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フォントの二次利用制限が電子書籍の普及を阻害する?

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ブログ「日々の戯言をポツリポツリ。」のエントリーでフォントの二次利用(=商用利用)について書かれていました。

電書業界にフォントメーカーから冷水BUKKAKE祭り|日々の戯言をポツリポツリ。[2012-02-23]
http://gainersanga.posterous.com/bukkake

上記ブログでは既知の問題についても書いてありますが、出版業界の片隅にいる者としておさえておきたい情報もありました。以下、備忘も兼ねて、フォントの二次利用(商用利用)に関する基礎知識としてまとめておきます。

商用フォントを使った印刷物等を販売できるかどうかは、そのフォントの使用許諾契約次第である
 →ニィス、ダイナコムウェアはライセンス対象外(ただし、追加料金を払えば利用可能)。新たにライセンスを取得する手間(およびコスト)が生じるので、商業印刷での使用は避けるべきと言われている。
電子書籍(PDFなど)も上記の「印刷物等」に含まれる
 →追加料金を支払わずにフォントを電子書籍に二次利用できるかどうかは使用許諾契約次第。特に、古くからあるフォントだと電子書籍などの新しいフォーマットについて言及されていないことがあるため、フォントベンダーに問い合わせる必要がある。

そして、電子書籍におけるフォントの利用形態としては、以下3つが代表的です。

1. 画像として使用(印刷物のスキャンデータ、画像形式のPDFを含む)
2. 文字をデータとして使用(フォントが埋め込まれたPDFが代表的)
3. フォントファイルの同梱(フォントをバンドルしたEPUBが代表的)
 →これはさらに2つに分類できます。
  a. フォントのサブセット(使用しているフォントのみ)を同梱 
  b. フォントのフルセット(すべての字体=フォントファイルそのもの)を同梱

特に3番目のものは、電子書籍出版に関わっている人には悩ましい問題となっています。それは、いわゆる「EPUBのZIPファイルからのフォントぶっこ抜き」で、「フォントの難読化」といった対応策が検討されています。
注記:ここで「ぶっこ抜き」とは、EPUBのZIPファイルから簡単な操作でフォントファイルが取り出せてしまうことを指します。

Open Container Format ファイルへのフォントの埋め込み
http://lost_and_found.lv9.org/FontManglingSpec_ja.html


したがって、既存の印刷物を電子書籍として販売できるかどうかは、フォントベンダーがフォントの二次利用をライセンス対象と認めている場合のみ、ということになります。これはまあ当然の話で、先のブログの末尾にあるとおり、

ダイナコムウェアはライセンス条項にこういう事は明示してあって、今まで出版業界が写植の延長線上の意識で使ってきた事の方が寧ろ「脇が甘かった」と言い得るのも確か
です。大事なことなので、大きく書いておきましょう。

二次利用(商用利用)不可のフォントを使った印刷物を販売することはできない

今後制作される印刷物は、フォントのライセンスについてもクリアにしておく必要があります。現在はどんなフォントでもPDFに埋め込めます(埋込み可能フォントはOpenType、CID、TrueTypeの3種類)。このあたりの判断については、制作側でも使用許諾契約書をよく読み、注意しないといけない時代になったと言えるでしょう。

注記:これは業界では当たり前のことだったのですが、一般にはルーズに運用されていることもあるようです。フォントを購入するということは、実態としては「フォントの利用権の取得」を意味しています。利用者(フォントの購入者)はその利用権を行使して成果物を作成するわけですが、その成果物(商業出版物、有料の同人誌など)を販売できるかどうかは「フォントの二次利用(商用利用)」が認められているか否かにかかっています。商用利用が認められていないけれども、どうしてもそのフォントを使いたいという場合は、フォントベンダーと契約を結び、追加でライセンス料金を支払うことになります。

やっかいなのは、古い印刷物を電子書籍にする場合です。商業印刷物では複数のフォントベンダーのフォントを使うことは珍しくありません。そのような場合に、画像としてしか使ってはならないフォントを使っていた場合、フォントを埋め込んだPDFを販売することはできなくなります。元のDTPデータがあればいいのですが、出版後ずいぶん経ってから、DTPデータがない状態でそのフォントがどこで使われているかを判別するのは困難です(もちろん、できないとは言いませんが…)。

先のブログで参考になるのは、各フォントベンダーの違いなどについてでしょうか。かんじんのモリサワについては「モリサワ(判断明示無し)」となっていましたが、このような記述になるのはモリサワの情報提供が不足しているためでしょう。フォントワークスのように、電子書籍での判断基準を示していただきたいものです。


[追記 2012-02-27]
ブログ「実験る〜む」のエントリーでコメントを頂きました。重要な指摘がありましたので、追記でご紹介します。全文は下記リンクをご参照ください。

電子書籍の二次利用だけが問題かどうかはオリジナルの許諾文書を読んで判断しよう|実験る〜む
http://dslabo.blog4.fc2.com/blog-entry-2107.html

