オルタナティブ・ブログ > 技術屋のためのドキュメント相談所 >

専門的な情報を、立場の違う人に「分かるように説明する」のは難しいものです。このブログは「技術屋が説明書や提案書を分かりやすく書く」ために役に立つ情報をお届けします。

過度の単純化と分かりやすい演出が誤解を拡大させるワケ

»

こんにちは。ドキュメント・コンサルタントの開米です。

前回書いた「状況・しくみ・不都合・指示」のパターンを、前々回書いた「歯みがき指導」の件に関して応用してみましょう。

まず、小児歯科学会の提言をもとに、歯みがき指導に関する「状況~指示」の基本を確認すると、こうなります。

2015-0508-jsfs1.png

↑これはいずれも大筋で正しいのですが、A4とB4の指示は矛盾するため、両方は実行できません。そこで、どちらがより現実的かという判断が必要になります。

2015-0508-jsfs2.png

↑ということで、通常の食事をした場合にはB1は「当てはまらない」ので、A1~A4のほうを採用しよう、という判断が本来できるはずなのですが、「過度の単純化」があるとそれが難しくなります。たとえばこういうことです。

2015-0508-jsfs3.png

長く抽象的な説明はたいてい嫌われるので、短く具体的な説明をしようとするのは悪いことではないのですが、それも程度問題であって、やり過ぎは良くないのです。

「象牙質が露出した状態」 → こんな専門用語、わかんねえからカット!
「強い酸性の飲食物」 → 要するにコーラでいいんじゃねえの?
「長時間かけて摂取した後は」 → 要するに飲んだ後だろ!

と、「わかりやすい」説明に切り替えた結果、あら不思議

「(C1)コーラを飲んだ後は」

という、とってもよくある状況になってしまいました。

さらにここにマスコミのよくやる「驚きの真相」演出が入ります。
「(B3)酸蝕症を進行させる」なんて、酸蝕症という専門用語じゃ通じるわけがないので「歯が溶ける」という表現をする。そして、「すぐではなく、30分程度待ってから歯みがきをしてください」という意外性のある指示。

2015-0508-jsfs4.png

こういう、ショッキングな演出が可能で意外性があるものは、「ねえねえ知ってる? 昨日の○○番組で・・・」という口コミにのりやすいので、マスコミが使う常套手段なんですね。

実情は、

「歯が溶ける」というショッキングな映像を見せたい → そういう条件の実験をしよう → 象牙質むき出しの歯を90秒も酸性飲料につけ込めばいける → そんな状況、現実には普通あり得ないけど、ま、いっか。視聴率は正義!

・・・・・・というノリでこの演出が決まった、のかどうか、それこそ真相は不明ですが。
真相は不明ですが、こういう手口はよくあるものなので、知っておかないとマスコミに騙されます。

騙されないためにはどうしたらよいかというと、ぶっちゃけ言えば

「わかりにくい説明をきちんと読む、聞く」

ことです。「状況・しくみ・不都合・指示」のうち、とくに「状況」と「しくみ」の部分は長く抽象的・専門的で難しくなりやすいので、過度の単純化、省略、言い換えを行っている場合がよくあります。

そういう場合は、面倒でもできるだけ原典に当たります。原典と言っても素人が専門の論文を読むのはさすがに無理ですが、たとえば今回の歯みがきの件で言えば、TV番組ではなく小児歯科学会はまともな提言を出していました。本当の専門機関の出しているガイドラインであれば、素人向けに書かれていても、誤解を招くような過度の単純化はあまりありません。その分、TV番組よりわかりにくいのですが、残念ながら特に日本の民放TV番組のわかりやすさは、過度の単純化という「嘘」で成り立っている例が非常に多いと私は思います。

ですので、やはりTV局のようなメディアを介した情報ではなく、専門の研究者、機関の出している情報に当たらなければいけないでしょう。

そしてその際、「状況・しくみ・不都合・指示」と分けて考えるとアタマを整理しやすくなることが多いので、今回と前回の記事を参考にやってみてください。実際にやってみてよくわからない場合は、コメントいただくか、開米まで直接twitter やメール、facebookで連絡いただけば、お答えします。

→ 開米へのお問い合わせ先
http://ideacraft.jp/cms/main-contact.html

Comment(0)