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【10冊】 「サービス」が「クレーム」に変わる瞬間

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 先日開催した、ある公開講座でのできごとです。講師の好意で、小冊子がプレゼントされることとなりました。講座の参加申込者数は40名ほど。「サンプル品ですから、気軽に差し上げて下さいよ。【10冊】しか持って来られなかったから、希望者に先着順で配布してください」と講師。早速、提供いただいた【10冊】が受付テーブルの上に置かれ、来場者プレゼントがはじまりました。

 予期せぬプレゼント、来場者たちには好評だったようです。「なんか得した気分ですね」「これは役に立ちそうな本だ」…口々に謝辞が聞かれました。間もなく予定の10冊が配布し終わり、講座が始まりました。教室の中からは笑い声も聞かれ、和やかに進んでいるようでした。予定通り、90分ほどで講座が終了。会場の片づけをしている時、数人が受付のところにやってきました。

 「今日、本のプレゼントされた人がいたそうですが、私たちはもらってないんです」と、あるご婦人が口を開きました。

 「すみません、あの冊子は講師からのサービスでプレゼントされたものなんですよ。ただ、【10冊】しかなかったので、早く来られた方から順にお渡ししたんです…」

 「サービスかもしれんが、私たちも欲しいんですよ。もらえる人ともらえない人がいるのは不公平じゃないですか」

 「そうおっしゃられましても…あくまでもサービスですから…」

 「だったら最初から募集広告に、先着順で本のプレゼントあり、と書いておくべきでしょ。そうしたらわたしたちも早く来たのに。一部の人だけひいきしちゃ困るよ…」

 こんな押し問答が受付であった(と、講座後に報告を受けました)。

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 プレゼント配布された本は、講師の著作のダイジェスト冊子であり、それこそ無料のサンプルみたいなものでした。「これじゃせっかくサービスしていただいた講師の先生に申し訳ないですよね…」と受付を担当した職員。確かにそう。それに、もらえなかったからといって、クレームを言われるようなものじゃない。でも、もらえる人ともらえない人がいるというのは、不満を生みやすいのも事実です。

 さて、今回のケースでどう対応すれば良かったのでしょうか。

(1)あくまでもサービスであるし、無料のサンプル冊子なので、先着順の配布で問題はなかった
(2)【10冊】しかないので、講座参加者に希望を募り、希望者に配布する
   もし希望者が10名以上いた場合は、公平な抽選(クジ、じゃんけん)で決める
(3)10冊では足りないので、クレームとなる可能性を考慮し、無料配布を見送る

 他にもいろいろあるでしょう。高価なサービスならともかく、サンプル品ですから、(1)の対応で問題ないようにも感じます。でも、より公平性に配慮すれば、(2)がいいのかもしれませんね。しかしながら講座の時間に限りがあるので、難しい場合もありえます。実際のケースでは、(無料プレゼントがあることは)言わなきゃわかんないわけですから、(3)が現実的な対応となるような気もします。

 ありがちなのは(3)かもしれませんが、私の意見は、(3)は避けたいと思います。だって、誰も得しないんですよね。講座参加者は一人もプレゼントをもらえない。講師もファンを増やすチャンスを逃すし、著作購入見込み者を増やせない。講座主催者も、来場者の満足度upのチャンスを逃してしまう。マーケティング的に言えば、“win-win-win”の真逆です。一番すべきではない選択だと思うんです。

 これって、非常によくあるケースのように感じます。ちょっとしたサービスのつもりが、ちょっとした配慮不足(?)で、ちょっとした(時には大きな)クレームに変わってしまう。今や、すぐ隣にもクレーマーがいると言われる時代。サービス業の現場は、みなピリピリしていると聞きます。そうなると、みなクレームを恐れて、プラス思考ではなく、守勢で無難なサービスしか提供しなくなってしまう…ですよね。うーん。難しい時代になったなぁ。。。

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