2023年のテクノロジ・プロバイダー向けトップ・トレンド 〜ガートナーから
ガートナージャパンは2022年2月22日、「2023年のテクノロジ・プロバイダー向けトップ・トレンド」を発表しました。
ガートナーでは、このトレンドを、「ビジネスにおけるテクノロジへの依存度の高まり」「テクノロジが生み出す新たな機会」「外部のマクロ環境によるインパクト」の3つの包括的トレンドに分類しています。
■ビジネスにおけるテクノロジへの依存度の高まり:
テクノロジの民主化
テクノロジの民主化は、IT部門以外の従業員が自身のテクノロジを模索、選定、実装し、カスタマイズすることを可能にします。このトレンドは、新しい市民開発者やビジネス・テクノロジストのニーズに応える機会を提供します。Gartnerでは、2025年までに、成功するすべての先進テクノロジ・ソリューションの55%は、企業内の「従来とは異なる」購入者 (IT部門以外の購入者など) に提供され、ベンダーは新たな市場に参入し、新たな顧客関係を構築できるようになると予測しています。
企業におけるテクノロジの連携型購入
連携型購入のプロセスでは、ビジネス部門も含めた全体の代表者が購入の意思決定を下します。テクノロジの民主化に伴い、企業で利用されるテクノロジの連携型購入が加速しています。最近のGartnerの調査では、IT部門のみで購入資金を調達しているテクノロジ購入者はわずか26%にすぎません。
バイス プレジデントのエミル・ベルテルセン (Emil Berthelsen) は、次のように述べています。「連携型購入は、ビジネス部門のユーザー (顧客) に対して、より付加価値の高いサービスに注力できるため、プロダクト・リーダーにとっては好機です。一方で、同時に複雑さも増し、市場参入 (Go-to-Market) モデルの変更を余儀なくされ、価値創出のシナリオと成果に、より一層重視することが求められます」
プロダクト・レッド・グロース (Product-Led Growth)
プロダクト・レッド・グロース (PLG) とは、市場参入戦略の1つです。PLGでは、まずプロダクトの無料提供や双方向/自動デモンストレーションを通じてユーザーが価値を体験します。そして、価値を体験したユーザーは、有料アカウントに直接コンバージョンされるか、他のユーザーのアドボカシ (推奨) や影響力を通じて購入へと促されます。2025年までに、SaaSプロバイダーの95%は、新規顧客を獲得するためにセルフサービス型のPLGを採用するようになるとGartnerではみています。
カンダスワミは、次のように述べています。「最初に消費者向け (B2C) テクノロジ分野で大きな評価を得たPLGは、現在、企業間 (B2B) 分野でその真価を発揮しつつあります。従来の購入者指向でトップダウン型のマーケティング/営業戦略と比較すると、顧客獲得コストの削減や営業サイクルの短縮が可能になります」
コ・イノベーション・エコシステム
コ・イノベーション・エコシステムのアプローチは、外部および内部からの協働的/共創的なアイデアを融合して、新たな価値創出を可能にする発展途上のプラクティスです。企業は差別化と成功のためにテクノロジを積極的に活用すべく、テクノロジ・プロバイダーとのコ・イノベーションを増やしています。
「コ・イノベーション・パートナー・エコシステムを活用するテクノロジ・プロバイダーは、互いに共有するスキル、テクノロジの専門知識、投資、インセンティブを利用して、顧客の緊急なニーズに応えることができます」(カンダスワミ)
■テクノロジが生み出す新たな機会:
デジタル・マーケットプレース
テクノロジの購入者は、テクノロジ・ソリューションの検索、調達、実装、統合が容易になるように、デジタル・マーケットプレースを取り入れています。また、テクノロジに精通していない購入者も、コンポーザブルで利用しやすいテクノロジ・ソリューションに対する要件を満たすために、マーケットプレースに注目するようになっています。
