オルタナティブ・ブログ > 『ビジネス2.0』の視点 >

ICT、クラウドコンピューティングをビジネスそして日本の力に!

AIデータセンターの通信網でなぜ今「VCSEL NPO」が浮上するのか

»

AIデータセンター内部の伝送速度が1.6Tbps(テラビット毎秒)へ高速化するなか、演算装置間をつなぐ短距離配線の主役が銅線から光へと移りつつあります。その中核技術として、VCSEL(垂直共振器面発光レーザー)を演算チップの近傍に配置する「VCSEL NPO(ニアパッケージド・オプティクス)」が脚光を浴びています。

台湾の調査会社TrendForceが2026年10月8日に発表したレポート「2027 Infrared Sensing and Optical Communication Market Trend」によると、VCSELの世界需要は2025年の9,300万個から年平均成長率38%で拡大し、2031年には6億5,000万個に達すると予測されています。2027年から2028年の商用化に向け、古河電気工業や米Lumentum、米Broadcomなど主要6社が開発を競っています。

今回は、次世代技術の本命と目されてきたCPO(コパッケージド・オプティクス)に対してVCSEL NPOが先行する理由と、主要企業間で分かれる波長戦略の力学について、取り上げていきたいと思います。

銅から光へ、AI配線の進化.png

1.6Tbps世代で限界を迎える銅配線と、光接続への移行を促す物理的制約

AIデータセンターの演算能力を引き上げるスケールアップ(Scale-up)ネットワークでは、多数のGPUやASIC(特定用途向け集積回路)を低遅延かつ広帯域で相互接続する必要があります。これまでサーバー内部やラック内の短距離伝送には、銅線を用いたアクティブ電気ケーブル(AEC)が広く採用されてきました。AECはケーブル内部に複数のリタイマー(信号波形を整形・増幅する中継チップ)を搭載することで、データの損失や信号の減衰を補っています。

しかし、データ伝送速度が1.6Tbpsの世代へと進むにつれて、銅ケーブル上を通る高周波電気信号の減衰が大きく増加します。リタイマーの追加だけでは消費電力の増大や発熱、信号遅延を抑え込むことが難しくなり、従来の銅配線アーキテクチャは物理的な制約に直面しつつあります。

こうした背景から、従来はラック間などの中長距離通信で使われていた光インターコネクト技術を、より距離の短いスケールアップ領域へ導入する動きが加速すると予想されます。短距離光トランシーバーの需要増加に加え、2027年から2028年にかけて複数のVCSEL NPO製品が市場に投入されることで、2031年に向けたVCSEL市場の急拡大を牽引すると考えられます。

理論上の理想を追うMicro LED CPOと、商業化の現実解を握るVCSEL NPO

短距離の光インターコネクト技術としては、VCSEL NPOと並んで「Micro LED CPO」が有力な選択肢として比較されています。両技術ともに、超低消費電力と高密度な伝送を実現するため、多数の発光素子と受光素子を並べたアレイをASICやGPUと統合するアプローチを採っています。

Micro LED CPOは、長期的には1ビットあたりの消費電力を理論限界近くまで低減できる潜在力を持っています。しかし実務面では、微細なLED素子を基板上へ大量かつ高精度に配置するマストランスファー(大量転写)技術の確立や、光ファイバーとの互換性、光結合効率の確保といった課題を抱えています。関連するサプライチェーンも2026年10月時点では発展途上の段階にあります。

これに対しVCSEL NPOは、光学エンジンを演算チップと同一のパッケージ内に封止するのではなく、チップの直近(ニアパッケージ)に配置する構造を採ります。このため、万が一光学部品に不具合が生じた際にも高価なAIチップごと廃棄・交換する必要がなく、保守や運用の柔軟性に優れています。さらに、既存の光通信やスマートフォン向けセンサーで培われた成熟したサプライチェーンを活用でき、1ビットあたりの消費電力と実用性のバランスが取れていることが、データセンター事業者から支持を集める要因になっていると考えられます。

