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イノベーターのDNAを受け継ぐために 【必読ジョブズ本3冊】

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ジョブズが亡くなって90日経った。
たった90日なのに、なんだかものすごく時間が過ぎたような気がする。
あの有名なフレーズ "One More Thing" (あともうひとつ)が聞けないのは本当にさびしい。
ジョブズ・ウェイ
仕事納めのあと、読みかけだったジョブズ本を2冊読み終えた。
これまでいろいろな本でおおよそのことを知っていたつもりだったが
本人の声が聞こえてきそうな『スティーブ・ジョブズ I・II』、
そしてジョブズ側近が書いた『ジョブズ・ウェイ』を読んで
いろんなエピソードが有機的につながり、おこがましい言い方ではあるが、
人間としてのジョブズが少しはわかってきたように感じた(※1)。

ジョブズは自己愛性人格障害(『ジョブズ I』408ページ)だったかもしれないが、それは次のジョブズの発言に見られるような時代の流れとあいまって、完璧な製品「ホールプロダクト」(『ジョブズ・ウェイ』240ページ以降)へと昇華した。

「いまの学生は理想論を考えることさえしない。少なくとも、そうは感じられない。哲学的な問題についてじっくり悩んだりせず、ビジネスの勉強に打ち込んでいるんだ」
 自分の世代は違ったとジョブズは主張する。
「僕らは60年代の理想主義的な風をいまも背中に感じているし、僕くらいの年代の人は、その風をずっとまとっている人が多いと思う」
 (『ジョブズ I』179ページ)

ときどき「次のジョブズは誰か?」というような記事を見かける。
それはあり得ない話だと思う。
自己愛性人格障害で、禅に傾倒し、「LSD はすごい体験だった。人生でトップクラスというほど重要な体験だった」(『ジョブズ I』83ページ)と言ってのける人間だ。さらに、カリグラフィーにも詳しくなければならない。そんな人間はこの世に存在しない。

もちろんわかっている。ジョブズ本人になる必要はない。
大切なのは、ジョブズの理想を継承し、イノベーションを実現する組織を作れるかどうかだ。
それはアップルだけの専売特許ではない。アップル以外の者たちが実現してもよい。
イノベーターのDNA は、ジョブズが生み出した製品たちによって世界に蒔かれた。
「こんな製品を生み出したい、超えたい」と思う人間は多いはずだ。
Dna
イノベーターに関して、はずせない一冊がある。それはクレイトン・クリステンセンの『イノベーションのDNA 破壊的イノベータの5つのスキル』だ。クリステンセンは大病(糖尿病、心臓発作、ガン、脳卒中)を抱えながら共著者とともに本書を書き上げた。

本書では傑出したイノベーターの一人として、スティーブ・ジョブズが頻繁に登場する。当然ながら、アップル製品(iTunes、iPhone、iPod、iPad など)の事例も多数登場する。そして、ジョブズが是としてものを俎上にあげ、検討を加えている。

たとえば、ジョブズは「アップルはつねにAプラス級の人材を求める」「B級をひとり雇ったとたん、B級やC級の仲間がくっついてやってくる」(『ジョブズ・ウェイ』96ページ)と言う。これに対して、クリステンセンは次のように指摘する。

秀才や天才には大きな力があると、ほとんどの人が本能的に信じこんでいる。だが個人が組織の業績を高めるだけではない。プロセスや哲学を含む組織の力も、人材が優れた成績を上げるのに欠かせないのだ。イノベーション・プロセスと経営資源次第で、B級の人材をA級に変えられるし、もちろんその逆もあり得る。
 (『イノベーションのDNA』221ページ)

単純な話だ。

人は天才にはなれないかもしれないが、環境や教育次第でA級の人材になれる。

これはほんの一例にすぎない。『イノベーションのDNA』は慧眼にあふれている。今後のイノベーション戦略、人材育成、リーダーシップ論には欠かせない書籍となるだろう。また、第一級のジョブズ本としてもお勧めしたい。


※1 人間ジョブズを知るには、実妹モナ・シンプソンの追悼演説も読んでほしい。
A Sister's Eulogy for Steve Jobs BY Mona Simpson, New York Times
市村佐登美さんの翻訳はこちら:
http://longtailworld.blogspot.com/2011/11/sisters-eulogy-for-steve-jobs.html


スティーブ・ジョブズI  スティーブ・ジョブズII

スティーブ・ジョブズ I』ウォルター・アイザックソン著、井口耕二 訳、講談社、2011
 http://www.amazon.co.jp/dp/4062171260/
スティーブ・ジョブズ II』ウォルター・アイザックソン著、井口耕二 訳、講談社、2011
 http://www.amazon.co.jp/dp/4062171279/
ジョブズ・ウェイ 世界を変えるリーダーシップ』ジェイ・エリオット、ウィリアム・L・サイモン著、中山 宥 訳、ソフトバンク クリエイティブ、2011
 http://www.amazon.co.jp/gp/product/4797362286/

イノベーションのDNA 破壊的イノベータの5つのスキル』(Harvard Business School Press)
(原題 The Innovator's DNA: Mastering the Five Skills of Disruptive Innovators)
クレイトン・クリステンセン、ジェフリー・ダイアー、ハル・グレガーセン著、櫻井祐子 訳、翔泳社、2012
 http://www.amazon.co.jp/gp/product/4798124710/

