高電圧直流は電力制約を救うか データセンター給電の死角
台湾の調査会社トレンドフォースは2026年9月16日、世界のデータセンター電力需要容量が2026年に161ギガワットへ達し、前年比約31%増加するとの試算を公表しました。AIサーバーの需要が拡大を牽引し、全体の33.4%を占める計算です。
サーバーの高発熱化に伴う受電規模の拡大に対し、送電網の増強が追いつかず、供給制約の懸念が浮上しています。現場では電力損失を抑える受電技術の刷新が模索されています。
今回は、計算需要の急伸が招く電力消費の変化、送電網の整備遅延に伴う需給乖離、高電圧直流給電の導入効果や自家発電の実務をもとに、データセンターにおける電力制約の構造と今後の産業展開への影響や展望について、取り上げたいと思います。
サーバー構成の変化と中長期的な電力需要の推移
データセンターの消費電力は、搭載される機器構成の転換に伴い急伸しています。トレンドフォースが整理した内訳によると、電力需要容量は汎用サーバー、AIサーバー、その他IT機器、そして冷却や受変電を担う非IT設備の4区分に大別されます。全体の需要規模は2024年の100.5ギガワットから2025年には122.9ギガワットへと拡大し、2027年には211.1ギガワットへ達する予測が示されています。
この需要拡大の中心にあるのがAIサーバーの普及です。全需要容量に占めるAIサーバーの比率は2025年時点で4分の1弱にとどまっていましたが、2027年には4割を超える水準に達する可能性があります。その一方で、かつて全体の約4割を占めていた汎用サーバーの割合は2027年に25.6%まで縮小する見込みです。設備全体の電力消費構造が計算集約型へと移行している状況が確認できます。
送電網整備のリードタイムと需給乖離の構造要因
電力需要が急増する一方で、既存の送電インフラが追従できない構造的な要因が存在します。データセンター自体の建設期間は通常2年から3年程度ですが、基幹送電線や変電所の新設には環境影響評価や用地買収、周辺住民との合意形成を含めて5年から10年単位の期間を要します。電力会社の設備投資ペースが情報通信技術の進展速度に追いつかない時間軸の乖離が生じています。
送電網の受け入れ能力は2025年まで需要増加を吸収できていたものの、2026年以降は系統供給との乖離が始まり、2028年以降にその差が一段と広がる見通しです。2030年には世界全体のデータセンター需要容量が490.7ギガワットに達するのに対し、系統側から割り当て可能な電力容量は222.6ギガワットにとどまると試算されています。他の産業や生活用電力を優先した結果、送電網から供給可能な容量だけでは268ギガワットの不足が生じる構図となっています。
高電圧直流給電の導入に伴う実務上の制約とコスト
受電側の効率改善策として関心を集める高電圧直流給電ですが、商用環境への導入には実務上の課題が伴います。高電圧直流アーキテクチャは交流から直流への多段変換を省き、受電端からサーバーラックまでの電力損失を低減できる利点があります。しかし、既存のデータセンターで標準化されている交流受配電設備を一新するには、受電盤や変圧機器、無停電電源装置(UPS)の全面的な更新が必要となり、初期投資負担が増加します。
機器調達におけるサプライチェーンの制約も大きな障壁です。直流対応の高耐圧パワー半導体や専用ブレーカー、給電レールなどの部材は汎用品に比べて市場流通量が限られており、調達リードタイムが長期化しやすい傾向にあります。加えて、高電圧直流を取り扱う電気主任技術者や保守要員の確保、安全基準の策定など、組織運用面での体制整備も課題となっており、投資回収の確実性を慎重に精査する姿勢が求められています。
敷地内電源と系統給電の得失および電源調達の選択肢
送電網の制約を回避するため、事業者は複数の電源調達手段を比較検討しています。代表的な選択肢が、送電網を介さずに敷地内で発電するオンサイト電源の導入です。天然ガス発電機や将来的な小型モジュール炉(SMR)、太陽光発電と蓄電池を組み合わせる手法は、系統接続の順番待ちを回避して施設計画の確実性を高められる利点があります。
一方で、敷地内発電には燃料調達の安定性確保や排ガス規制への適合、さらには温室効果ガス排出削減目標との整合性という留意点が存在します。これに対して系統給電への依存を継続する選択肢は、自前の発電設備を保有する資本コストを抑えられるものの、連系遅延によって施設が稼働できない遊休リスクを抱えます。事業者は、初期投資と運用コストのバランスに加え、プロジェクトの早期稼働による収益機会を総合的に比較考量しています。
系統連系の待機期間と実質的な供給リスクの評価指標
事業者が今後の電源投資を判断する上では、公表されるマクロな不足数値の前提条件を精査する姿勢が欠かせません。世界で最もデータセンターが集積する米国では、2028年頃までに稼働する案件の大半が系統接続の枠を確保済みとされています。しかし、2028年以降は送配電網の引き込み遅延が頻発し、2030年には米国単体で170ギガワットを超える需給ギャップが生じると予測されています。
ただし、この試算値には事業者が独自に整備する敷地内発電の容量が反映されていません。見かけ上の供給不足がそのまま事業停止を意味するわけではなく、自家発電の普及によって実際の不足規模は縮小する余地があります。投資判断においては、地域電力会社への系統接続申請に対する平均回答期間や大型変圧器の調達期間、さらに敷地内発電の設置許可ペースを定点観測することが、実質的な事業リスクを見極める判断材料となります。
今後の展望
データセンターの電力確保を巡る課題は、情報通信産業にとどまらず、重電機器や送配電資材、発電プラントを手がける製造業全般へと波及するでしょう。受電制約の度合いに応じてデータセンターの立地選定が見直され、特定の電力供給余力を持つ地域へ産業投資が再配分される可能性も考えられます。
今後の環境変化を捉える指標としては、主要な系統運用機関における接続待機の平均月数や、特別高圧機器の納期の推移が挙げられます。併せて、クラウド事業者の設備投資に占める直流給電設備や自家発電設備の採用比率の動向を注視することが有効と予想されます。
計算インフラの拡張という世界的な潮流が進む一方、物理的な電力網の制約が投資現場に計画の見直しを促しています。中長期的な送電網の整備と足元の電力確保策との間で、いかに資本効率と運用安定性の均衡点を見出していくかが問われることになるでしょう。
