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人事領域(上流/elearing/ERP)コンサルでの人材開発/人事の一歩先の動向を考えます!

【連載】AI組織の要諦 第2回「制度」― 指標は行動を決め、制度は文化をつくる

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▫️前回のふりかえり

第1回「設計」では、AIは調達できても組織は調達できない、という出発点から、4つの要諦を整理しました。何を解決するかを問うこと、タスクに分解して役割を組み直すこと、名前のある人間のオーナーと権限を決めること、組織のAIを見える状態にすることです。

ただ、どれほど設計を整えても、それだけで組織は動きません。人は、何で測られ、何で評価されるかによって行動を変えるからです。第2回のテーマは「制度」です。

・第1回「設計」:業務、役割、権限を、AI前提で組み直す
・第2回「制度」:指標と評価が、行動と文化をつくる(今回)
・第3回「人」:浮いた時間と学びを、意図して設計する

▫️グッドハートの法則という、古くて新しい問題

この連載で繰り返し立ち返るのが、グッドハートの法則です。測定値が目標になると、その測定値は良い指標として機能しなくなる、という趣旨の法則です。

指標は、行動を決めます。評価は、組織に対する最も強いメッセージです。そして、その積み重ねが文化になります。私が「制度が文化をつくる」と言い続けているのは、このためです。

AIの時代に、この古い法則は新しい意味を持ちます。理由は2つあります。1つは、AIの導入効果を何で測るかによって、現場のAIの使い方が変わること。もう1つは、AIそのものが、与えられた指標を人間よりも忠実に、高速に最適化することです。

この連載では、制度の要諦を4つに整理します。

▫️要諦1:AIを、利用率ではなく成果と負荷で測る

AIの導入評価を、利用者数、プロンプト数、削減時間で測る企業は少なくありません。測りやすいからです。しかし、これらを目標にすれば、現場はその数字を良く見せることに最適化されます。

Snowflakeの公式ブログ(2026年9月29日)が紹介したGeneral Dynamics Mission Systemsの事例では、形式も用語もばらばらな数千件のベンダーPDFの処理で、精度が50%から85%に改善しました(同社の内部分析、2026年6月時点)。注目したいのは、成果がモデルの性能ではなく、業務のスピード、精度、コスト削減で測られたことです。

Forbes JAPANの寄稿「すべてのCEOが同じAIを買える時代、模倣できないのは『組織設計』だ」(2026年10月15日)も、処理量、コスト、サイクルタイムに代えて、例外対応の質、判断に充てられる時間、手戻りの減少、ビジネス成果への接続を重視すべきだと述べています。そして、指標は組織の行動を規定するため、オペレーティングモデルを変える前に変えるべきだ、としています。

もう1つ、測るべきものがあります。現場の負荷です。Korn Ferryの「Workforce 2026」(2026年9月)では、AIによる効率化を報告したCEOは約79%だったのに対し、一般の従業員で同じように答えたのは約半数でした。導入率や削減数だけを見ていると、この認識のずれは見えません。成果と負荷を、両方測る。これが、AI時代の指標設計の基本だと考えます。

▫️要諦2:「トップがつくった体質」と「制度がつくった体質」を見分ける

この秋、組織の体質をめぐる2つの事例を取り上げました。ニデックとプルデンシャル生命です。私は、この2つを対照的な事例として読んでいます。

ニデックでは、第三者委員会が、発見された会計不正はいずれも、業績目標、特に営業利益目標の達成に向けた強すぎるプレッシャーを背景にしたものだと結論づけました。同社の改善計画は、要因として、過度な株価至上主義、目標未達を許容しない風土、元代表の意向を優先する風土、ガバナンスや内部統制の脆弱性を挙げています。私は、これを「トップがつくった体質」の問題として捉えました。

一方、プルデンシャル生命の社外特別調査委員会の報告書(開示版、2026年10月3日付)は、発生原因の1番目に、LP制度およびエージェンシー制度に構造的に内在する金銭授受に係る不正リスクを、2番目に営業成績を過度に重視する経営方針および企業風土を挙げています。特定の個人よりも、報酬、評価、採用、管理という制度の設計が、行動と風土をつくったという整理です。私は、これを「制度がつくった体質」に近いと受け止めています。

両者を見分けることが大切なのは、打ち手が違うからです。トップがつくった体質は、トップへの牽制や交代、取締役会の実効性の向上が打ち手の中心になります。制度がつくった体質は、制度を設計し直さない限り、人が入れ替わっても同じ構造が再生産されます。

そして、制度がつくった体質で最も怖いのは、真面目に頑張る人ほど巻き込まれやすいことです。プルデンシャルの件を投稿した際、「会社の要望に沿って頑張っていたら、いつの間にか不正に関わっていた、ということもありうる」というコメントをいただきました。まさにその通りだと思います。

AIの導入でも、同じ構造が起こりえます。AI活用の数値目標が強く、評価と直結し、確認や牽制が弱ければ、真面目な人ほど、数字を合わせることに追い込まれていきます。

▫️要諦3:文化は、評価・登用・報酬に翻訳して初めて届く

ニデックは再発防止に向けて、「Speak Up / Bad News First」「正しい行動が評価される」といった企業文化を掲げ、人事評価制度の見直しにも着手するとしています。プルデンシャル生命の報告書も、再発防止策の1つに、コンプライアンスを考慮要素とした各種制度の評価指標の見直しを挙げています。

どちらも、方向性は妥当だと思います。ただ、文化はスローガンでは変わりません。何を加点し、何を減点するのか。誰を昇進させ、誰を責任ある立場に置くのか。声を上げた人が不利益を受けないか。こうした人事の仕組みを通じて、初めて、文化は社員に伝わります。

