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「自分だけの武器」を持たねば、フリーランスとしては生きていけない。「オリジナルの戦略」を描けなければ、コンサルタントは務まらない。私がこれまで蓄積してきた武器や戦略、ビジネスに対する考え方などを、少しずつお話ししていきます。 ・・・などとマジメなことを言いながら、フザけたこともけっこう書きます。

町おこしのヒントと、販売戦略のコツ

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インバウンドがかつてないほど盛り上がっている。訪日外国人は右肩上がりで伸びており、このままいけば「2030年に6千万人」という政府目標も達成しそうな勢いだ。もちろん、その途中でやってくる2020年の東京五輪が大きな起爆剤になることは間違いなく、多くの企業や自治体がビッグイベントに向けて動いている。

でも、冷静に考えればオリンピックはわずか17日、パラリンピックは13日。五輪だけでなく祭りの後を今のうちから考えておかないといけないのだが、そうもいかないようだ。

事実、東京五輪に携わる複数の企業から話を聞く機会があったが、2020年でマーケティング計画が止まっているケースは少なくない。というより、そもそもオリンピックという未体験イベントだけに「自社の何をウリに」「どう戦略を立てればいいのか」迷っているようだ。

ところが、ウリは意外なところに転がっていたりする。

珍魚の加工品は売れるのか

以前、町おこしの相談があった。仮にA市としよう。
海と山に囲まれた平凡でのどかな街を訪ね、1人の市議会議員と面談することになった。

「この近くで獲れる珍魚を加工品にして東京で売りたいと考えているんですよ」

東京は感度の高い消費者が多いからきっと売れるだろうし、珍しい加工品だから話題になれば街のいい宣伝にもなると。議員はそのアイデアに自信満々の表情だった。

うーん。ボクはすぐに首をひねった。

目の前には街の地図が広げられていた。街の東には海が広がり、西には山が連なり、その合間に挟まれるように街や田畑がある。確かに、海と山に囲まれた美しい光景。

ただ、根本的な問題があった。地形である。
A市は南北に長く伸びた地形のなかにあり、すなわち、北にも南にも
似たような美しい街が連なっている。どの街にも海があり山があるのだ。当然のように珍魚は海を自由に泳ぐから、もはや「珍魚の加工品」はA市のウリとも言いがたい。

それより何より、珍魚の加工品は珍しいから「東京で売れるはず」「話題になるはず」という根拠が薄い。ビジネスのアイデアと思い込みは紙一重だ。

やんわりアイデアの弱点を指摘すると、議員はハッと気づいたように目を丸めてから、ぼそりと漏らした。

「そうしたら、うちの街には何もウリがないなあ......」

平凡な街に潜んでいた意外なウリ

ボクは気まずくなって地図を眺めているうちに、あることに気づいた。畑のなかにパン屋がポツンとあったり、個性的なチーズ専門店があったり、ワイン屋があったり。場違いといったら失礼だが、小さな田舎町にしてはちょっと意外な感じがする。ほのかな芸術性が漂うのだ。

議員に尋ねると、この辺りは水がきれいで空気もよく食品づくりには最適の環境で、新興のお店の多くは移住組であり、チーズ屋にいたってはわざわざ北海道から移住してきたという本物ぶりだ。

そんな豊かで個性的な土地柄を好んでか、移り住んでくる芸術家がけっこういるほか、芸能人がお忍びで暮らしているという。また、街はずれに点在する古民家は密かに都会人の人気を集めているそうだ。

別に珍しい話ではないらしく、議員はつまらなそうに淡々と語った。それもそのはず、彼にとっては日常の暮らしだから。
ところが、ボクは話を聞くうちに口元が緩んでいった。

「ウリは何もないどころか、十分過ぎるほどあるじゃないですか!」

例えば、オウンドメディアでパン屋の話をする。チーズ屋の紹介をする。ついでにのどかな田園風景にひっそりたたずむ古民家を載せる。

親善大使を立てて何もない自慢をしてもらう。

海を走って山を駆け、途中でワインを飲み、パン屋やチーズ屋をめぐりながらのグルメなマラソン大会なんて、自然を満喫しながら街も体験できる名物イベントになるかもしれない。もちろん、宿泊や食事といった経済効果も期待できるだろう。

ボクが思いつくまま語ると「普通の暮らしがウリになるのか?」と議員は不思議そうな表情を浮かべた。でも、町おこしの成功例を見れば、村に落ちている葉っぱをビジネスにしたり猛吹雪を逆手にとったツアーを開催したり「何でもない暮らし」をウリにしているケースは多い。

初手で決まるマーケティングの世界

マーケティングの生命線は「どこに目を付けるか」にある。
そのアイデアに従ってリサーチ、宣伝、プロモーションといった最適な手段を考え、それらが有効に機能するよう組み合わせ、予算とスケジュールを組む――。

難しく考えがちなマーケティングだけど、構造そのものはとてもシンプルであり、実際シンプルな方がうまくいくケースは多い。そして、最初のアイデアの良し悪しがそのまま戦略の方向性を決定づけるため、「どこに目を付けるか」という初手が何より重要になってくる。

珍魚を売る――。一過性で話題を集めたところで消費者はすぐに忘れるし、もはや珍品は珍しくもない。真似される危険もある。一方「暮らしを売る」「古民家を売る」という発想なら街に人を呼び込めるうえ、永続的な取り組みになるかもしれない。消費者に与える宣伝効果もまったく異なるだろう。

ウリがない――。商品が売れない――。ライバル社と差別化できない――。

町おこしに限った話でなく、どんな企業にも必ずウリがあるものだ。そして、A市のケースと一緒で、ウリは意外と身近なところに転がっていたりする。

(荒木NEWS CONSULTING 荒木亨二)

ウリを見つけて販売戦略に新たな展開を――。マーケティングを立て直す専門のコンサルティングです。詳しくは下記Webサイトをご覧ください。

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