「Stay Hungry. Stay Foolish.」『スティーブ・ジョブズI』
YouTube: スティーブ・ジョブス 伝説のスピーチ 1/2
Stay Hungry. Stay Foolish.
これが、スティーブ・ジョブズが2005年春に米スタンフォード大学の卒業式で行ったスピーチの最後を締めくくる言葉でした(※1)。これを『スティーブ・ジョブズ』を単独で訳した井口耕二さん(※2)は、
「ハングリーであれ。分別くさくなるな」
と訳しています(107ページ。ルビは「ステイ・ハングリー ステイ・フーリッシュ」)。
この訳、実によいではないですか。ここで他の本などでよく見かける
「ハングリーであれ。愚か者であれ」
などとやられると、どうもピンときません(自分だけでしょうか…)。通常、日本語で「愚か者」というのは、ならず者(アウトロー)とまではいかないけれども、かなり悪い意味で使うように思います。これから社会に出て行く大学生に向かって「愚か者でいこう!」というのは、やはり無理がある。ここは井口さんの訳が自然でしょう。
念のため、foolish を辞書で調べてみたところ、ランダムハウス英語辞典では次のように説明されてました。
【foolish】思慮分別[判断力]のない,愚かな,ばかな;深慮[用心]に欠ける
また、オンライン英英辞典の WordNet では次のとおり(※3)。
(adj) foolish (devoid of good sense or judgment) "foolish remarks"; "a foolish decision"
というわけで foolish とは、「正しく判断できなかったり、世間の常識から外れている」ことなわけですが、その世間の常識や既成概念にしばられてはいけない。日常に甘んじることなく(hungry)、そういう気持ちを持ち続けてほしい。そういう意味合いのことを、ジョブズはこれから世に出る卒業生たちに言いたかったのでしょう。こう考えないと、このスピーチの中でも「自分の心と直感を信じてほしい」と述べているのですから、話が合わなくなります。
最後に、「クレージーな人たちがいる 反逆者、厄介者と呼ばれる人たち」で始まる、有名な Think different.キャンペーンのテレビCMをあげておきます。ジョブズの頭の中(=イデア界と言ってもいいでしょう)では、フーリッシュもクレージーもジーニアスも、同じ地平にあるものなんだろうな。そう思います。
- クレージーな人たちがいる 反逆者、厄介者と呼ばれる人たち 四角い穴に丸い杭を打ちこむように 物事をまるで違う目で見る人たち 彼らは規則を嫌う 彼らは現状を肯定しない 彼らの言葉に心をうたれる人がいる 反対する人も 賞賛する人も けなす人もいる しかし、彼らを無視することは誰にもできない なぜなら、彼らは物事を変えたからだ 彼らは人間を前進させた 彼らはクレージーと言われるが、私たちは天才だと思う 自分が世界を変えられると本気で信じる人たちこそが 本当に世界を変えているのだから Think different.
YouTube: Apple CM Think different. Japanese 60sec. ver.
【関連リンク】
イノベーターのDNAを受け継ぐために 【必読ジョブズ本3冊】|エディテック
http://blogs.itmedia.co.jp/editech/2012/01/dna-df83.html
NHK「スティーブ・ジョブズの子どもたち」2012年1月6日深夜放映|エディテック
http://blogs.itmedia.co.jp/editech/2012/01/nhk201216-4d1f.html
※1 Stay Hungry. Stay Foolish. の引用元は、60年代のカウンターカルチャー(ヒッピー世代)のバイブル Whole Earth Catalog。その最終号の裏表紙に記載されていた。
- ● Whole Earth Catalogのウェブサイト
http://www.wholeearth.com/
どうもカウンターカルチャーがはやっていた頃の時代の雰囲気がわからないので、どうして Whole Earth Catalog がバイブル視されるのかよくわからないのですが、そのあたりの雰囲気を知るのによい本を Stylish Idea の新井宏征さんに教えてもらいました。特に第2章と第3章は Whole Earth Catalog と、その発行者のスチュアート・ブランドについて詳しく書かれています。
『ウェブ×ソーシャル×アメリカ <全球時代>の構想力』(講談社現代新書)
http://www.amazon.co.jp/o/ASIN/4062880938/
同書の書評としては、やはりyomoyomoさんの読書記録を読んでおきたいところ。
http://www.yamdas.org/booklog/websocialamerica.html
- 【目次】
プロローグ
第1章 ウェブの現在
第2章 スチュアート・ブランドとコンピュータ文化
第3章 Whole Earth CatalogはなぜWhole Earthと冠したのか
第4章 東海岸と西海岸
第5章 Facebookとソーシャル・ネットワーク
第6章 アメリカのプログラム
第7章 エンタプライズと全球世界
第8章 Twitterとソーシャル・メディア
第9章 機械(マシン)と人間(ヒューマン)
エピローグ
※2 井口耕二(いのくち こうじ)さんのブログはこちら。
『スティーブ・ジョブズ』の翻訳秘話が読めます。必見です。
Buckeye the Translator:スティーブジョブズⅠ・Ⅱ』の翻訳について-その1〜6
http://buckeye.way-nifty.com/translator/
※3 WordNet。プリンストン大学が開発した語彙データベース
http://wordnetweb.princeton.edu/perl/webwn