AIについても同じです。「AIを積極的に使おう」と掲げても、AIで生まれた時間を業務改善に使った人が評価されず、処理量を増やした人だけが評価されるなら、現場は処理量を増やします。周囲に使い方を教える先駆者の活動が評価されなければ、それは正式な業務として扱われない「シャドーワーク」になり、熱心な人ほど損をします。

JILPTの資料シリーズNo.308(2026年9月30日公表)は、欧米5か国の賃金制度を調べ、「欧米は職務給」という理解は単純化しすぎで、欧米でも役割、年功、スキル、ポテンシャルなど職務以外の基準が広く使われていると報告しています。私がこの資料から受け取ったのは、制度の型そのものより、運用の透明性と説明責任、そして制度の変更への従業員の参加が問われる、ということです。AI時代の評価制度も、型を輸入するのではなく、自社の戦略に合わせて設計し、運用で説明できることが要になります。

▫️要諦4:牽制と、悪い情報が上がる仕組みを持つ

制度の4つ目の要諦は、牽制です。

ニデックの第三者委員会報告を紹介した解説では、経営幹部の人事権を含む権限が元代表に集中していたとされています。人事権、予算権、評価権が一人に集まると、判断の基準はルールから人の意向に移り、忖度が生まれます。忖度は、個人の資質ではなく、構造の帰結です。プルデンシャル生命の報告書も、営業管理職などによる管理・監督機能の脆弱性、会社と完全親会社による統制機能の不全を、原因に挙げています。

AIについても、牽制の設計が必要です。先のAIサミットで、物理学者のアレックス・ウィスナーグロス氏は、「監査人を監査するのは誰か」という問いを投げかけていました(Forbes JAPAN、2026年10月8日)。この問いは、企業の内部に引き寄せて読むこともできます。AIの動きを監視する仕組みを置いたとして、その仕組みが正しく機能しているかを誰が確かめるのか。人の組織で、評価者を評価する仕組みや、独立した相談窓口を整えてきたのと同じ構造が、AIにも求められます。

そして何より、悪い情報が速く上がる組織であることです。AIの誤り、情報漏えいの兆候、現場の過重負荷。悪い情報を上げた人が叱られる組織では、問題は見えないところで大きくなります。

▫️人事の第三者性が問われている

4つの要諦を貫くのは、人事の役割の問い直しです。

人事が経営者の意向の実行部隊になると、評価、報酬、登用は牽制の機能を失います。人事の役割は、経営の意思を現場に届けることだけではありません。制度がどのような行動を生んでいるかを点検し、必要なら経営に異を唱えること。AIの導入目標が現場をどこへ向かわせているかを見つめることも、その一部です。

また、制度を整えることは、人を型にはめることではありません。評価や配置の透明性を守り、自由度を担保する装置でもあります。何を自由にし、何を守るのか。その線引きを設計するのが、人事の仕事です。

▫️個人の判断力と、制度の両輪

最後に、1つ付け加えます。個人の判断力を高める研修は大切です。ただ、それだけに委ねると、制度の側に問題がある場合、誠実な人ほど苦しい立場に置かれます。個人の判断力と、その判断を支える制度を、同時に設計する。AIとの付き合い方についても、同じことが言えます。この点は、第3回で詳しく扱います。

▫️留意点

・ニデックとプルデンシャル生命の整理は、公表された報告書や報道にもとづく私の解釈です。「トップがつくった体質」「制度がつくった体質」は私の表現で、各報告書の用語ではありません。
・Snowflakeの事例はベンダー自身の記事で、数値は各組織の内部分析によるものです。
・Korn Ferryの調査は、組織人事領域のコンサルティングファーム自身によるものです。

▫️自社で点検したい問い

1. AIの導入効果を、利用率や削減時間だけで測っていないか。現場の負荷も測っているか。
2. 自社の体質の課題は、トップに起因するのか、制度に起因するのか。
3. 掲げた文化が、評価、登用、報酬に反映されているか。
4. AIで生まれた時間を業務改善に使った人や、周囲を支援した人が評価されているか。
5. 人事権、予算権、評価権が、特定の個人に集中していないか。
6. AIの誤りや現場の負荷といった悪い情報は、どの経路で、どのくらいの速さで経営に届くか。

▫️次回予告

設計と制度を整えた先に、最後に残るのは「人」です。AIで浮いた時間は、どこへ行くのか。学ぶ時間は、誰が確保するのか。第3回は「人」。労働経済白書の数字や、AIで仕事が増えるという複数の調査を手がかりに、余力と学びの設計を考えます。

AI活用の本質は、人と組織の変革にあります。制度は、その変革を、日々の行動として定着させる仕組みです。

▫️参考

Snowflake「ミッションAIのスケーリングに向けた3つの教訓」(2026年9月29日)
Forbes JAPAN「すべてのCEOが同じAIを買える時代、模倣できないのは『組織設計』だ」(2026年10月15日)
Korn Ferry「Workforce 2026 Report」(2026年9月8日)
ニデック「第三者委員会の調査報告書の公表及び当社の対応に関するお知らせ」(2026年3月3日)
MONOist ニデックの改善計画に関する報道(2026年1月29日)
プルデンシャル生命保険株式会社「調査報告書(開示版)」(社外特別調査委員会、2026年10月3日)
JILPT 資料シリーズNo.308(2026年9月30日)
Forbes JAPAN「人間はAIを制御できるのか? 急加速するAIエージェント時代と構造的ジレンマ」(2026年10月8日)

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