オルタナティブ・ブログ > 『ビジネス2.0』の視点 >

ICT、クラウドコンピューティングをビジネスそして日本の力に!

2025年のデータ/アナリティクスのトップトレンド

»

ビジネスの現場において、データやアナリティクスを駆使した戦略立案はますます重要性になっています。これまでは限られた専門家が担う領域でしたが、企業全体で取り組むべき経営課題として位置づけられるようになっています。

Gartnerが2025年3月10日に公表した「2025年のデータ/アナリティクスのトップトレンド」では、今後数年間でデータ活用がさらなる発展段階に入ることを示しています。効率的なメタデータ管理やAIエージェントの活用など、全方位的な視点で取り組むべきポイントは少なくありません。一方で、過大な期待や導入リソースの不足など、企業として解決すべき課題も浮上しています。

今回は、この2025年のデータ/アナリティクスのトレンドについて、取り上げたいと思います。

D&Aトレンドが示す時代の変化

データ/アナリティクス(D&A)が従来の専門領域から全社的な活用へと進化する中で、企業のITリーダーやD&Aリーダーは大きなプレッシャーと期待を背負うようになっています。Gartnerのバイス プレジデント アナリストであるガレス・ハーシェル氏が指摘するように、限られたリソースで広範な成果を出す段階は過ぎ去り、より豊富なリソースを活用しながら、さらに高い成果を求められるフェーズに入っています。

この流れを実現するためには、データの質と量を確保するだけでなく、組織構造やガバナンス、AI活用の仕組みづくりなど、多角的な準備が必要です。データが組織の資産として認められる一方で、その運用管理にかかるコストや、人材の確保・育成といった課題も顕在化しています。世界の企業はすでに次の段階へ向かいつつあり、日本企業も遅れを取らないための戦略的アプローチが不可欠となっています。

2025年のD&Aの主要トレンド

Gartnerが提示したトレンドを中心に、企業が取り組むべきポイントを整理します。

1. データ・プロダクト
データ・プロダクトは再利用や拡張が可能な最小限の機能を備えながら、ビジネスに有用な成果をもたらす形で提供されることが重視されます。D&Aリーダーは、自社が抱える重要課題に焦点を当ててデータ提供の負荷を軽減し、スケーラブルに運用できる仕組みを整えなければなりません。開発チームとユーザー双方でKPIを合意することで、成果を測定しやすくなり、継続的な改善が可能になります。

2. メタデータ管理ソリューション
メタデータ管理の強化は、データ分析基盤全体の品質や操作性に直結します。テクニカル・メタデータだけでなく、ビジネス・メタデータを含めた多層的なメタデータを活用することで、データ・カタログや来歴(リネージ)、AIドリブンなユースケースが実現しやすくなります。効果的なツール選定とあわせ、組織的な合意形成が重要です。

3. マルチモーダル・データ・ファブリック
複数のデータ源や形式を横断してメタデータを捕捉し、柔軟にオーケストレーションするための基盤として、データ・ファブリックの概念が注目されています。データの流通経路を自動化し、連携や可視化、運用改善(DataOps)を促進することで、最適なデータ・プロダクトを構築しやすくなる利点があります。

4. シンセティック(合成)データ
AIイニシアティブを迅速に進めるうえでは、機密情報の保護や取得困難なデータを補う仕組みが不可欠です。シンセティック・データは実在するデータの代替となり、プライバシー保護とデータ多様性の両立を支えます。これにより、AIがさまざまなケースを学習する機会が増え、より効果的なアルゴリズム開発へとつなげられます。

5. エージェンティック・アナリティクス
自然言語で質問や指示を行い、データの洞察をまた自然言語で取得する「エージェンティック・アナリティクス」が登場しつつあります。AIエージェントを活用することで、ビジネス部門の担当者や非専門家でも高度な分析を行いやすくなるため、新たなビジネス価値が創出されやすくなります。ただし、AIが誤った回答(ハルシネーション)を導くリスクを最小化するために、AIガバナンスの確立が求められます。

