部下の思考力を高めるマネジャー、奪うマネジャー
こんにちは、プロセスデザインエージェントの芝本秀徳です。
「部下が指示待ちばかりして困る」
「部下が自分の頭で考えない」
プロジェクトマネジャーや、部下を持つ上司にありがちな悩みです。しかし、部下やメンバーの「自分で考える力」を奪っているのは、当のマネジャーや上司であることも多いのです。
■ メンバーの思考力を奪うマネジャーの反応
メンバーから相談を受けたときに、やってしまいがちな反応が、
・「このようにしろ」と細かい指示を与える
・「そんなことは自分で考えろ」と突き放す
・「任せた」と丸投げする
・「そんなやり方じゃダメだ」と否定する
といったものです。
これらはすべて、メンバーの思考力を奪う反応です。
細かい指示を与えるということは「答え」を与えているのと同じです。答えを与えてくれるのであれば、はじめから聞けばいいということになります。「自分で考えるな」と言っているのと同じです。
また、「自分で考えろ」「まかせた」と言えば、自分で考えると思われるかもしれませんが、わからないから相談にきているのです。それなのに「自分で考えろ」と言われたり、「任せた」と丸投げされれば、「おれには聞くな」と言っているのに等しいのです。別の誰かに聞きにいくだけです。
さらに、「こうしようと思うんです」と自分なりの答えを持っていったのに、それを頭ごなしに否定されれば、「じゃあ、始めから指示してくれ」と思うのも無理はありません。せっかく自分に考えようとしているメンバーの可能性を奪ってしまうことになります。
■「問いかけ」で思考を導く
メンバーから相談を受けたときに、どのように反応するかで、メンバーの思考力の伸びはまったく違ってきます。
メンバーの思考力を高めるマネジャーは、考えるプロセスを踏ませます。メンバーも自分で考えていないわけではないのです。思考の整理ができていないのです。思考力を高めるためには、思考が整理できるよう導いてやればいいのです。
思考を導くために、有効なのが「問いかけ」です。
メンバーの多くは、目の前の仕事にとらわれがちです。そのため、筋道を立てて整理することができていないことがよくあります。一方でマネジャーは、メンバーよりも一段高いところからプロジェクト全体を見ることができます。マネジャーは、自分が見えている「全体像」と、メンバーの仕事との関連性が見えるのです。その視点から、メンバーに問いかけることで、メンバーの思考を導き、思考力を養うのです。
さらに「問いかけ」は、メンバー自ら「選択する」ことを促します。人は言われてやる仕事にはどうしても「やらされ感」がでます。しかし、自ら考え、自ら選択したことは、「自分ごと」として取り組むのです。同じことをするとしても、やらされるのと、自ら選んでするのとでは、取り組み方がちがってくるのです。
■ 思考を促す5つの質問
では、具体的にどのように「問いかけ」をすればいいのでしょうか。ここでは、拙著『マネジャーのジレンマ』で紹介した、「部下の思考を高める5つの質問」を紹介します。
(1)「〜さんはどうしたいの?」
メンバーは、自信がないとき、迷っているときは「どうすればいいでしょうか」と聞いてきます。それなりに考えがあっても、考えが整理できていないのです。そういうときは「◯○さんはどうしたいの?」と問いかけることで、思考を整理しはじめることができます。
(2)「その意図は?」
メンバーが「こうしたいと思います」と言ってきた場合は、「その意図は?」と、その手段をとる理由、意図を尋ねます。たとえ、その手段に問題がなく、それでいいと思っていても尋ねるのです。たとえ、手段としては合理的であっても、理由・意図が答えられないならNGです。考えずに反射的に対応しているからです。それでは、状況が変わったときに対応できません。意図を尋ねられることがわかると、メンバーはつねに根拠を考えるようになります。
(3)「そうしたら、どうなると思う?」
メンバーが提案してきた方法が、あまりよい手ではなかったとき、「それではだめだ」と頭ごなしに言ってしまっては、メンバーは考えることをやめてしまいます。マネジャーが、よい手ではないと判断したということは、何手か先を読んでいるはずです。頭ごなしに否定するのではなく、「そうしたら、この先どうなるか?」を問うことで、自分で判断できるように導きます。
(4)「ほかにもっといい方法はない?」
人はなにか解決方法を思いつくと、それにこだわってしまいます。他にもっといい方法があるかもしれないのに、考えることを止めてしまうのです。解決方法は複数出し、比較しなければ、判断できません。たとえ、その方法がベストだと思えても、「ほかにないか?」を問うことで、思考を深めることができます。
(5)「〜さんはどう思う?」
これは、相談をしにきた当事者ではなく、周りに対する問いかけです。周りは自分のことではないと思っているかもしれませんが、すべての問題はチームで共有しなければなりません。他人事ではないのです。そこで周りのメンバーに「◯○さんはどう思う?」と聞くのです。問いかけられれば、「自分ごと」として考え始めます。そうすれば、その後も「あれ、どうなった」と気にかけるようになるのです。
■ 思考力は仕事で上げる
思考力を高める材料として、ロジカルシンキング、クリティカルシンキングなど、たくさんの講座や書籍がありますが、あらゆるスキルは「プロセス」を伴わなくては身につきません。テクニックだけ学んでも使えないのです。普段の仕事はまさに「プロセス」を伴った学習です。その学習効果を高めてあげるのも、マネジャーの役割の一つです。