暑い夏を乗り越えるための、涼しげな女性ヴォーカル
前回のエントリーで"買えるかなぁ"と言っていたiPhoneは、発売日当日に無事入手していました。なんてことは、僕の連載でiPhoneが何度も登場していることでご存知の方も多いと思います。いろいろと文句を言いながらも、やっぱりiPhoneを使ってしまうのは、やっぱりiPhoneが面白いからなんだろうなぁ。
もっとも、ダビング10に文句を言い、私的録音補償金関係で文句を言い、iPhoneを愛でながらも文句を書きと、マイナスのエネルギーばかり使い続けたので、今回は全く仕事がらみナシのエントリーです。
女性ヴォーカルが好きという、よくメールをいただく、僕が書いているAV誌関係の読者から、昨年8月に公開したエントリー(古い!)をアップロードした後、音の良い女性ヴォーカルのCDを時間がある時に紹介してくれと言われていたのですが、すっかり遅くなってました。
グラミー賞受賞経験もある知り合いの音楽プロデューサー曰く「俺らほとんど男ばっかだからさ、多少、ジャガイモみたいな顔だとしても、女の子の声は美しく撮ってやりたいと思うわけよ」と、どこまで本気で言っているのかわかりませんが、そんな話をしていました。つまり、世の中に音のいい女性ヴォーカルものなんてたくさんあります。
ですが、そんな中であえて最近お気に入りのソフトをいくつか紹介しておきます。結構、古いものも入ってますし、ものすごく音が良いわけじゃないものも入っていますが、そのあたりはお好みで。
・Eva Cassidy 「Songbird」
Eva Cassidyは、たった1枚のオリジナルアルバムと1枚のライブアルバムを遺し、皮膚ガンでこの世を去った米国生まれの女性ヴォーカリストです。彼女のCDは"すんごく音がいい"というよりも、とても素朴でナチュラル。録音の技術レベルは普通ですが、ヴォーカルそのものがとても魅力的でオリジナリティあふれる上、予算をかけずにシンプルに作っているからでしょうか。
秋、山吹色の色付き始めた草原を思い起こさせるような、なんとも言えない空気感が独特の哀愁漂うボーカルとマッチして、思わず聞き入ってしまいます。女性よりも、ロマンチストの男性にお勧めです。
彼女の歌は生前、ほとんど世の中に知られることはありませんでしたが、ミシェル・クワンが最後のオリンピック、フリーの演技で彼女が歌うFields of Gold(もちろん、オリジナルはSting)を採用して広く知られました。
アルバム「Songbird」は彼女のベスト盤的アルバム(死後、両親が発見した音源なども含まれているそうです)です。Fields of Gold以外にも、枯葉やオーバー・ザ・レインボーといったスタンダードが入っていますが、これがどちらも素晴らしい。YouTubeには亡くなる6ヶ月前に行われたライブの映像がアップロードされていますので、興味があるなら一度はどうぞ。
オーバー・ザ・レインボーはここ。フィールズ・オブゴールドはこちらで聴けます。
・Jacintha 「The girl from Bossa Nova」
やっぱり夏はボサノバがいい。というわけで、我が家では仕事しながらボサノバが、毎年の夏の定番。その定番のうちの1枚がこのアルバム。まぁ、音好きならば、Jacinthaのアルバムを避けて通るわけもなく、当然、知っている人が多いと思います。
モノホンのボサノバ好きは、彼女の歌は「これはボッサじゃない!」と言うでしょうが、まぁ、歌がうまくて演奏が良くて、さらに録音も良いときたなら、まぁ、細かいことは抜きでいいじゃない。
SACD版もあありますが、特にマルチチャンネルのミキシングは見事だと思います。ただ、センタースピーカーチャンネルにたっぷり音を振り分けている(Grace NoteのSACDはたいていそうなってます)ので、センターレスでマルチを再生させると、ちょっと情報量不足を感じるでしょう。センターチャンネルを左右のメインスピーカーにミックスすると、どうしても細やかな情報が消えてしまうからです。センタースピーカーがない場合は、2チャンでどうぞ。
音の方は、なんだか密林の中を思わせる……というと、ちょっと極端ですが、南の島の夜、みんなで集まって音楽を楽しんでいる、なんて感じでしょうか。熱気と湿度の中にあっても、開放感と涼風が吹き抜ける感じが気持ちいい。
・Grace Mahya 「The girl from Ipanema(イパネマの娘)」
なんだか外人みたいな名前ですが、日本人女性です。実は2006年に出た彼女のデビューアルバム「The Look of Love」は、持っていました。ジャズ音楽プロデューサの伊藤八十八さんが見出した女性ヴォーカリストで、自身がプロデュース、録音まで担当。伊藤さんの録音は大変に優秀なものが多いということで、えいやと"目押し"で買っていたのですが、ほとんど聴かずにラックに眠っていました。
