グーグルを時代遅れにするのか?フェースブックの「LIKE」ボタン
― ネットワーク理論活用の進歩、ハイパーリンクの時代から物が含まれるソーシャルネットワークの時代へ―
<序文>
米国での景気の回復を受けて相変わらず稼いでいるグーグルですが、インターネットを取り巻く投資家の属する金融業界などではグーグル衰退論が昨年(2009年)以来、一向に衰える気配がありません。あの有名な経営誌のビジネスウイーク誌までその議論に参加しています。
そうした中でフェースブックが2010年4月21日から開発者会議F8を開催し、その中で「オープングラフ」と言う新たなネットワークの仕組みと参加者にとって非常にシンプルな「LIKE」ボタンの導入を発表しました。「LIKE」にはプライバシーの議論が多少出ていますが、大人気のようです。「LIKE」ボタンがあれば企業のサイトにわざわざ登録しなくても実質的にユーザー登録を終えたことになります。これが「グーグルの仕組みを時代遅れにする具体的な仕組みであり、具体的デザインコンセプトである」として今注目されています。
これはフェースブックによるFriendFeedの合併効果の成果の表れだとも考えられます。
段々とフェースブックに似てくる距離の大分離れた弟分のツイッターを従えて、フェースブックが何故グーグルの仕組みを時代遅れにするのかちょっと考えて見ましょう。理論としてはグラフの理論、ネットワーク分析を参考にします。
注1) 幾多のグーグル衰退論
★ ★Sean Parker's Web 2.0 Summit Presentation
http://www.scribd.com/doc/21539640/Sean-Parker-s-Web-2-0-Summit-Presentation
★ ★ Twitter/Facebook Will Soon Dominate The Web ― Not Google.
http://www.techcrunch.com/2009/10/22/sean-parker-twitterfacebook-will-soon-dominate-the-web-not-google/
★ ★ Can Google Stay on Top of the Web?
http://www.businessweek.com/magazine/content/09_41/b4150044749206.htm
★★ クラウドコンピューティングの時代にグーグルが衰え始めた訳
http://www.future-planning.net/x/modules/news/article.php?storyid=4178
<引用元:フェースブックより>
<グーグル衰退論の主張>
まず2009年10月のWeb 2.0
Summitでは投資家のSean Parker'がネットワーク効果を用いて中長期的には衰え始めたため、「次第に投資する価値が減る」とグーグルの衰退論を主張しています。その根拠を彼はネットワーク効果に求めています。ネットワーク効果というのは電話と同じで「参加者の数が増えるほど全体の効用が向上する」と言う経済理論です。
参加者の数が既に5億人近く、それぞれがソーシャルなネットワークと言う繋がりを持っているフェースブックやツイッター、アプルのiPhoneのようなネットワークのプラットフォームをビジネスとする企業の方がネットワーク効果を持たない検索広告のビジネスモデルであるグーグルより有利だと言うわけですね。
このネットワーク効果はグラフの理論やネットワーク分析で説明されています。
注3)参考文献 「ネットワーク分析―何が行動を決定するのか」 安田雪 新曜社
更にネットワーク効果はメトカーフの法則やリーズの法則などで説明されていますが、ここでは詳細に立ち入りません。
しかしこの時点までは飽くまでも理論上の可能性に言及されたに過ぎませんでした。
注目すべきことにフェースブックのF8で具体的な仕組みと実践理論が提示されました。
<オープングラフと「LIKE」ボタンがグーグルを脅かす訳>
-情報はソーシャルグラフか、ハイパーリンクかを超えてー
F8の基調講演で創始者のザッカーバーグ氏とFriendFeedから新たに参加したエンジニアが述べているのは、これまでのソーシャルグラフ(人のネットワーク=人脈)に重ねて物やイベント、企業やテーマのネットワークをフェースブックが支援すると言うコンセプトに基づいた仕組み=オープングラフです。
注2) F8における「オープングラフ」の発表
Webの歴史に残るかもしれない重要なな基調講演。
★★F8 キーノートスピーチ
http://apps.facebook.com/feightlive/
(USTREAMのライバルサービスLivestreamTVによるライブ放送の録画)
★★ フェースブックの「LIKE」ボタンがグーグルに脅威な訳
http://www.socialnetworking.jp/archives/2010/05/like.html