『イノベーションのDNA』に登場する主な著名イノベータ:スティーブ・ジョブズ(アップル)、ジェフ・ベゾス(アマゾン)、ピエール・オミダイア(イーベイ)、スコット・クック(インテュイット)、ハーブ・ケレハー(サウスウエスト航空)、マーク・ベニオフ(セールスフォース・ドットコム)、マイケル・デル(デル)、デイビッド・ニールマン(モリスエア、ジェットブル)

【目次】
本書を推薦する言葉
日本語版刊行によせて

序章
第一部 破壊的イノベーションはあなたから始まる
 第一章  破壊的イノベータのDNA
 第二章  発見力 その1 ── 関連づける力
 第三章  発見力 その2 ── 質問力
 第四章  発見力 その3 ── 観察力
 第五章  発見力 その4 ── ネットワーク力
 第六章  発見力 その5 ── 実験力
第二部 破壊的組織/チームのDNA
 第七章  世界で最もイノベーティブな企業のDNA
 第八章  イノベータDNAを実践する ── 人材
 第九章  イノベータDNAを実践する ── プロセス
 第一〇章 イノベータDNAを実践する ── 哲学
結論 ── 行動を変え、思考を変え、世界を変えよ

付録A  インタビュー対象者のイノベータのサンプル
付録B  イノベータDNA研究手法
付録C  発見力を磨く

謝辞
訳者あとがき

索引

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追記
『スティーブ・ジョブズ I・II』と『ジョブズ・ウェイ』に書かれていないけれど、重要だと思う点について:

『スティーブ・ジョブズ I・II』で不満なのは、製品の技術的側面についてほとんど書かれていない点だ。それは伝記作家としてのウォルター・アイザックソンが技術面に詳しくないためだと思うが、技術的詳細を書いても一般読者にはよくわからないはず、という判断もあるのだろう。『ジョブズ・ウェイ』のほうでは、わずかに技術的な事柄について書かれているが、名称を出す程度のものだ。

たとえば、グーテンベルクの印刷革命並みのイノベーションであった Macintosh+LaserWriter(印刷エンジンはキヤノン製)は DTP(デスクトップパブリッシング)を実用のものにした。しかし、これはハードウェアの側面しか見ていない。アドビ社の PostScript(ポストスクリプト)がなければDTPの立ち上がりはもっと遅れたはずだ。

NeXT に搭載されているOSはNEXTSTEPと呼ばれ、カーネギーメロン大学の Mach(マーク)マイクロカーネルをコアに持つUNIX OSだ。マルチプロセッサや仮想記憶のサポートなど、当時としては先進的な機能が組み込まれていた。さらに、NEXTSTEPは Display PostScript を搭載し、今のMac OS Xと同じように高細度のフォント表示を可能にしていた。1980年代末期(Windows 2.1の時代)にあって驚異的な技術力だった。とにかくもう、ジョブズの行く先々には最先端が待ちかまえているのだ。

これらの本に書かれていないこととして、もうひとつ挙げておきたいのは Boot Camp(ブートキャンプ)だ。これは Intel Mac において Windows の起動を可能とする機能だが、普通に考えれば Mac でジョブズが忌み嫌う Windows の利用を許すのは変だと気づくはずだ。これには、「今後もマイクロソフトに Mac 用 Office 製品を供給してもらいたい」という契約(口約束?)があったと見るのが妥当だろう。この件に限らず、現在進行中のもの(現在搭載されている機能)については書かれていない。これらについては、今後の楽しみとしておきたい。

Comment(2)

コメント

TETSU

クリステンセンは好きなのでこれは読まねば・・・ジョブスは若い頃の印象が強いけど、Appleに復帰した頃には性格もだいぶ変わっていたようですね。若い頃無茶ばかりしてた人も、30代を過ぎて家族を持てば変わるのが普通ですから(自分の周りも大きく変わった人いるし、髪型もw)

Marchは当時は先端的な技術だったので解説本など読んだ記憶あるけど、RISCとCISCはCPUのことなのでここでは違うのでは?
当時はCPUのスペックも今と比べるとすっごく低く、マイクロカーネルはまだまだ効率が悪かったという話もありましたが、今では携帯もマルチコアになるぐらいで、時代がマイクロカーネルに追いついた感じもありますね。
マイクロカーネルのメリットとして、Intel CPUへの変更も順調に出来たし、ARMへの移植も簡単に出来たのでしょうね。逆にLinuxのカーネルは肥大化してきて最近はちょっと大変になってきた印象があります。シンプルなカーネルだったのがLinuxの大きなメリットだったんだけど。

川月

TETSUさん、「RISCとCISCはCPUのことなのでここでは違うのでは?」のご指摘ありがとうございます。夜中に書いていたせいか、どうも何かとカン違いしていたようです。失礼しました(本文は修正しました)。

たまたま以下の資料も見つけて読み込んでしまいました ^^;

●Machオペレーティングシステムのすべて 第1回 Machマイクロカーネル
http://www.rtmach.org/publications/transtech-mach-1.pdf

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