「AI-ready data」の重要性とその管理方法
企業がAIを導入し、その恩恵を最大限に享受するために、「AI-ready data(AI対応データ)」整備の重要性が高まっています。
Gartnerの調査によると、企業の63%が自社のデータ管理がAIに適しているかどうか把握していない状況といいます。このような認識不足が原因で、2026年までに60%のAIプロジェクトが中断または放棄されると予測しています。
Lack of AI-Ready Data Puts AI Projects at Risk Gartner 2025.2.26
AIと従来のデータ管理の違いを理解し、それに対応したデータ基盤を構築しなければ、AIプロジェクトは期待した成果を上げることが困難となります。AIを実用化するためには、ITリーダーやデータ管理責任者がデータ戦略を抜本的に見直し、AIの特性に適応したデータ管理の仕組みを整えることが求められています。
今回は、Gartnerの見解をもとに、AI-ready dataの重要性と、その管理方法、今後の展望などについて、取り上げたいと思います。
AI-ready dataと従来のデータ管理の違い
従来のデータ管理は、構造化されたデータを整理し、一貫性と正確性を確保することを重視してきました。一方、AIではデータの多様性や変化に対応し、より柔軟なデータ運用が求められています。
AI-ready dataの特性
・多様性(Diversity):AIは、構造化データだけでなく、テキスト、画像、音声などの非構造化データも活用する
・継続的な更新(Continuous Updates):AIモデルの精度を維持するためには、データの収集と更新を継続的に行う必要がある
・データの関係性(Data Relationships):AIは複数のデータソースを統合し、パターンや相関関係を学習するため、データ間の関係を適切に管理することが重要
従来のデータ管理の課題
・データの分散(Data Fragmentation):部門ごとにデータが管理されており、統合が困難
・メタデータ管理の不備(Metadata Mismanagement):データの来歴や利用目的が明確でないため、AIに適したデータか判断できない
・処理の硬直性(Rigidity of Processing):ルールベースのデータ管理はAIの柔軟な処理には適さない
このような違いを理解し、AI向けのデータ管理戦略を採用することが重要となっています。
AI-ready dataの準備プロセス
ガートナーは、AI-ready dataを整備するための5つのステップを提案しています。
1.AIユースケースに合わせたデータ整備(Align Data to AI Use Cases)
自社のAIユースケースを定義し、どのデータが必要かを明確にする。内部データだけでなく、外部データの活用も検討することが重要
2.AI向けデータガバナンスの確立(Establish AI Data Governance)
AIに関する法的リスクや倫理的課題を考慮し、データガバナンスを強化する。データの互換性やプライバシー保護を確保するため、IT部門と法務部門が連携することが不可欠
3.メタデータの活用と自動化(Leverage and Automate Metadata)
データの分類や関係性を記録し、メタデータを積極的に活用することで、データのAI適性を向上させる
4.データパイプラインの整備(Build Data Pipelines)
AIモデルの学習用データセットと本番環境用データの流れを最適化するためのパイプラインを構築する
5.データの品質保証と監視(Ensure and Monitor Data Quality)
データの精度や一貫性を監視し、継続的な最適化を行う。DataOpsやデータオブザーバビリティを導入し、データの異常を検知・修正する仕組みを確立することが重要
AI-ready dataのガバナンス
AIが本格的に運用される段階では、企業全体でデータの管理とガバナンスを統合する必要があります。
企業全体で一貫したAIガバナンスを確立するために、Edjlali氏はEGoAI(Enterprise Governance of AI)というフレームワークを提唱しています。
EGoAIの特徴
・経営層が主導(Leadership from Executives)し、AI戦略を策定
・リスク・価値・コストを明確化(Clarify Risks, Value, and Costs)し、意思決定を行う
・データ管理・分析・ITの統合(Integrate Data Management, Analytics, and IT)より、適切なガバナンスを実施
これらのフレームワークを導入することで、企業はAIの価値を最大化し、リスクを最小限に抑えることが可能になるといいます。
今後の展望
AIの普及により、今後、企業のデータ管理の進化において、以下のような点が重要にななるとしています。
自動化とAIの融合(Automation and AI Integration)
データ管理のプロセス自体をAIで最適化し、メタデータ管理やデータ品質監視を自動化することで、より高度なデータ基盤を構築
マルチモーダルデータの活用(Utilization of Multimodal Data)
テキストや数値データだけでなく、画像や音声データを統合的に扱うことが求めれ、特に、生成AIの活用には、より多様なデータの管理が不可欠
規制対応の強化(Strengthening Regulatory Compliance)
AIの活用が進む中で、各国の規制も強化される可能性があり、企業は法規制への適応を視野に入れたデータ管理戦略を策定することが重要
AI時代において、データ管理の重要性はますます高まり、AI-ready dataを前提としたデータ戦略が、企業の競争力を左右することになるのかもしれません。