ソーシャル手垢の時代
アマゾンの電子ブックリーダー"Kindle"の最新版には、「ポピュラーハイライト」という機能があります。「ハイライト」というのは蛍光ペンで下線を引くように、重要な部分に印を付けておくことができるという機能なのですが、このデータを他のユーザーと共有することができるのが「ポピュラーハイライト」。以前"「パブー」とソーシャルリーディング"という記事を書いた時にも触れたことがありましたが、この機能について、面白い指摘をされている方がいました:
■ Social Highlighting (The Monkey Cage)
But I have to say, it was the collection of social highlights at the end that most troubled me as a professor. I mean, why bother reading the book if you can just skip to the end and figure out what everyone else thought were the most important parts? I remember taking books out of the library when I was in college (for today’s undergraduates, the library is that big building where they keep books) and finding out that someone else had scribbled notes in the margin previously; you could get the same effect by buying used books. There was always the temptation to just skim the book by reading what the previous person had highlighted, especially in the more tedious sections.
しかし実のところ、最終的に私が教授として最も気になったのは「ソーシャル化されたハイライト」の集積である。他の読者が重要だと感じている箇所が分かるのであれば、本全体を読む必要などあるだろうか?私は学生時代に図書館(現代の学部生のために説明しておくと、図書館とは書物を保管するための建物だ)で本を借りたことを思い出したのだが、本の余白には以前に借りた誰かが書き記したメモがあるものだ。同じことは古本を買った場合にも言える。誰かが引いた下線の部分だけを確認することで、本の重要な部分だけを流し読みしたいという誘惑は常に存在するだろう。特に退屈なパートを読む場合には、この誘惑はより強いものとなるはずだ。
そうそう、図書館で借りた本や友人から借りた本、そして古本屋で買った本などには下線やメモ書きがあって、「他人が重要だと感じた部分」を確認することができたわけですよね。友人に参考書を貸してもらって一夜漬けをする!なんて時には、蛍光ペンの部分だけを丸暗記したりして(笑)。他にもページの端に付けられた折り目や、残されていたポストイットなど、実はアナログの書籍には他の読者と(非同期で)交流する方法が存在しています。そんな体験を電子書籍でも再現できるようになりつつある、しかもリアルタイムで世界的な広がりを持つ形で、というのはなかなか面白い指摘ではないでしょうか。
もちろん文学作品などの場合には、誰かがつけた下線だけを追って読む、などということは考えられません。しかし参考書やビジネス書など、誰かがつけた「手垢」を参考にして読むというスタイルに一定の価値がある分野もあるはずです。逆にその「手垢」が、本に収められたコンテンツを再構成して、別のコンテキストの中で展開させるなどといった現象も起きて行くのではないでしょうか。ある意味で、電子書籍の時代には、リリース後の書籍は著者の手を離れて成長していくものになるのかもしれません。
もっともそのためには、Kindleのようなフォーマットやデバイスの進化、さらに「書籍」というコンテンツの新しい読み方・消費の仕方を許可するルールの整備が進められる必要があります。プラットフォームの分野で出遅れてしまった日本勢にも、こうした分野で巻き返すチャンスというか、世界に新たな提案を行ってゆく可能性はあるように感じているのですが、いかがでしょうか。
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