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IOWN Global Forum「FUTURES」で合意されたモビリティAI連携とギガワット級計算基盤を支える光技術

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AIの大規模化に伴い、計算資源の単位は従来の100メガワット級からギガワット級へと移行し、世界規模での電力不足と送電網の逼迫が表面化しています。2026年10月にアムステルダムで開催されたIOWN Global Forumの公開セッション「FUTURES」では、欧州データセンターの空室率低下や送電網接続の長期化という深刻な物理的制約が共有されました。

登壇した各分野の専門家からは、すべての構成要素を自前で抱え込む完全自給モデルの限界と、光技術を活用した広域分散処理の必要性が相次いで提示されました。運用の主導権やデータガバナンスといった重要制御点を自ら管理しつつ、相互依存の中で離脱性を確保する新しい主権のあり方が議論されています。

今回は、基調講演で示された光技術の産業展開、市場調査が捉えたインフラ投資の急増、欧州データセンターの電力課題、主権AIを巡るパネル討論、光ネットワークの技術ロードマップ、そしてモビリティ3団体による産業連携について、取り上げたいと思います。

光でつなぐ分散AI基盤 (1).png

基調講演:光トランジスタの原点と産業変革へ広がるIOWN構想

司会を務めたNTTのヴェト・マブコ氏は開会にあたり、人工知能の急速な進展が直面している物理的な壁を指摘しました。「AIは孤立した環境では進化できず、送電網の制約、不確実な遅延、独自仕様によるサイロ化という厳しい現実に直面しています」と述べ、ネットワークと計算基盤の双方を抜本的に再設計する時期に来ていると語りました。

続いて登壇したIOWN Global Forum会長の川添雄彦氏は、インターネットトラフィックとデータセンターの急増によるエネルギー消費の爆発的拡大を背景に、光技術への転換がいかに不可欠であるかを論じました。「電気と比較して、光は伝送距離や周波数が増加しても消費電力がほとんど増加しません。2019年にNTTが世界で初めて開発に成功した光トランジスタにより、約90%の省電力化を実証したことがIOWNの原点でした」と振り返りました。Forumが掲げる「電力効率100倍」「伝送容量125倍」「エンドツーエンド遅延200分の1」という性能目標には、現在170社を超える世界各国の企業が賛同しています。

川添氏は、光技術の適用範囲が従来の通信や金融から、エネルギーや資源産業などの現場へ急速に広がっている現状を紹介しました。「チリの銅生産大手コデルコ社と開始した取り組みでは、過酷な採掘現場とデータセンターをOpen APNで結び、遠隔での運転や監視を支援しています」と報告しました。実世界から継続的に学習するフィジカルAIの時代を見据え、物理的な制約が厳しい地域産業の変革を支える基盤として光インフラが機能し始めていると締めくくりました。

市場分析:オムディアが捉えた投資急増と光ネットワークへの波及

市場調査会社オムディアのプラクティスリーダーであるイアン・レッドパス氏は、計算基盤の規模拡大が通信インフラに与えている影響を定量的なデータから解説しました。「かつては100メガワットで大規模と呼んでいたデータセンターが、今や1ギガワット、複数ギガワットのキャンパスへと突入しています。設備投資額も従来の1,000億ドル規模から1兆ドルを超える水準へ移行しています」と述べ、敷地面積が平方マイル単位で計画される事例に言及しました。大都市近郊での送電網不足や住民の反対を避けるため、ガス火力などの電源を確保しやすい米国西テキサスをはじめとする遠隔地への進出が加速しています。

この巨大な投資循環において、暗号資産マイニングで高密度GPUラックの運用技術を培った「ネオクラウド」と呼ばれる新興事業者が重要な役割を果たしています。レッドパス氏は「ハイパースケーラー単独では需要に追いつかない計算能力を、ネオクラウドが補完しています。エヌビディアもGPUの供給にとどまらず、コーニングやルーメンタム、コヒーレントといった光ファイバーや光学レーザーの製造企業へ積極的に出資し、サプライチェーン全体の生産能力拡大を支援しています」と指摘しました。

通信事業者の動向としても、米ルーメン社による全米規模での864芯光ファイバー敷設や、約500箇所に及ぶ中継アンプ局の建て替えなど、一世代に一度レベルの大規模更新が進行しています。レッドパス氏は、単一拠点に数万基のGPUを集約する限界を打破する技術として、複数のデータセンター間を光で超低遅延接続する「Scale Across(拠点間分散)」の重要性を強調しました。光ネットワーク機器市場は年間170億ドル規模へ到達し、北米では2年間で約50%の支出増を記録するなど、計算需要が光産業の成長を力強く牽引しています。

