Tickerビデオ「Microsoft Buys Skype in $8.5 Billion Cash Deal

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