書評「The Second Machine Age」-機械との競争の著者が語るモノのインターネットがもたらす新産業革命
機械との競争(“Race Against the Machine,”)から2年後に出版した第二作は明らかに「モノのインターネット」のスマートマシンがテーマです。著者はエリック・ブリニョルフソンさんとアンドリュー・マカフィーさんの二人のMITの教授です。基本的には経済の書籍です。
■ ムーアの法則とべき乗法則が新しい産業革命を生み出す
ガートナーグループは現在、ICT革命が折り返し地点にあると言っていますが、「The Second Machine Age」では、ムーアの法則とべき乗法則が遂に物凄い生産性をもたらし始め、スマートフォンに代表される部品やセンサーがどんどん安くなり、様々なモノをあたかも人の友達として振る舞うようなSFの未来が実現し始めているとしています。2年ごとにセンサーやチップの生産性は倍増し、回線スピードも倍増するムーアの法則は、遂に幾何級数的な生産性の伸びをもたらしていると言う主張が本書の基本です。折り返しどころか急速にカーブが上向きになるタイミングがモノのインターネット時代だと言う主張です。二年ごとに二倍になりますから、長く続くと凄い事になります。2 4 8 16 32 64 128 256 512倍・・と伸びて行きます。
べき乗則での幾何級数的な性能向上
<出所:WiKi>
■ 高生産性と失業問題
オバマ政権を再選挙時悩ました高失業率、グーグルバスの阻止事件を起こし、ウオールストリート占拠騒動や米国共和党内の極右茶会党の伸び、欧州議会における反EU派=極右や極左の伸びの背景には、スマート機械がもたらした高い生産性と高い失業率があります。
たった四千六百人しか雇っていないインスタグラムがフェースブックに買収された数カ月後、十四万五千人を採用していたコダックが倒産しました。インスタグラムの取り扱う写真の数は往時のコダックを上回っています。
スマートマシンと失業の問題は基本、ジョン・メイナード・ケインズ(有名な不況時財政出動による市場介入を主張する一般理論の創設者)が述べていることと同じです。しかし今回は工業社会の失業者をスマート工業社会が短期的には吸収出来ず、職を失った一般の人々をクリエーティブクラスへと転換するのは少々の教育投資を行っても難しい気がします。著者二人は楽観的ですが。
■ 連結化によるイノベーション
新しいマシン(スマートマシン)時代のイノベーションは「既存のアイデアの組み合わせ」型のものだと主張しています。確かにありとあらゆるものがネットに繋がる訳ですから、小売店舗や銀行店舗、航空サービスなどをネットに繋ぐだけでも、お人形やおもちゃ、机や車いすをネットに繋ぐだけでもイノベーションになりえます。
注)連結化
野中理論SECIモデルの共同化、表出化、連結化、内面化のサイクル参照
■ 感想 ムーアの法則は続くのか?
確かにスマート革命=モノのインターネット時代にはムーアの法則が働くデジタル機器や通信技術、ソフトウエアと働かないアナログのバッテリー部品の間で摩擦が生じており、電気自動車=スマートカー普及の足を引っ張る、スマートフォンの足を引っ張るなど課題が指摘されています。
しかし本書の指摘のようにムーアの法則がこのまま2020年代頃まで継続すると仮定すれば、本当に映画「スタートレック」に近い世界が登場するかもしれませんね。楽しみです。
一昨日ご紹介した明日のセミナーではさわりを話します。
-
-
★★ Review: ‘The Second Machine Age,’ by Erik Brynjolfsson and Andrew McAfee