「テクノロジ・サービス・プロバイダーは、成長機会と競争優位を求めて、マーケットプレースのチャネルへの投資を拡大させています。デジタル・マーケットプレースは、市場投入までの時間を短縮し、ターゲット顧客 (セグメント) への働き掛けを広げ、パートナー・エコシステムを拡大し、販売サイクルを加速させます」(カンダスワミ)
インテリジェント・アプリケーション
インテリジェント・アプリケーションは、新しいアイデアや成果の学習、適応、生成によって、価値を創出し、市場にディスラプション (破壊) をもたらすようになるでしょう。例えば、ジェネレーティブAI (人工知能) は、インテリジェント・アプリケーションの中で、商用として急速に普及している先進テクノロジです。ジェネレーティブAIで、斬新なメディア・コンテンツ (テキスト、画像、ビデオ、オーディオを含む)、シンセティック (合成) データ、物理オブジェクトのモデルを生成できます。
「プロダクト・リーダーは、従業員に拡張力と創造力を与えるジェネレーティブAIの特性が、インテリジェント・アプリケーションの新たな競争最前線になると考えるべきです」(カンダスワミ)
マーケティングとカスタマー・エクスペリエンス (CX) 向けのメタバース・テクノロジ
メタバース・テクノロジは、独自のエクスペリエンス、インパクトのあるやりとり、斬新なエンゲージメントを創出するものとして、マーケティング分野で急速に普及しています。2027年までに、世界の大企業の40%以上は、Web3、スペーシャル (空間) コンピューティング、デジタル・ツインを組み合わせ、売り上げ拡大を目的としたメタバース・ベースのプロジェクトで使用するようになるとGartnerでは予測しています。
「B2Bのマーケターは、メタバース・テクノロジとそれが提供するイマーシブ・エクスペリエンスを適用して、顧客へのリーチと顧客エンゲージメントを拡大し、CXを改善できる機会を有しています。アーリー・アダプター (早期採用者) は、メタバース・テクノロジを利用して、仮想空間でのイベントの開催、社内外の営業会議の実施、プロダクトの展示などを行っています」(カンダスワミ)
■外部のマクロ環境によるインパクト:
持続可能なビジネス
カンダスワミは、次のように述べています。「持続可能なビジネスは、『あると良い』ではなく、『必須』なものへと変化しています。テクノロジ主導がますます進む世界において、持続可能なビジネスは、持続可能なテクノロジに支えられています」
テクノロジ・プロバイダーは、持続可能なビジネス成果を実現するプロダクトのサステナビリティ (持続可能性) を向上させる必要があります。Gartnerの最近の調査では、ビジネス・リーダーの42%が、現在、持続可能なプロダクトを通じてイノベーション、差別化、企業成長を促進するサステナビリティ活動に取り組んでいると回答しています。2025年までに、顧客のサステナビリティ目標に対して自社プロダクト/サービスの貢献度を定量化できるテクノロジ・プロバイダーは、成約率を20%向上させるとGartnerでは予測しています。
テクノ・ナショナリズム (技術国家主義)
グローバル化から離れ、重商主義へと向かうトレンドは、グローバル市場のローカル化を招き、世界のテクノロジ・エコシステムに影響を及ぼしています。各国は、政策決定により、デジタル主権に関する規制の導入へと動いており、これがひいてはテクノロジ・スタックの分離を引き起こしています。このトレンドを受けて、プロダクト・リーダーは、国レベルの個別のローカル化ニーズへの対応とプロダクトの収益性のバランスを取る必要があります。
上記トレンドについて、バイス プレジデントの桂島 航は次のように述べています。「プロダクト・レッド・グロースや連携型購入などの新しいトレンドは、企業のテクノロジの導入方法を劇的に変える可能性があります。また、テクノ・ナショナリズムのようなマクロ環境によって生じる新しいトレンドは、新しいエコシステムの形成を促し、テクノロジ・プロバイダーにとって新たなビジネス機会を生むでしょう。日本のテクノロジ・プロバイダーは、これらの新しいトレンドに基づいて事業・製品戦略を速やかにアップデートし、グローバル企業に対する競争力を向上すべきです」