ちょっと好みとは違う方向というか、力が抜け切れていない歌い方や、ちょっと気になる英語の発音(日本人の中では、それでもトップクラスだったんですが)が気になって、イマイチグッと来なかったんです。
が、今月発売されたばかりの「イバネマの娘」は、少し力が抜けてリラックスしている上、ポルトガル語も英語も、あんまり発音が気になりません。特に発音に関しては相当、努力したんでしょうね。(Amazonには、まだジャケ写がアップされていないので、絵が出てきませんが、ページを開くとユーザーアップロードしたジャケ写を見ることができます)
このアルバムはブラジル楽曲を中心に、様々な曲をボサノバアレンジで録音しています。個人的な好みから言うと、さらにもう少し力を抜いて"気怠さ"を出して欲しいのだけど、一流ミュージシャンに支えられたバッキングの素晴らしさや、彼女自身の歌の巧さもあって、これはこれで楽しめるなぁと思う1枚です。個人的には7曲目のRecado Bossa Nova、10曲目のSo Danco Sambaがオリジナリティあって好きかな。いずれもボサノバの定番だけど、誰の曲でもない、自分の曲の世界を作っているように感じます。
さて、そしてこのCD(SACDハイブリです)の魅力を、さらに大きくしているのが、"ものすごく音がイイ"ってこと。あらかじめ音がいいぞ!とは噂を聴いていたんだけど、特にSACD層(2チャンネルのみ)の音の良さは、あらゆるSACDの中でもトップクラスじゃないかな。
同じボッサでも、Jacinthaのアルバムは野趣溢れる感じでしたが、こちらはもっとスッキリとクリーンな感じ。開放的な空間、広い石造りの床を敷き詰めた場所の夜、ちょっとヒンヤリとした雰囲気の音場が生まれます。音数が驚くほど多く、ひとつひとつの音像もシャープ。しかも表情が深い。残響は短めでスッと音は消えていくけれど、消え際で粘るので、すっきり感がありながら、決して寂しさを感じません。実に絶妙に爽やかさと豊かな音場空間をバランスさせている。
ただ、そうした質感はCD層になると、ちょっと後退してしまう。さらにヘッドフォンで聴くと、これがなぜだか、良さが全然出てこない(悪い音じゃないんですけど)。さらに圧縮音楽となると、普通の録音と変わらないレベルになってしまいます。
それだけ微妙で繊細な味付けの録音と言うことなのかもしれません。このSACDの音がつまらないと感じたなら、システムの性能を疑った方が良いかも。そうした意味では、オーディオのチェックディスクとしても優秀ですね。
・Estrella Morente 「Mujeres」
ちょっとマニアックですが、僕は結構、フラメンコが好きです。中でもお勧めがこの人。 Estrella Morente。ちょっと攻撃的な、強い発声をするフラメンコ歌手が多い中で、彼女の歌は滑らかで、とっても心地よい。しかも、カラッと乾いた感じで、これまた涼しげなんです。
彼女を知ったのは、映画のVolver。アルモドバル監督のこの映画で、ペネロペ・クルスが涙を目に溜めながら、亡き母を想いつつ熱唱する「Volver」は、実は彼女の吹き替えで、このアルバムに収められています。
ご存じない方は、こちらで歌のシーンをどうぞ。
●ちょっと長くなったので、簡単にあと3枚
寝る前にちょっとだけ書こうと思ったら、ずいぶん長くなってしまいました。
ということで、あと3枚ほど、本当に簡単に。
まずはRickie Lee Jonesの「浪漫」。定番CDの1枚なので、当然、知っている人も多いでしょう。1曲目の"恋するチャック"は、ほとんどの人が耳にしたことがあるのでは。この浪漫の最新リマスター版が、6月に発売になってます。
やっぱりアナログの録音マスターは偉大で、とても鮮度の高い音になっていて驚きました。僕が浪漫を初めて聴いたのはアナログディスク時代ですし、CDを買ったのもずいぶん前。正直、CDの音はあまり良くなかったのだけど、これなら大変に満足。価格も高くはないので、ファンならもう1枚、まだ持っていない人は、リマスター版のこちらをどうぞ。
音が特別良いというわけじゃないけど、昨年来、よく聴いているのがColbie Caillatの「Coco」。癒し系の声、ちょっとカントリーっぽい雰囲気のある楽曲が、僕のストライクゾーンした。同じようなテイストながら、もう少しノリのいいTristan Prettymanも、もちろん、よく聴いています。お勧めは「Hello...x」かな?