フェースブック創始者のザッカーバーグ氏が主張するようにソーシャルネットワークは、人の存在を「人脈」で表現してきました。しかし人の存在は人脈だけでは無く、住んでいる家や買っているペット、大好きな映画や音楽、音楽アーチスト、勤めている会社、行きつけのレストランなどとの関係もあります。社会心理学で説明すれば「人は共同存在であり、パーソナルスペースを持っている」と言うことになりますね。手短に申し上げればパーソナルな人脈にパーソナルな物やイベント、お気に入りの企業などを加えたネットワークがこれまでのソーシャルグラフに代わるオープングラフと言うことになります。
オープングラフをSNSの世界で考えれば、犬好きのコミュニティは「ペットを介した人脈」と言うことになります。
<問題は情報検索の構造の違い>
さてフェースブックは「オープングラフ」に基づく情報や知識はグーグルが基本とする「ハイパーリンク」による情報や知識を凌駕して次世代のインターネットを形成すると主張し、グーグルに対する戦闘宣言を発しています。これはどういうことでしょうか。ちょっと見てみましょう。
グーグルのビジネスモデルは、Webの基本であるハイパーリンクに基づく情報、知識の検索でした。その横にデイスプレー広告が着くという非常にシンプルな構造と良さをもっていました。
一方フェースブックの目指す世界は、ハイパーリンクでは無く、ソーシャルグラフの上に物や組織、イベントなどを加えたオープングラフです。判り易く言えばグーグルに欠けている人脈ネットワークだけではなく、人が絡んだ全ての情報のネットワークをフェースブックは所有する構造になっていると言っています。「LIKE」ボタンがあれば企業のサイトにわざわざ登録しなくても実質的にユーザー登録を終えたことになります。
その結果、グーグルから例えばCNNのサイトに行くには検索、そしてサイトへのハイパーリンクを辿る訳ですが、CNNのファンはどこに何人いるか、誰がファンなのかはCNNも参加ユーザーも知ることが出来ません。グーグル検索はそういうことが判る構造にはなっていない為です。一方企業にとっても簡単に参加者の顔が判り、人脈まで判る「オープングラフ」の構造は魅力的だと言うことになります。参加者にとっては「オープングラフ」により「この企業やイベントを友達が推奨しているのかどうか」直ぐ判ります。まるで顔の見える友達によるアマゾンの本の推奨のような感覚でお目当ての企業サイトやイベントサイト、通販サイト、レストランのWebサイトを訪問できるわけですね。それが「LIKE」ボタンの意味です。グーグルとは構造が違います。その結果、参加者にとって情報を見る視点が異なります。ではフェースブックのオープングラフの考え方を簡単な事例で考えて見ましょう。
事例) 本とそれを買った人のネットワーク (○は買った人)
本A 本B 本C 本D 本E
S君 ○ ○ ○
T君 ○ ○ ○
U君 ○ ○ ○
V君 ○ ○ ○
友達のネットワーク (○は友達関係)
S君 T君 U君 V君
S君 ○ ○
T君 ○ ○ ○
U君 ○ ○
V君 ○ ○ ○
フェースブックのオープングラフの活用が進めば、「本Aを買った人の66%は本Bも買ってます。その内あなた(S君)の友達はT君です」と提示しクロスセルの為の同調効果を高めることが出来ます。これはアマゾンのモデルを数段進化させた情報検索モデルです。オープングラフでは、グラフの理論の活用が今後どんどん進化するでしょう。(流石、FriendFeedの元リーダー達は考えることがスチーブ・ジョブス並みに違いますね。彼らはグーグル出身ですから数学論理を知り尽くしています。)
またこんなネットワーク検索はハイパーリンク型のグーグルでは出来ません。
無論、情報と情報の単純な関係に基づいたハイパーリンクは今後も残るでしょうが、グーグルのサービスの構造はマイクロソフトのBINGに見られるように次第にコモデティ化が進行します。そうなればこれまでのようにインターネットにシフトする広告費の独占状況は長くは続かないでしょう。さて2010年の売り上げ予想が10億ドル前後のフェースブックが年間売り上げの額が200億ドルを遥かに凌駕するグーグルに実際にどこまで迫れるでしょうか。
<両者の情報構造の違い>
そうなれば以下のようになります。
◆グーグル
① ハイパーリンクによる情報間ネットワーク
◆フェースブック
① 人脈によるソーシャルグラフ(ソシオグラム)
② 人脈ネットワーク + 情報(イベント、企業サイトなど)が重なるネットワーク
③ ハイパーリンク型情報(Bingなどのコモデティ型検索エンジンを活用)
グーグルの場合上記①②が欠落している訳ですね。
昔、ナレッジマネジメントが華やかだった頃、形式知中心の情報ポータルに対し、暗黙知を提供する仕組みとしてコミュニティ(実践コミュニティ)やエキスパートネットワークが重視され、また紙情報にはロケーションサービス(例えば契約書の保管場所を記したナレッジポータル手法が注目を集めました。グーグルは形式知だけの情報ポータルであり、フェースブックはヒューマンネットワークによる暗黙知とヒューマンネットワークに基礎を置く形式知も共にサポートする新しい仕組み(ナレッジポータル)とも考えられます。
単純な検索の仕組みの数学的高度化の時代は終焉し、グラフの理論の高度な活用してネットワーク効果を狙うフェースブックなどの時代がやってこようとしています。