スパコンの「肝」を手に入れたNVIDIA
直近の四半期の売り上げが前年比で24%も減るなど、このところ良いニュースが無かったNVIDIAですが、素早く次の手を打ってきました。
Intelは60億ドルをオファーしていたとのことです。買収合戦だったようですね。
Mellanoxで検索すると、ギガビットイーサネットなどが出てきます(こちらのほうが売上としては多い様ですが)が、注目すべきは「Infiniband」です。Infinibandは、スパコンなどのHPC(High-Performance Computing)分野で使われているインターコネクト技術で、Mellanoxはこの市場で大きなシェアを持っています。
インターコネクト技術というのは、CPUやメモリ、ノード間でデータを高速に転送するための技術です。スパコンではCPUの処理能力がクローズアップされがちですが、実際に計算を行う場合には、その高速なCPUに対してどれだけ途切れること無くデータを供給できるかが重要になります。今のスパコンはマイクロプロセッサを超並列に相互接続したアーキテクチャが主流で、そのプロセッサの間をデータが駆け巡ります。必要なときに必要なところにデータがスムースに供給されないと、あちこちで待ち時間が生じ、性能を100%発揮できません。スパコンの処理能力を支えるもうひとつの「肝」ということができます。
IBMのスパコンで協業
Wikipediaによると、現時点でInfinibandは最大600Gbps(12レーン)という転送速度を実現しているとのことで、将来は3Tbpsが視野に入っているようです。スパコンの「京」では、富士通が開発したインターコネクト技術である「TOFU」が使われていますが、他の多くのスパコンではInfinibandが採用されています。
昨年世界一になったIBMのSummitもそのひとつ。Wikipediaによると、
DOEから受注したIBMがNVIDIAおよびMellanox Technologiesと共同開発し[3]、発表時点での世界最速のスーパーコンピュータとなった[4]。
ということで、このプロジェクトでNVIDIAはMellanoxと共同開発していたのですね。
はじけたビットコインバブル
NVIDIAは元々GPUのメーカーですが、ずいぶん前からGPUを汎用目的に使うための技術を開発してきました。GPGPU(General Purpose Graphics Processing Unit)と言います。PCに組み込まれたGPUでPhotoShopの画像処理を行わせたり、GPUでスパコンを作ったり、最近ではAI分野で広く使われてきました。
ただ、NVUDIAの業績がここ2~3年急激に伸びたのは、実は仮想通貨だったということです。仮想通貨のマイニングに使われるアルゴリズムがGPUの処理に合っていたということで、一昨年のビットコインバブルの頃は秋葉原のパソコンショップの店頭からもグラフィックスボードが消えてしまいました。
それが、ビットコインの暴落により、GPUを使ったマイニングがコスト的に見合わなくなったり、中国でマイニングが禁止されたりしてGPUの需要が落ち込んだ結果、業績が一気に悪化したのだそうです。今年1月に終了した第4四半期の売上は、対前年比で24%、対前四半期比で31%下落したということですから、ものすごい下落です。
とはいえ、仮想通貨以外の本業(ゲーム、AI、データセンター)は堅調ということですから、ビットコインバブルの精算が済めば、それ以上の落ち込みは防げるでしょう。
原点回帰
NVIDIAの本業はGPU/GPGPUであり、HPC分野はNVIDIAの原点と言えます。今後サーバーをスケールアップしていくためには、高速のインターコネクト技術は益々重要になっていきます。スパコンが何十台も売れることはないでしょうが、インターコネクト技術を手に入れたことは、NVIDIAにとって次の飛躍へのステップとなるでしょう。
面白い記事を見つけました。
なぜこれが面白いかというと、NVIDIAもかつて「謎の会社」と呼ばれていたからです。
このタイトルにはネット民から多数の突っ込みがありましたが、上の記事はそれをもじっているのでしょうね。
「謎の会社」を謎のままにしておかないために
GPUとスパコン用インターコネクトがなぜ関連し、なぜ重要なのか、おわかりいただけましたでしょうか?
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