主要6社の開発競争で二極化する「850nm」の経済性と「1,060nm」の将来性

拡大が見込まれるスケールアップ市場の機会を獲得するため、Lumentum、古河電気工業、米Coherent、Broadcom、独・墺ams OSRAM、中国HiSiliconの主要6社が多額の研究開発投資を行っています。ここで注目されるのは、各社が採用するVCSELの波長(技術仕様)が2つの陣営に分かれている点です。

第1の陣営は、Coherent、Broadcom、ams OSRAM、HiSiliconの4社が進める「850nm(ナノメートル)」方式です。実績の豊富な850nm VCSELとフォトダイオードを組み合わせることで、最大3.2Tbpsの総帯域幅を実現します。既存の製造インフラを活かして早期に量産化しやすい利点がある一方、波長分散(光の波長の違いによって伝わる速度がずれる現象)の影響を受けやすく、将来的な伝送距離の延伸やさらなる帯域幅の拡大には制限が生じます。

第2の陣営は、Lumentumと古河電気工業が採用し、Coherentも導入を計画している「1,060nm」方式です。850nm方式に比べて製造コストは高くなるものの、光ファイバーへの高い結合効率、低い波長分散、低い相対強度雑音(RIN)を実現できます。さらに、AIサーバー内部で避けられない高温動作環境下でも高い性能を維持できるため、将来さらなる伝送速度の引き上げが求められる局面では、1,060nm方式の優位性が高まると予想されます。

単一素子200G化とMicro VCSELが築く、後発企業の参入障壁

2027年以降の本格導入を見据え、VCSEL NPOの研究開発はさらなる高密度化と高速化のフェーズへ進んでいます。TrendForceの分析によれば、今後の技術開発は光学系とチップ設計の両面で最適化が進められる見込みです。

光学面では、VCSELの発振波長と光ファイバー技術の組み合わせを最適化し、伝送効率を高める取り組みが続けられます。同時にチップレベルでは、VCSEL単一素子あたりの伝送速度を従来の100Gから200G標準へと引き上げる開発が主軸となります。これと並行して、素子1個あたりのサイズを100〜200µm(マイクロメートル)まで小型化した「Micro VCSEL」の開発も進められています。素子を小型化して高密度なマルチチャネルアレイを構成することで、限られた実装面積のなかで伝送帯域幅を一段と拡大する設計が想定されます。

このような微細化と高速化、さらには高温環境下での信頼性を両立させるには、化合物半導体の結晶成長から光学モジュール実装に至る高度なすり合わせ技術が不可欠です。先行する主要6社が性能向上と量産供給体制の整備を同時に進めることで、この領域における技術的・商業的な参入障壁は一段と高まっていくと考えられます。

1,060nm世代で存在感を示す日本勢の勝機と、光電融合エコシステムの行方

AIデータセンター向けの光インターコネクト市場は、短期的な850nm方式による初期需要の立ち上がりを経て、中長期的には高速伝送と高温耐性に優れた1,060nm方式や単一素子200G化へと付加価値の重心が移っていくと予想されます。この技術転換において、古河電気工業がいち早く1,060nm VCSEL NPOの開発で世界の主要6社の一角に食い込んでいる事実は、日本の光デバイス・素材産業にとって大きな意味を持ちます。

1,060nm領域やMicro VCSELの社会実装では、発光素子単体の性能だけでなく、組み合わせる特殊光ファイバーや高耐熱パッケージ材料、精密な光学結合技術との一体的な最適化が普及の条件となります。日本の通信デバイスや素材メーカーが強みを持つ光学設計と高信頼性実装のノウハウは、単なる部品供給にとどまらず、次世代データセンターの規格標準化やエコシステム形成に参画する有力な足がかりになり得ます。2027年から始まるNPOの商用化フェーズにおいて、日本企業が米中の大手半導体・通信機器メーカーとどのような連携網を築き、持続的な収益モデルを確立していくのかが今後の焦点となるでしょう。

スクリーンショット 2026-10-14 14.34.46.png

出展:トレンドフォース 2026.10

Comment(0)