欧州の制約:オランダDC協会が指摘する送電網10年待ちと供給枯渇

オランダデータセンター協会マネージングディレクターのスライン・グローヴ氏は、欧州が直面するインフラ整備の停滞に強い警鐘を鳴らしました。「欧州、とりわけオランダのデータセンター容量は事実上『完売』の状態です。エヌビディアは世界中の空きスペースを独自データベースで監視しており、設置場所がなくなれば半導体の出荷そのものが停止してしまいます」と現場の逼迫度を表現しました。欧州28カ国の合意形成の難しさに触れつつ、半導体露光装置のASMLを除けば、欧州はテックスタック全体において追従者の立場にとどまっていると述べました。

グローヴ氏の提示したデータによると、フランクフルトやロンドンなど主要ハブの設備容量は約4ギガワットに達するものの、送電網の容量不足により新規受電が極めて困難です。世界のデータセンター電力消費において欧州が占める割合はわずか15%にすぎず、国際競争力を維持するためには今後5年から7年で容量を3倍へ引き上げる必要があります。しかし「以前は1年程度だった許認可の取得に約5年を要し、送電網への接続申請から受電までは最長10年待たされる状況です。フランクフルトの空室率は健全とされる10〜12%を大きく下回り、約3%まで低下しています」と語り、アイルランドでは国内電力の約22%をデータセンターが消費する事態に至っていると説明しました。

この行き詰まりを打開するため、グローヴ氏はデータセンター事業者自身が電力系統を支える「システム統合」の重要性を訴えました。「洋上風力発電の上陸地点の直近にデータセンターを配置し、さらに大型蓄電池を併設して無風時には系統へ電力を逆供給するような柔軟な設計が不可欠です」と提言しました。送電網の改修だけに巨額の公費を投じるのではなく、需要家側が地域の電力需給に貢献する運用モデルへの転換が急務であると論じました。

パネル討論:完全所有から重要制御点へ向かう主権AIの針路

ロナルド・ファン・ローン氏をモデレーターに迎えたパネルディスカッションでは、欧州が目指すべき「主権AI」の定義と、インフラ上の制約を克服する方策が掘り下げられました。アクセンチュアのチーフストラテジーオフィサーでありIOWN Global Forum理事を務めるジェフ・ワン氏は、過度な囲い込みの非効率性を指摘しました。「完全な隔離環境は防衛などの特殊用途に限られ、民間企業が全面的に採用するには莫大な運用負担が生じます。真に保持すべきは、データの保管場所、計算負荷を他拠点へ逃がす能力、そしてセキュリティとガバナンス方針の決定権という必須の制御点です」と主張しました。

シエナのデヤン・ビルビヤ氏は、ハードウェアの所有だけでは主権が成立しない実態を補足しました。「国内にGPUを配置するだけで主権が確保できるわけではありません。運用の管轄権やアクセス管理の権限を誰が保持しているかが本質です。また、光部品に使われる希土類材料の多くは中国に依存しており、すべての構成要素を自国で揃えるアプローチは現実的ではありません」と語り、調達元の排除ではなく運用管理の統制こそが鍵であると述べました。

ファン・ローン氏が提起した「特定供給元からの遮断に備えた離脱性」に対し、パネリストらは共通して代替選択肢の確保を重視しました。グローヴ氏は「欧州、日本、カナダなどが連携して第3の極を形成し、互いに補完し合う関係を築くことが賢明です」と提案しました。元レーサーのマリオ・アンドレッティの言葉「すべてをコントロールできていると感じているなら、スピードが足りない証拠だ」を引き合いに出し、厳密な統制に固執して技術進化から取り残される危険性を指摘しました。

今後の勝機についてビルビヤ氏は「巨大な事前学習モデルの開発は米国主導で進みましたが、次の主戦場である推論処理は利用者の近くで実行されます。欧州は巨大な推論市場として主導権を握る好機を迎えています」と分析しました。これに対しワン氏は、IOWNが実証した長距離伝送の成果を共有しました。「台湾と日本を結ぶ3,000キロメートルの光接続実験では、遅延16〜17ミリ秒、ジッター1ナノ秒未満を達成しました。揺らぎのない光ネットワークがあれば、電力の潤沢な遠隔地にデータセンターを設置しても、大都市近郊と同一クラスタとして機能させることが可能です」と述べ、光技術が立地の制約を解消する手立てになると語りました。

