独自チップによる差別化が進む IaaS ~もはや「どれも同じ」では無い
AWSがGraviton 2ベースのサービスを開始したとの発表がありました。
Graviton 2はAmazonが独自に開発したArmベースのプロセッサで、Intelのx86と比較して価格性能比が40%向上しているということです。
IaaSというのはクラウドサービスの中でも最もシンプルなもので、データセンター上の仮想(リアルも)マシンをネットワーク経由で従量課金で利用する、いわば「素うどん」のようなものです。ハードウェアとOS、場合によっては最低限のミドルウェア(この場合はデータベース)を提供するものですので、材料としてはサーバーハードウェアとOSくらいなものです。CPUはIntelかAMD、OSはLinuxということになりますから、この部分で差別化するのは難しいですよね。(もちろん、データセンター自身の信頼性とかで差別化することはできますが)
それが、数年前からx86に変わる選択肢が増えてきました。AIなどの高負荷用のアクセラレータとしてGPUを使ったインスタンスを用意し始めたのはもう少し前からですが、クラウドベンダー各社が自ら独自プロセッサを開発してサービスを提供し始めたのです。それまでどちらかといえば画一的なサービスメニューしか無かったIaaSに、新たな選択肢が生まれました。
AI分野で顕著な独自チップによる差別化
Gravitonは汎用プロセッサですが、メガクラウド各社はAI処理の高速化に力を入れています。GPUを使ったインスタンスはもちろん、AWSは独自開発のInferentia(推論用)とTrainium(学習用)を使ったサービスを展開していますし、GoogleはCloud TPUを使ったサービスを提供しています。TPU(Tensor Processing Unit)はAIに特化したアクセラレータです。Microsoftは、今のところ自社開発のプロセッサは無いですが、Graphcoreの巨大AIチップやColossus IPUなどを使ったサービスをいち早く提供しています。Microsoftも独自プロセッサの開発に乗り出したと言われており、「まずはデータセンター用」とのことですから、他社同様クラウドサービスに使って差別化を図るつもりのようです。
これらはAI処理環境とセットなので、IaaSと呼んで良いのかどうかわかりませんが、専用ハードウェアを使って差別化しているという点で、IaaSレベルの差別化と言って良いのではないでしょうか。
コンピュータアーキテクチャ新時代
数年前までは、サーバーのハードウェアについてはあまり悩む必要は無かったのです。CPUはIntelかAMDという選択肢しかありませんでした。IntelもAMDも、常に世界最先端の半導体技術を維持しており、ムーアの法則が有効で有る限り、プロセッサの性能は毎年自動的に(もちろん、Intel/AMDがものすごく頑張ってそれを維持してきたからなのですが)上がっていったのです。ユーザーはそれを買えば良かったですし、自分でお金と時間、人件費をかけて独自のCPUを作ろうとしてもコストに見合った成果は望み薄でした。しかし、ムーアの法則が終焉を迎えつつある中、Intelアーキテクチャと、半導体技術の進化によってプロセッサの性能が勝手に上がっていった時代は、もう終ったのです。
その意味で、現代は新しいコンピューターアーキテクチャが生まれる好機だと言う人もいます。
まさに、
「トランジスタがこれ以上は良くならないのだから、今後はトランジスタの使い方、すなわちコンピューターアーキテクチャーを工夫することで性能を引き上げるしかなくなった」
ということなのです。ここでのアーキテクチャとは、これまで主流だった「ノイマン型」以外のアーキテクチャを指すと考えられます。昨年発表されたApple M1などは、ノイマン型とは違うメモリ構造を採用して驚くべきパフォーマンスを実現しました。以前書いたメモリドリブンなども、同じ方向性です。GoogleのTPUが採用したシストリックアレイも、非常に面白い取り組みです。
ビッグデータの時代になり、今後も処理能力への要求は拡大するでしょうから、ムーアの法則「後」を見据えた新しい動きは加速していくでしょう。自社でチップを開発できない企業は苦しい立場に立たされるかも知れません。他社技術を採用する際には、独自の目利き力も必要になるでしょう。面白いと同時に、大変な時代になったものです。
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