6. AIエージェントとデータアクセス
AIエージェント単体でなく、ほかの分析手法と組み合わせることによって、複数アプリケーション間のシームレスなデータ共有が実現しやすくなります。D&Aリーダーは、安全かつ効率的にデータへアクセスできるルール作りを行い、組織全体で統一的なプラットフォームの構築を目指す必要があります。

7. 小規模言語モデル
特定のドメインに最適化した"小規模言語モデル"は、大規模言語モデルよりも正確かつ文脈に即した出力を提供できる場合があります。オンプレミスで運用するケースでは、セキュリティやコスト面の利点も大きく、機密データの保護にもつながります。企業は自社のデータを活用して拡張生成や微調整を行い、より高い有用性を得られるよう努めるべきです。

8. コンポジットAI
データ・サイエンスや機械学習、ナレッジ・グラフなど、複数のAI手法を組み合わせるアプローチが「コンポジットAI」です。生成AIやLLM(大規模言語モデル)だけに頼るのではなく、さまざまな分析手法を併用することで、高度な予測や判断に対応できる総合的なAIソリューションが可能になります。

9. 意思決定インテリジェンス・プラットフォーム
データ・ドリブンの段階から、意思決定そのものを中心に据えた「意思決定インテリジェンス(DI)」へのシフトが注目を集めています。DIプラットフォームを構築し、モデル化の価値が高い意思決定を優先度高く扱うことで、最適な経営判断を下しやすくなります。ただし、意思決定の自動化を進める際には、法的リスクや倫理面、コンプライアンスの課題にも目配りが必要です。

導入をめぐる課題とリスク

D&Aの高度活用が注目される一方で、導入には課題もあります。人材不足やデータサイエンス知識の属人化などにより、十分な効果を発揮する前に頓挫してしまう例も少なくありません。多くの企業がガバナンス体制を整備しきれず、データ流用におけるセキュリティ事故や法令違反の懸念を抱えています。

AIエージェントを導入したものの、誤った情報に基づいた意思決定が行われてしまうリスクは避けられません。過度な自動化によって従業員が判断力を失う懸念や、AIに偏ったアルゴリズムの学習が行われる恐れも考慮する必要があります。こうしたリスクを最小化するためには、専門チームだけでなく経営層や現場担当者、IT部門が連携し、継続的なチェックと改善に取り組む必要があります。

日本企業が取り組みべきこと

シニア ディレクター アナリストの一志 達也氏が述べているように、日本企業はまだデータ基盤やガバナンス整備で手一杯という状況が続いています。世界の潮流を見ると、データ基盤の整備を前提としたうえでAI活用に焦点を合わせ、さらなる価値を創出する段階に入っています。

データ管理や統制は重要な位置づけとなります。土台となるデータ品質が不十分なままでは、高度なAI技術を導入しても実効性は限定され、トレンドに翻弄されるリスクがあります。国内企業がグローバル競争に立ち向かうには、自社の現状を的確に見極めたうえで、AI活用を視野に入れたD&Aリーダーシップを発揮していくことが求められます。

今後の展望

今後、データ活用の基盤整備と先進的AI技術の導入が同時並行で進む可能性がある中、グローバル企業がデータ・ファブリックの構築や小規模言語モデルの高度運用に取り組み、大きなイノベーションを起こしていくことが期待されます。一方で日本企業にとっては、既存システムや人材育成、そして法的規制との兼ね合いで、一気に先端トレンドに飛びつくのは難しいかもしれません。そのため、自社が何を強みとし、どの領域で競合に差をつけられるかを明確にし、段階的にAI活用の幅を広げる戦略による取り組みが重要となるでしょう。

組織全体の視座で意思決定を高度化し、ビジネスの競争力を高めるために、D&Aリーダーには変化を見極めながら的確な方針を打ち出すことが期待されます。

スクリーンショット 2025-03-06 20.21.47.png

Comment(0)