BYODの潮流
今や個人が所有するスマートデバイスは、間違いなく会社が提供するPCを含むデバイスよりも増えていると思われる。2010年度のスマートフォンの国内出荷数は前の年度比3.7倍の855万台となっており、大きな伸びを示している。
一方で企業はPCのメンテナンスに頭を痛めている。4、5年で機器は更改、OSのバージョン更新にアプリケーションの保守。その対応策としてVDIが注目されているのだが、アメリカで新たな潮流として注目を集めているのがBYODだ。
BYODとはBirng Your Own Deviceの略。つまり自分のデバイスを会社に持ち込むという考え方。
オーストラリアのレストランでBYO(Bring Your Own)を経験した方は多いと思う。飲食店ではアルコールの提供に壁が高いので、個人のワインを自由に持ち込み可能となっているシステムだ。
BYODでは自分のデバイス、たとえば自分のiPhoneやiPad、アンドロイド端末やPCを仕事に活用するという考え方だ。
私の職場であるシスコシステムズもその流れに乗ってITの方針が大きく変わろうとしている。
ご存知の方もいらっしゃるかも知れないが、シスコシステムズは徹底的なIT標準化でコストの削減とスピードの向上を実現してきた。
私が入社した8年前はPCはIBMのThhinkpadのみ、OSはXPとなっており、集中購買で比較的低コストで調達をしていた。ITのDesktop Serviceも標準化された環境のため、利用者である社員のPCにトラブルがあっても一つのバージョンで対応すれば良かったので素早く解決することが出来た。
しかし今シスコシステムズに来社されるとマッキントッシュとThinkpadの比率が半々になっていることに気がつかれると思う。さらに電話はBlackberry一色から、iPhone,アンドロイド携帯、と多様なデバイスが使われ、iPadで仕事をする姿も見られる。これまでは会社が買い与えていた携帯電話も、今年の新入社員から提供されなくなった。自分で持っている携帯や、自分で購入したものを会社の環境で使えるようになっているのだ。
私個人でも、会社で使うPCはMacBookAirで、電話はiPhone。どちらも個人で購入したものだ。IT部門としてはすべてを解放しているわけではないが、方向性は間違いなく「どんなデバイスでもつなげる事ができる環境」の整備だ。
アメリカではこのBYODの考え方が浸透しつつあり、ITコスト削減に寄与し始めている。
なぜこの潮流が起こって来たのかというと、それはコスト負担に加えてクラウドサービスの企業への浸透と、Webベースのアプリケーションの普及だろう。
クラウドで言えばセールスフォース(SFDC)がミッションクリティカルな業務で活用されており、情報共有やコラボレーションはWebExを使わない日はない。社内のすべてのアプリケーションはWebベースとなっており、ブラウザーを選ばない。
これらの環境を実現可能としているのは堅牢なモビリティーに対応したセキュリティーであることは言うまでもない。(この話は別な機会に)
では日本のエンタープライズ企業がこの流れに乗れるのだろうか。ある意味先進国になる可能性があると私は考えている。
情報漏洩に過敏となっており、PCの持ち出し禁止があたりまえ、というのが日本の環境だ。(ちなみに海外ではあまり聞いた事がない)
逆説的に聞こえるかもしれないが、情報漏洩に過敏であるからこそWebベースが進む。データーは厳しく管理して、ブラウジングだけでビジネスプロセスが流れるようにすることに取り組むわけだ。ここにVDIが加わることとなるだろう。
その結果としてデバイスを選ばない環境が最適となる。もちろん堅牢なセキュリティー対策が重要であることは間違いないが。
そのアーキテクチャーが主流となれば、IT部門は企業内クラウドの推進者となるだろう。(また企業内だけでなく、パブリックなクラウドを使うための準備としての判断基準を決定することが行われる。)
いずれにしてもBYODの流れが起こってくる事は間違いなく、IT部門はこの対応のための準備を開始する必要がある。なぜならば、利用部門は常に市場(顧客)に敏感であり、市場で使われているデバイスを無視できないからである。