UltraFusion という隠し球を出してきた Apple の底力
先週は恒例のAppleの新製品発表がありました。事前の予想ではM2チップの発表とそれを搭載した13インチMacBookPro(MBP)が発表されると言うことで、私も発表を待ってMBPを発注しようと思って待っていたのですが、残念なことにM2はおろか、MBPの新製品も発表されませんでした。
その代わりに発表されたのが、M1 Ultraというチップを積んだMac Studioです。しかし、その肥大したMac miniの様なフォルムと、「M1 UltraはM1 Maxを2つ繋げたもの」という説明から、当初はまったく興味を持てませんでした。頭の中がMBPで占められていたせいかもしれません。しかし、どうもこのM1 Ultraは、ただ単にM1 Maxを2つ繋げただけのものでは無かったようです。
どうも、よくある「チップを2つ載せて2倍の性能と言い張る」ということでは無いようです。「チップを2つ組み合わせて1つのチップとして動作させる」ということのようで、私もこんなチップは聞いたことがありません。研究用としてはあるのかも知れませんが、商用(しかもコンシューマ用)として実用化されたことは無いのではないでしょうか。
M1 Ultraの概要は本田さんの記事に詳しいので繰り返しませんが、概要としては「M1 Maxの時点で、2つのチップを相互に接続し、一体として動作させるための仕組みが整っていた」ということのようです。接続部分については
2021年の発表時に公開されたM1 Maxの写真には映っていなかったが、新たに公開された写真では別のM1 Maxと接続するためボンディングパッドのような部分が存在している。
とありますが、これは絶対に、Appleはわざと隠していたのでしょうね。変なパターンがあれば誰かが気づくでしょう。
そしてこの接続部分の帯域幅が「2.5TB/s」ということで、これはちょっと驚きの数値です。記事にも「従来のマルチチップインターコネクト技術の4倍以上」と書いていますが、あのNvidiaが買収し、IBMのスパコン「Summit」で採用されているInfinibandのスループットが最大1200Gb/s、富岳のTofu Interconnectで560GB/sということですから、数字だけ見ればスパコンよりも速いということになります。まあ、M1 Ultraは距離が近いチップ間接続ですし、恐らくは2チップしか考えられていないため、Summitや富岳のようなマッシブパラレルとは自ずと違うとは思われますが、それにしてもコンシューマ製品にここまでの性能を持ち込んできたことは驚きと言えるでしょう。
そして、2つを高速に繋ぐだけでは1つのチップとしては動作しません。もうひとつの仕掛けが、「M1 Maxのスケジューラーは20コアのCPUがあることを想定し、命令バッファの量なども最適化されている」ことと、「メモリコントローラも統合されたように動作する」ことです。あらかじめ、2つ繋いだときのことを考えて設計してあるというのです。そうすることで2つのプロセッサはあたかも1つのプロセッサのように動作し、性能は2倍になり、さらに
デュアルプロセッサ構成ながらもソフトウェアからは1つのチップと認識されるため、ソフトウェア開発者はマルチプロセッサ構成の互換性を気にしないでいい
と、なんとも考え抜かれた設計になっているのです。これがそもそものM1開発時から想定されていたかどうかはわかりませんが、そこまで考えていたと考える方が自然ではないでしょうか。Apple恐るべし。
誰も予想できなかったM1 Ultra
一番凄いのは、このような展開を「誰も予想できていなかった」ことです。本田さんは
予想外というよりも「ここまでやるのか」と嘆息した
と書いていますし、石川 温さんも、
西田 宗千佳さんも、
この業界で名だたるジャーナリストの皆さんが、この展開は予想していなかったちうことです。それほどに、今回のM1 Ultraは常識を外れた発想と性能を持っているのです。これが50万円で手に入るのですから、凄い時代になったものです。
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