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会社を変えるのは「壊し屋」ではない

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このところ、セオドア・レビットの論文を読み返しています。レビットは、日本ではコトラーほど有名ではないように思いますが、いずれ劣らぬマーケティングの大家です。

セオドア・レビット 偉大なるマーケティング界の巨人

直接の原因は、Kindle版で20本以上の論文が収められた合本(T.レビット マーケティング論)を見つけたことです。読んだ論文もあるのですが、未訳の論文も多く、楽しめます。その中の「アイデマンの大罪」という2003年の論文の中に、面白い記述がありました。「アイデアマンは無責任」だと言うのです。

組織がイノベーションを起こす為には、まず「アイデア」、そしてそれを形にする「実行力」が必要です。しかしレビットはこう言います。

一般に、ビジネスの世界は新しいアイデアで満ちあふれている。足りないのはむしろ実行力である。

そしてこう続けます。

真に貴重なのはむしろ、アイデアをかたちにするノウハウ、熱意、勇気、粘り強さなどを備えた人材である。

Kindleからコピペすると、余計なスペースが入って面倒くさい(わざとなのでしょうね)ので、これくらいにしますが、これは、私たちのような「コンサルタント」と呼ばれる業種の人間にとっての痛烈な一撃であり、さらに言えば私自身が日頃感じていたことを明文化してくれたとも言えます。

presentation_man.pngアイデアマンは無責任!?

この論文は、別にコンサルについて書かれたものではありません。組織の中にいて「アイデアを出すだけ」のアイデアマンを揶揄しているのです。正論を述べ、改善のためのアイデアを出すのはもちろん大切ですし、それが苦手な人もいるわけで、新しい着想の下にアイデアをどんどん出すのはもちろん悪いことではありませんが、「アイデアマン」は往々にしてアイデアを出すだけでその実現へ向けた努力には興味が無く、「言いっぱなし」になってしまうため、むしろ「無責任」と言っても良い、というのがレビットの主旨なのです。(「空理空論」とまで言っていますね)レビットは、アイデアマンを「社内に良くいる不平家」と断じ、「アイデアの創出とイノベーションは別物である」と書いています。そのため、「言いっぱなし」を許さず、「言ったことに責任を持つ」ことを要求すべきであり、それができる人材を重用すべき、ということなのです。

新たに設立された組織なら別でしょうが、これまで活動を続けてきた組織には当然現状の業務に最適化された業務プロセスがあり、人事や総務などの業務はそこに最適化されています。誰かが「良い事」を思いついたとしても、会社全体を見通して実現のプロセスを見極め、現場の反対(現状で成果をあげている担当者ほど、反対するに決まっています)を押し切っ(あるいはなだめ)て改革を進めて行くのは大変な苦労を伴います。アイデアを出すことではなく、それを実現させる方法を考え、それを実現した人材こそを評価すべきなのです。

コンサルタントはどうなのか?

これは、さまざまな企業様に出向いて「世の中の流れはこうだから、御社もそうしなければ」とか、「アメリカの会社では普通にやっていることです」などという話をしてビジネスをしている「コンサルタント」という業種は、「空理空論」を振りかざす「無責任」な輩、ということになります。もちろん、契約内容等によって、その組織に残って提案内容を現実化させるまで責任を持つ場合もあります(大手の経営コンサルタントなどはそうなのでしょう)が、全体を見ればそこまで入り込めない場合の方が多いのではないでしょうか。

そして、それこそが私たちコンサルタントにとっての「限界」でもあるのです。コンサルタントの仕事は社外、あるいは海外のトレンドや事例に基づいて、お客様の業務の改善を提案することにありますが、いろいろ提案をしたところで、それを実行していくための人員を確保できなかったり、実行をサポートしていこうとしてもそこで契約が打ち切られてしまうと、それ以上業務改革に踏み込み、関わっていくことができません。その結果、数ヶ月経っても改善が見られなかったり、一旦上向いても結局元に戻ってしまう、ということがあるのです。こちらの提案を工夫すれば良いのかも知れませんが、今のところ良い方法は見つかっていません。経営コンサルタントの皆さんがやっているような、「提案後に組織に入り込んで改革の完了まで面倒を見る」という契約には、それなりの理由や背景があるのでしょうね。しかし、これには多額の費用がかかりますし、経営コンサル以外ではあまり一般的ではないのではないかと思います。

