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「ツイッターノミクス」に学ぶツイッター心理学 その1 評判の経済とギフト経済の秘密

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 タラ・ハントさんの「ツイッターノミクス」(出版社文芸春秋)と言う本が評判ですよね。筆者も久しぶりにこの手の本の翻訳版を楽しませて頂きました。大抵は原書で読むのですが、「ツイッターノミクス」は村井章子さんの訳がとても優れているので日本語で楽しませて頂きました。

 

全体を「ウッフィー」と言う用語で説明していますが、ちょっと分解してみると背景には色々な社会心理学の基礎理論が隠れています。(筆者の欧米書籍の読書の楽しみの一つはネタ晴らしをして楽しむことです。)

 

さてタラ・ハントさんだけではなくこの手の本を読むと欧米のコンサルタントの深い教養と同時に「社会学や社会心理学、人類学」などのしっかりとした基礎的な学問を背景としている点に何時も驚かされます。ナレッジマネジメントの視点から言えば「形式知」の活用に優れていると言うことですが、凡そインターネット上でコミュニティに関わる人々の中に心理学の基礎を殆ど知らない人々が日本では余りに多いのでちょっと「ツイッターノミクス」を材料としてネットの心理学をシリーズ物で語りたいと思います。

 

そういえば筆者は月に一度、SNSサービスの提供企業の某社で社会心理学の講義をしているのを最近、すっかり忘れていました。

 

<評判の経済とギフトの経済>

 

 タラ・ハントさんは「ウッフィーは通貨に代わる信頼や評判からなる」と言っており、「ウッフィーは評判の経済やギフト経済における通貨だ」と主張しています。

 

「評判の経済」を論じている基礎的な考え方は、日本でも行動経済学として知られている「進化心理学」の中の一つの議論です。進化心理学によれば現代人の心の仕組みは約10万年前の狩猟・採集時代のバンド(群れ)の中で作られ、そのままの形で現代人に受け継がれています。(だから色々問題が起きると言う余談もありますが。)

 

進化心理学の基本は「利己的な遺伝子論」、即ち人の意識的、無意識的行動は自己の遺伝子の生き残り戦略に基づいた利己的な方策であると言う考え方に基づいています。これは一見、ネットコミュニティにおける「ウッフィー提供」と全く正反対の考え方ですよね。

 

さて狩猟・採集時代のバンド(群れ)の中で一体、誰が信頼でき、誰が裏切り者なのかを測る心の仕組み(脳の仕組み)が育ちました。手短に何時もお互いに交流している相手との間には「互恵性」とか「互酬性」と言ったものが育ち、それが「互恵的利他主義」と言った利己的な遺伝子の生き残り戦略として群れの間に広まりました。このあたりは行動経済学のゲームの理論が詳しく述べています。遺伝子の生き残り=社会的淘汰のためにお互いの間に互助会的な関係性を志向する心の仕組みが芽生え、それが遺伝的に子孫に受け継がれた訳ですね。

 

さて進化心理学の最大の謎は「全く見返りが期待できない相手に対しても、何故人は贈り物を贈るのか」と言う点でした。例えば「雪道で困った人の車を押す行為」は、全く見返りなど期待できません。これは利己的な遺伝子の生き残り戦略と矛盾します。

 

例えばマイクロソフトのビル・ゲーツさんは、市場競争でオフィス製品やWindowsの販売のためには死に物狂いで幾多の裁判も含めて市場競争を戦い抜きました。しかし現在では、稼いだお金で財団を作り奥さんと一緒に社会貢献に全力投入しています。

 

あれだけ激しい戦いで稼いだお金を何故、見知らぬ第三者、見返りが全く期待できない人々に贈るのでしょうか。利己的な遺伝子論の視点からは大きな謎でした。

 

「見返りの期待できない贈り物」、即ちギフト経済のこのテーマは進化心理学者の間で90年代から21世紀にかけて大議論になりました。

 

その結論はまだ完全には出ていません。しかし最も支持されている学説の一つが「評判の獲得」です。「見返りの期待できない贈り物」を繰り返せば、良い評判が立ち、その内、不思議な見返りが来ます。例えば伝統的な日本企業内で昇進の早い人は、多くの場合「良い人」であり、「見返りの期待できない贈り物」を提供する傾向があると言われています。

 

それを昔、大前研一さんは「丸い仏様のような人が偉くなる日本企業」と揶揄したと言う落ちもありますが。

 

評判の獲得がビジネスにつながると言う指摘はタラ・ハントさんの言うとおりですので、続きは「ツイッターノミクス」をお読み下さい。

 

評判の獲得にはさまざまな見返りがあり、それが利己的な遺伝子の生き残りにプラスだから人々はギフトの経済、評判の経済にのめりこむと言うお話でした。

 

いやタラ・ハントさんは進化心理学をよく研究しています。でも人の書いた本のネタ晴らしをするって本当に愉快ですよね。

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