ネット広告に立ちはだかるプライバシーの壁
先週、こんな記事が流れていたのが目につきました。「1兆円」というのはなかなかに大きな数字です。これはタイトルにやられた感じですね。
記事を読むと、2021年下期で、ということですので、半年で1兆円が消し飛んだということになります。(それならタイトルも、「半年で1兆円」のほうがよりインパクトがあったのでは、と思いますが)
しかもこれはSnapchat・Facebook・Twitter・YouTubeの4社で、ということです。中でもFacebookへの影響が大きく、売上高の13.2%、約9100億円(1兆円のうち、ほとんどですね)の減少だそうです。実際、Facebookの7-9月期の決算では売上高がアナリスト予測を下回り、ザッカーバーグもAppleが要因と名指ししています。
記事には、Appleが2020年にiOSのプライバシーポリシーを大幅に変更したことが原因、と書かれています。その後2021年4月にリリースされたiOS14.5から、新しいポリシー(ATT)が適用されたため、2021年下半期に影響が出る、ということのようです。
タイトルだけ見るとAppleが悪いことをしたようにも見えますが、これは別にAppleが悪いのではなく、ここ数年EUなどでプライバシーに対する懸念が高まり、特に米大手プラットフォーマー(GAFAM)への圧力が高まってきたことが背景にあります。その代表例がGDPRです。
オプトイン必須でターゲティング広告が困難に
GDPRの説明の前に、まずは今回のAppleのポリシー変更の内容を見てみましょう。今回導入された新しいポリシーとは、「ユーザーが事前にオプトインで許可しない限りはアプリ側がユーザーの情報を収集して行動を追跡できないようにする」ということです。オプトインというのは「事前承認」のことです。
インターネットで多用されるターゲティング広告は、ユーザーがどのようなサイトを見たかなどの情報を解析して、最適な広告を表示するというものです。Facebookなどはこれにユーザーの年齢や性別などのデータを持っている(アカウント開設時に登録する)ため、さらに「ユーザーに合った」広告が表示され、それが広告の費用対効果を高めるため、SNSなどのサイトにとっては貴重かつ最大の収益源となっています。
それまでプラットフォーマー側はユーザーに事前に「行動のデータを記録しますがかまいませんか?」とか、「行動に基づいて広告を出しますが良いですか?」とは聞いていませんでした。いわば、黙って勝手に記録を取り、行動を監視していたわけです。
しかし、これが行き過ぎると、何か気持ちが悪いのも事実です。こういった状況に、個人の権利に敏感なEU諸国が声を上げました。プラットフォーマーにオプトインを義務づけたのです。行動データを取っても良いか、広告の受け取りを許可するかを事前に聞くのが「オプトイン」というわけです。この条項が含まれ、さらに厳しい罰則までが定められた規則がGDPR(EU一般データ保護規則)です。2018年に施行されました。
その後、様々なブラウザーがターゲティング広告でユーザー追跡のために使われるcookieの規制に乗り出しました。
リタゲ広告とは「リターゲティング広告」のことで、要はターゲティング広告を何度も出すことです。cookieが使えなくなるとユーザーの行動が追跡できず、この広告手法そのものがもう使えなくなるのでは、という危機感が広がりました。
ちなみにGDPRは一般企業にも影響を与えます。企業のWebサイトでWebマーケティングのためにユーザーの行動を収集したりすることにも、オプトインが義務づけられているのです。GDPRはEUの規制ですが、EU市民のデータを取り扱う場合には外国企業も対象になります。普通、Webには世界中からアクセスがありますから、世界中の企業がGDPRに従わなければならなくなったのです。最近、あちこちのサイトでcookieの受け入れに対する許可を求めてくるのは、これが原因です。
インターネットはこれだけ普及しましたが、そこから収益を得るのはなかなか大変です。ネット上での小売り、サブスクリプションやコンテンツ課金、マッチングによる手数料など、様々な取り組みがなされていますが、いまのところ一番金額が大きく、ビジネスモデルとして安定していて、多くのサービス形態に対応できるのが広告ではないでしょうか。プライバシー問題に真正面から疑問を呈することは難しいですが、ネットビジネスの未来を考えると、プライバシーとのバランスをどう取っていくかというのはこれから大きな問題になってくると思います。
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