技術ロードマップ:カマリロ氏が提示する相互運用性と光ネットワークの進化

IOWN Global Forumでマーケティング運営委員長を務めるゴンサロ・カマリロ氏は、フォーラムが描く技術ロードマップの進捗と今後の重点領域を説明しました。「設立当初に掲げたVision 2030は、AIという強力な追い風によって予想以上の速さで現実となりました。しかし、これで歩みを止める意図はありません」と切り出し、Open APNをさらに進化させるための6つの注力領域を提示しました。

第一に挙げられたのが「マルチベンダー化」です。現在先行している光ネットワークの多くは単一ベンダーによる垂直統合型ですが、フォーラムでは論理機能や機器間の接続インターフェースを標準化し、複数ベンダーの機器が混在しても円滑に機能する環境の確立を目指しています。第二の領域は「光ピアリング」であり、異なる事業者網の間で光信号を電気信号へ変換することなく直接相互接続することにより、伝送遅延と消費電力の大幅な削減を図る構想です。

さらにカマリロ氏は、光回線スイッチを用いて動的な経路切り替えを実現する「ダイナミックネットワーク」、大都市の基幹網だけでなく末端の計算環境まで光通信を届ける「エッジへの延伸」、異機種環境を一元的に制御する「SDNオーケストレーション」、そしてAI以外の広範な産業分野に向けた「経済合理性のあるユースケース策定」を列挙しました。「これら6つの進化は一社単独で達成できるものではなく、地域や業種の枠を越えたグローバルな協調活動を通じて具現化していきます」と述べ、オープンな参加を呼びかけました。

産業連携:5GAA・AECC・IOWNが描くモビリティAIの主権型基盤

セッションの締めくくりとして、5G自動車協会(5GAA)、オートモーティブ・エッジ・コンピューティング・コンソーシアム(AECC)、そしてIOWN Global Forumの3団体による連携協定締結セレモニーが開催されました。進行を務めたNECのハンス=イェルク・フィッシャー氏は、業界の垣根を越えたパートナーシップの重要性を説きました。

5GAAの最高技術責任者であるマキシム・フラマン氏は、自動車産業の劇的な構造転換を解説しました。「過去10年間のコネクティビティはドライバーへの安全警告が中心でしたが、現在は高度な車両自動化と、車載システムがエッジやクラウドと協調する分散インテリジェンスへの移行が進んでいます。見通しの悪い交差点での歩行者検知など、安全に関わる協調型認知には数ミリ秒単位の確実な情報伝達が不可欠です」と述べ、車両と外部インフラを低遅延で結ぶアーキテクチャの統一が急務であると訴えました。

東京からオンラインで登壇したAECC理事会チェアの大西亮一氏は、課題起点での実証を重視する方針を示しました。「モビリティAIは膨大なGPU容量だけでなく、莫大な電力を消費します。AECCでは、AIが各地の再生可能エネルギーの発電状況を追跡して計算負荷を配分する『グリーンコンピューティング』の検討を進めています。IOWNの長距離・超低遅延ネットワークと融合させることで、遠隔地での処理をローカル同等の性能で持続可能に実現できます」と展望を語りました。

セレモニーを総括した川添氏は、分断されたエコシステムを統合する概念を提唱しました。「自動車メーカー、AI事業者、道路管理者、通信事業者はそれぞれ優れたシステムを個別に運用していますが、リアルタイムに協調動作する設計にはなっていません。各組織が自らのデータ主権を維持したまま、光ネットワークを介してミリ秒単位で完全に同期する『Sovereign Web of Mobility AI(モビリティAIの主権型ウェブ)』を構築することが我々の共通目標です」と宣言し、産業界全体で次世代の移動社会を支える基盤を共創する決意を示しました。

今後の展望

IOWN Global Forumが主導するOpen APNの進化は、単一ベンダーによる実証段階を越え、マルチベンダー環境での相互運用性や光ピアリングの確立という次の実装フェーズへ移行していく見通しです。欧州をはじめ世界各地で直面する送電網の逼迫に対し、長距離かつ確定的低遅延の光ネットワークによって計算資源を柔軟に分散配置するアプローチは、電力インフラの増強負担を軽減する実効的な解決策となるでしょう。

さらに、5GAAやAECCとの協調に代表されるように、通信と自動車、資源開発といった異業種のエコシステムが融合し、各組織がデータ主権を保ちながらミリ秒単位で協調動作する「主権型モビリティAIウェブ」の社会実装が進展すると期待されます。光技術を中核に据えたオープンな標準化が、地域ごとの電力制約や制度の壁を克服し、持続可能な次世代計算社会を切り拓く原動力となるでしょう。

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