かいつまんで言うと、本エントリーでは「ダイナフォントとニィスフォントとともに一括りにしてしまって」いましたが、正確には、各フォントがどのように商用利用できるかは異なり、「十把一絡げで扱うことは無理」ということです。たしかにご指摘どおりで、少々配慮が漏れておりました。

一点だけ指摘しておきたいことがあります。「実験る〜む」では、ダイナフォントのケースについて、以下のように記述しています。

簡単にまとめると「紙媒体であれば、個人・商用印刷は問わない。ただし電子データを直接頒布・販売するような場合は別ライセンスが必要」。

これはダイナフォントのFAQの記述が(実に)よくないのですが、実際にはダイナフォントも各パッケージによって利用条件はいろいろです。たとえば「DynaFont Type X TrueType 150 for Macintosh」の使用許諾契約書はこうなっています。

第1条 使用条件の第2項
お客様は、本ソフトウェアを非商用(個人使用または団体および企業内で使用することにより、直接的な営業収入を生じない)に限定して使用することができます。
おそらく、ダイナフォントのほかの格安フォントも同様の記述になっていると思います。したがって、ダイナフォントは「紙媒体であれば、個人・商用印刷は問わない」というわけではないのでご注意ください。


商用利用について |ダイナコムウェア サポート・FAQ
http://www.dynacw.co.jp/support/tabid/221/faqid/6/faqcatid/88/Default.aspx

上記のダイナフォントのサイトでは

パッケージの使用許諾範囲に含まれる代表的な使用方法は「紙媒体への印刷(チラシ・広告等の商用印刷物含む)」や、「パッケージをご購入の方のホームページ内のみでの使用(法人も含む)」、「家庭内など個人で楽しむ映像作品」などとなります。

と記載されていますが、ここには「フォントの代表的な使用方法」のひとつとして「商用印刷物を含む紙媒体への印刷」があると書いてあるだけで、当該フォント(購入したフォント)が商用利用可能かどうかは使用許諾契約書を見ないとわかりません。

使用許諾について |ニィスフォント ライセンス
http://www.nisfont.co.jp/licence/index.html"


[追記 2012-02-28]
スラッシュドット・ジャパンでも話題になっていました。コメント欄は参考になりそうです。
 
電子書籍におけるフォントライセンス問題|Slashdot/j
http://slashdot.jp/story/12/02/27/0546225/電子書籍におけるフォントライセンス問題


────────────────────────────────

商業利用に関して | フォント製品 | 株式会社モリサワ
http://www.morisawa.co.jp/font/products/terms/commercialUse.html

モリサワフォントの商業利用に関して
弊社のフォント製品を商業利用する場合、下記内容および条項をご参照ください。
デジタルフォントを商業利用する場合、フォント料金とは別に使用許諾料金を設定しているフォントベンダーが多くありますが、モリサワフォントでは、各フォントのユーザライセンス契約の範囲であれば、特別な契約およびそれに伴う使用許諾料を別途に必要と致しません。

商業利用例
1) 印刷物での頒布
2) テレビ等でのテロップ・フリップ表示(映像等の表示も含む)
3) ゲームソフトでの表示および頒布
4) ビデオ、DVDでの表示および頒布
5) インターネットでの表示および頒布
6) 印鑑、スタンプ等の作成および頒布

電子書籍におけるフォントの使用許諾範囲(PDF)|フォントワークス
http://fontworks.co.jp/news/data/LETS_eBookLicense.pdf

電子書籍におけるLETSフォントの使用許諾範囲(フォントワークス)

文字/フォントの使い方FWイワタTB白舟
画像として使用
雑誌やマンガから小説まで幅広く利用されている形式で、紙媒体と同じページ単位のレイアウトデザインで表示させる。
×*2
文字をデータとして使用(固定レイアウト型)
小説や辞書など文字メインのコンテンツで利用される形式で、作り手が指定した書体で表示させる。ただし、読み手が文字サイズや行間などを変更できない。
×*2
文字をデータとして使用(可変レイアウト型)
小説や辞書など文字メインのコンテンツで利用される形式で、作り手が指定した書体で表示させる。さらに、読み手が文字サイズや行間などを変更できる。
×*2
文字をデータとして使用(可変レイアウト型)
小説や辞書など文字メインのコンテンツで利用される形式で、作り手が指定した書体で表示させる。さらに、読み手が文字サイズや行間などを変更できる。
×*2●*1
動画のテロップとして使用
コンテンツ内に動画を組み込む際に、字幕テロップとして文字情報を表示させる。
×*2
フォントデータの組み込み(バンドル)
注意:フォントデータ自体の組み込みはフォントの使用許諾の範囲外となります。OEM案件として別途ご相談ください。
×*3×*3×*3×*3
FW=フォントワークス TB=タイプバンク
▲=タイプバンクへご相談ください ●*1=別途契約書が必要なためタイプバンクへご相談ください
×*2=別途使用許諾が必要なためイワタへご相談ください ×*3=OEM案件として各社へご相談ください

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