これはDXの議論にも当てはまる

この記事を書いていて思い出したのが、今年SAPの社長から富士通の執行役員常務 CIO兼CDXO補佐に就任した福田 穣さんの記事です。

「まさに長篠の戦い。織田信長のように戦い方を一変させる局面」富士通福田譲×福田康隆のDX対談

福田さんにはちょうど転職の時期にITソリューション塾でお話しいただいたこともあって特に印象に残っているのですが、非常に穏やかに論理的な話をされる方で、その背後には確固たる信念を感じさせる方です。

このインタビュー記事の中で福田さんは、SAPが社内改革を進めていった経緯を見て

あと2年で定年という役員の方が、10年後の自社を考えて、ルールを変えていこうとするんです。(中略)日本企業は総論賛成、各論反対の傾向が強いのですが、この各論反対が起きた時に粘り強く調整をし、ゴールに導いていく姿には感動します。

と仰っています。まさに、アイデアを現実化するための努力を惜しまない姿を示しています。それを目の当たりにした福田さんが、富士通で何をしていくかの心構えとして、

私自身も肝に命じていますが、CIOも経営チームの一人であり、ITやデジタルの視点から経営層の中でリーダーシップを発揮することは義務でしょう。

と、自らが先頭に立って改革を推し進める考えを示しています。DXは経営課題である、という話はこのブログでも書いてきたことですが、CIOの立場から経営全体を動かしていく、という考え方は今後もっと重要になっていくでしょう。

インタビューの中で織田信長が出てきますが、この三英傑については、よく「信長が壊し、秀吉が再構築し、家康が永続化した」といったようなことが言われます。人にはそれぞれの役割・得意分野があるということなのでしょう。それを考えると、コンサルタントは「壊し屋」で良いのかも知れません。しかし、壊した組織を再構築し、何年もかけて最適化していく地道な努力をしていく人達を同時に用意しないと、結局変革は失敗に終ります。こういった「中の人」達を外部からどのようにサポートし、関わって行くのが良いのか、難しい問題です。

 

【募集開始】第35期 ITソリューション塾

オンライン(ライブと録画)でもご参加いただけます。

ITソリューション塾・第35期(10月7日開講)の募集を間もなく締め切ります。

新型コロナ・ウイルスは、肺に感染するよりも多くの人の意識に感染し、私たちの考え方や行動を変えつつあります。パンデミックが終息しても、元には戻ることはありません。私たちの日常は大きく変わり、働き方もビジネスも変わってしまうでしょう。これまでの正解は、これからの正解と同じではありません。ならば、事業戦略も求められるスキルも変わらざるを得えません。

本塾では、そんな「これから」のITやビジネスのトレンドを考え、分かりやすく整理してゆこうと思います。

特別講師

この塾では、知識だけではなく実践ノウハウについても学んで頂くために、現場の実践者である下記の特別講師をお招きしています。

  • アジャイル開発とDevOpsの実践
    • 戦略スタッフ・サービス 代表取締役 戸田孝一郎 氏
  • 日本のIT産業のマーケティングの現状と"近"未来
    • シンフォニーマーケティング 代表取締役 庭山一郎 氏
  • ゼロトラスト・ネットワーク・セキュリティとビジネス戦略
    • 日本マイクロソフト CSO  河野省二 氏

開催要項

  • 日程 初回・2020年10月7日(水)~最終回・12月16日(水)
  • 毎週18:30~20:30
  • 回数 全10回+特別補講
  • 定員 100名
  • 会場 オンライン(ライブと録画)および、会場(東京・市ヶ谷)
  • 料金 \90,000- (税込み\99,000)
    • PCやスマホからオンラインでライブ&動画にて、ご参加頂けます。
    • 資料・教材(パワーポイント)はロイヤリティフリーにて差し上げます。

詳しくは、こちらをご覧下さい。

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