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英暴動でも「ソーシャル捜査」が登場

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災害とソーシャルメディア 』の中で、カナダで起きた暴動の際、警察がソーシャルメディアを通じて暴動参加者の情報提供を呼びかけたというケースを紹介しているのですが、今回の英暴動でも同じような「ソーシャル捜査」の動きが出はじめています。例えばロンドン警視庁が、写真共有サイトFlickr上で監視カメラの画像を公開しています:

Police use Flickr to identify London riot suspects (TNW UK)

ロンドン警視庁の公式Flickrアカウント上に"London Disorder - Operation Withern"というセットが追加されており、現時点で15枚の画像が登録されています。"Operation Withern"とはロンドン市内で発生した深刻な騒乱について捜査を行う作戦の名前とのことで、画像はすべて今回の暴動に関するものであり、ユーザーに対して情報提供が呼びかけられています。

Flickrですので画像のダウンロードや共有が可能であり、例えばこのようにブログに貼り付けることも:

westnorwoodimage2

また個々の画像には簡単な説明も加えられており、撮影時間や写っている人物の関連情報などを確認することができます。ちなみに上の画像は22時間前に撮影されたものだそうですが、現時点までに約14万回閲覧されており、お気に入りへの登録も9件行われています。

結果だけ見れば、「ソーシャル捜査」だろうが従来の聞き込み/指名手配だろうが、市民に対して情報を開示してフィードバックを求めるということには変わりないかもしれません。しかしソーシャルメディアが強い情報拡散力を持つことや、デジタルコンテンツではいくらでもコピーが可能であることを考えれば、従来の手段以上に社会的制裁が発生する恐れがあるでしょう。上掲の写真はあえて顔がはっきり写っていないものを選びましたが、中には鮮明に写っているものもあり、いつまでも彼/彼女の汚点として残り続けることが考えられます。

もちろん「それだけ悪いことをしているのだから報いを受けるべき」という考え方もあるでしょう。僕自身、暴動を許すつもりはありませんし、また「ソーシャル捜査」が(容疑者逮捕という観点からは)効果的な手法となる可能性は否定できません。しかしソーシャルメディア時代の社会的制裁がどの程度のものになるかがきちんと把握されていない中で、このような形での情報流通がなし崩し的に進むという事態には違和感も感じます。

実際にカナダの暴動では、暴徒の家族までがネット上で晒され、謝罪するという事態も発生したそうです。少なくとも警察という公の組織がどこまで「ソーシャル捜査」に踏み切るべきか、社会の広い範囲で議論が行われるべきではないでしょうか。

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小林啓倫

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< 追記 >

TechCrunchでこんな記事が。英暴動に関連して、撮影された暴動関連画像に対して顔認識を実施、暴動参加者を機械的に特定しようという試みが始まっているそうです:

Google Group Members to Use Facial Recognition to Identify London Rioters (TechCrunch)

A new Google Group called “London Riots Facial Recognition” has appeared online, in the wake of the riots that rocked the U.K. capital over the weekend. The group’s goal is to use facial recognition technologies to identify the looters who appear in online photos.

The group appears to be thoughtfully considering its actions, in threads titled “Ethical Issues,” and “Keeping Things Legal,” for example. They’ve also stated that “it’s important we only use legal sources for images.”

週末にかけてロンドンで発生した暴動事件を受けて、「ロンドン暴動における顔認識の取り組み(London Riots Facial Recognition)」と名付けられた新しいGoogle Groupが公開されている。同グループの目標は、顔認識技術を活用し、ネット上にある画像から略奪者の身元を特定することである。

このグループは慎重に行動を検討しているようで、例えば「倫理的問題」と題されたスレッドや、「合法的に活動する」と題されたスレッドがある。また「合法的なソースからしか画像を入手しないことが重要」という宣言もなされている。

最近も画像+ソーシャルメディアという組み合わせから、いかに個人情報が引き出せるかという実験(そちらは警告が目的でしたが)が行われていましたし、この試みがどうこうと言うより「来るべきものが来た」という感じがします。

【○年前の今日の記事】

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