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金融政策パンフレットにみる「専門家の説明責任」の果たし方

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プロセスデザインエージェントの芝本秀徳です。

きょうは「専門家の説明責任」という話です。

■ 説明責任は専門家にある
セミナーやコンサルティングでよくお話することに「専門家の説明責任」ということがあります。

デスマーチをなくし、プロジェクトを成功させるには、現場からのボトムアップだけでは限界があります。経営層、マネジャー層が、プロジェクトというものへの理解がなければ、本人はそう思っていなくても、無茶な要求、不可能な要求をしてしまう。それは、品質、納期、人、必ずどこかにしわ寄せがいきます。

しかし、それはどんな分野の専門知識でも同じことです。知ってもらう努力を専門家がしなくてはならない。説明責任はプロの側にあります。だからこそ、現場は説明できる言葉を持たなければならないのです。

■ 一橋大学の齋藤誠教授のパンフレット
この「専門家の説明責任」の果たし方として模範となる姿に、昨日触れることができました。

先週、衆議院が解散し、総選挙モードの突入しました。その中で、安倍晋三氏が、国債の日銀引き受けを言及し話題になっています。野田首相は「中央銀行の独立性を損なう」と批判しています。しかし、経済学に素人の私たちには、どちらが妥当な政策なのか、判断がつきません。

そんなことを考えていたときに、たまたまツイッターで見つけたのが、一橋大学の齋藤誠教授が公開したパンフレット『なぜ、無制限の金融緩和が私たちの経済社会にとって有害なのか?』でした。パンフレットの趣旨にはこうあります。

本パンフレットでは、基本的な金融理論を用いながら、金融緩和政策のメカニズムを、 たとえば、高校生でも理解できる程度に噛み砕いて説明をしていく。金融政策は、無謀な 論争にもみくちゃにされ、きわめて複雑な、時には怪奇な経済政策であるとの印象を与え てきたが、本来、筋の良い理論に基づいていて、議論のステップも無理なく進むことがで き、素直に考えられる人であれば自然に理解することができるたぐいのものである。

つまり、経済学に素人の私たちでも、判断基準を持つことができるように、このパンフレットを書かれたということです。

■ 読んでみた
私の理解の範囲でまとめると、

●支払い手段として必要とされる日銀券の規模は、名目GDPのせいぜい8%(=40兆円程度)で、発行残高は80兆円に達している。
●日銀券発行残高が、必要量の2倍になっているのは、ゼロ金利だったために、タンスや企業の金庫に眠っているから。
●すでに必要量の2倍に達している日銀券という手段では、日銀は資金を調達できない。
●日銀が資金を調達するには、民間銀行が日銀にお金を預ける準備預金を使うしかない。
●金融政策として日銀が民間銀行から国債を買ったとしても、民間銀行の資産が、国債から準備預金に振り返られるだけで、市場の資金循環にはまったく影響しない。(日銀と民間銀行で資金が一巡しているだけ)
●これは日銀が国債市場から国債を買い入れる場合も同じことが起きる。
●無制限の金融緩和政策を行なっても、ゼロ金利環境であれば、実体経済に影響はない。しかし、金利が上がりはじめると、日銀は金利の分の資金も調達しなくてはならなくなり、そのコストで破綻に近づく可能性がある。
●仮に紙幣を市場に無理矢理押し込んだとしても、支払い手段として必要とされる紙幣量は、名目GDPの8%だから、現在の紙幣発行残高80兆円だけでも、1000兆円の経済規模が必要となる。生産活動が一定だとすると、これはマイルドなインフレなどではなく、ハイパーインフレとなる。

もっと平たくいうと、

●日銀券による資金調達はもうムリ
●国債を買っても、民間銀行の資産項目が変わるだけ
●金利が上がりはじめると金利分の資金調達コストで破綻に近づくかも

つまり、

「何もいいことはない」

ということだと思います。

■ 「わかってくれない」という前に
「高校生でも理解できる程度」とありましたが、経済学の知識のない私は、読むのに少し時間がかかりました。しかし、16ページの資料のなかに、大切なところは繰り返し強調し、頑張れば読めるというところまで噛み砕かれ、丁寧に書かれています。

日本を代表する経済学者が、このようなパンフレットをつくる。これは大変な労力だと思います。見返りは何もありません。しかし、これこそが「専門家の説明責任」だと思うのです。

「わかってくれない」「もっと勉強してくれ」という話をよく聞きます。その気持ちは痛いほどよくわかります。しかし、それをいう前に、説明する、わかる手段を提供すること。それが専門家のつとめだと思うのです。

このパンフレットは、あらためてそのことを教えてくれました。

貴重な資料だと思います。ぜひ読んでみてください。

『なぜ、無制限の金融緩和が私たちの経済社会にとって有害なのか?』

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