広葉樹林の逆襲

皆さんは、次の写真のような光景を見たことないでしょうか?
秋の紅葉のシーズン、
杉やヒノキなど針葉樹林の青々とした山なのに、
その一部分だけ綺麗に紅葉して色づいています。
私は登山をしますので、このような光景は里山等々で非常によく見かけます。
実はこれは、大きな山の変化の結果なのです。
「広葉樹林の逆襲」
といっても差し支えないようなことが山々で起こっているのです。
今回は、それはどういうことかについてお話ししましょう。
第2次世界大戦後の日本は、焼け野原からの復興を急いでいました。
住宅を建て、電柱を立て、坑木を確保し、紙をつくる。
そのために大量の木材が必要だと考えました。
そこで各地の山々では、かつて広がっていた広葉樹林が伐られ、代わりに成長が早く、建材として扱いやすいスギやヒノキといった針葉樹が一斉に植えられました。
山は"自然豊かな森から管理された森"へとその姿を変えていきました。
なぜ針葉樹林が選ばれたかは、実際に杉やヒノキの森をみるとすぐに判ります。
・まっすぐ並ぶ人工林
・効率よく育て、効率よく伐ることが出来る
それは高度経済成長を支えた合理的な選択でした。
林業の衰退と、静かな放置
しかし時代は移ります。
安価な輸入材が市場を席巻し、国内林業は急速に縮小しました。
間伐されるはずだった人工林は手入れをされず放置され、
光の届かない暗い森になり、
根の浅いスギ林は強風や豪雨で倒れやすくなりました。
倒木、土砂崩れによって山は急速に荒れてゆきました。
ところが、自然は、そこから動き出したのです。
倒れたあとに芽吹くもの
倒木や崩落によって森に光が差し込むと、
地中で眠っていた種子や、周囲から運ばれた種が芽を出します。
それが広葉樹です。
コナラ、ミズナラ、ブナ、カエデ。
ゆっくりと、しかし確実に森を取り戻していきます。
元々日本は、広葉樹林が豊かでしたから、当然と言えば当然の結果です。
そして、広葉樹林は多層構造をつくります。
高木、亜高木、低木、草花たち。
さらに、落ち葉は腐葉土となり土壌を豊かにします。
単一樹種の人工林よりも、
はるかに多様で、はるかに複雑な生態系が復活するのです。
これが、まさに広葉樹林の逆襲です。
森が豊かになると、何が起こるか
森が多様になると、
・木の実の増加
・昆虫の増加
・小動物の増加
が起こります。
続いて、それらを捕食する大型の動物たちも増えてゆきます。
例えば、鹿や熊などです。
近年、彼らの個体数増加や人里への出没が話題になりますが、
背景には単純な「里山がなくなった」「動物が人慣れした」という話ではなく、
森そのものの質の変化があると考えるのが自然でしょう。
広葉樹林は実りの森です。
ドングリはクマの重要な食料です。
下草や若木はシカの餌になります。
森が豊かになれば、
当然ながら、そこに生きる動物も増えるのです。
逆襲は、誰の物語か
戦後、日本は経済合理性で森を塗り替えました。
しかし半世紀以上の時間を経て、
自然は静かに元の姿へと戻ろうとしています。
人間の都合で単純化された森が、再び複雑さを取り戻す。
それは災害の一因にもなり、
動物との軋轢にもなり、
しかし同時に、生態系の回復でもある。
広葉樹林の逆襲とは、
自然が時間を味方につけた再編成の物語なのかもしれません。
今後の我々の自然との付き合い方において、このポイントを忘れないことが重要です。