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【書評】"Net Locality: Why Location Matters in a Networked World"

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以前ちらっとご紹介した"Net Locality: Why Location Matters in a Networked World"を読了したので、改めて紹介と書評を。結論から言ってしまえば、約180ページと短い本でありながら、非常にアタマを刺激してくれる一冊でした。

タイトルにある"Net Locality"とは"networked locality"を略したもので、「ネットワーク化された地域性」を意味しています。それはインターネットとモバイル技術、そしてGPSなどの位置測定機器/センサー類が組み合わされることで、ある「場所」やそににいる人間が、ローカル性を保ったままで他の場所・人々・情報とつながりを持つようになっている状況のこと――と書くと何やら難しい話のように聞こえるかもしれませんが、実は私たちにとって既にお馴染みの話と言えるでしょう。そう、例えば「位置ゲー」やFoursquareといったサービスのことを思い出せば、"Net Locality"はごく身近な現象であると理解できるのではないでしょうか。

しかし単に「位置ゲー」のことを小難しく解説する、というのが本書の目的ではありません。そうしたサービスを使うという行為を、少し高い視点から見てみたときに何が見えてくるのか――実はインターネットのあり方、そして「地域性」というもののあり方に、大きな変化が生じているのではないかと本書は指摘します。

その1つが、前回の記事でも触れた「バーチャルの終焉」という点です。もはやいつでもネットの世界にアクセスすることができ、ネットの世界も現実世界に強く紐付けられている状況という状況では、リアル/バーチャルという線引きを行うことは無意味な行為になるわけですね。例えばモバイル端末に搭載されたGPSを利用して、いまいる場所の天気予報をネット上から即座に取得するというアプリがありますが、いったいどこから先が「バーチャルの世界」と言えるでしょうか?またこの行為を「PCの前に座ってブラウザを立ち上げ、天気予報サイトにアクセスし、表示された地図から自分の自宅周辺をクリックする」という行為と比べた場合はどうでしょうか?

またこのように、デジタル情報が現実世界に近づくことで、私たちの現実空間に対する認識も変化してきているのではないかと本書は指摘します:

We are experiencing a fundamental shift in the way we understand physical space. It is no longer independent from digital (networked) space. The web is all around us. We no longer "enter" the web; we carry it with us. We access it via mobile, mapping, and location-aware technologies. It is embedded in all sorts of sensors and networked devices. Mobile phones, Global Positioning System (GPS) receivers, and radio-frequency identification (RFID) tags are only a few examples of location-aware technologies that mediate our interaction with networked spaces and the people in them. When these technologies know where we are, they inevitably influence how we know where we are.

私たちが物理的空間をどう捉えるかという点は、根本的に変化しようとしている。物理的空間は、もはや(ネットワーク化された)デジタル空間から独立した存在ではない。ウェブは私たちの周囲に存在している。ウェブに「入ってゆく」時代は終わり、いまやそれを持ち歩く時代なのだ。私たちはモバイル技術、マッピング技術、位置測定技術を用いてウェブにアクセスする。あらゆる種類のセンサーと、ネットワークに接続された端末の中にウェブが埋め込まれているのである。携帯電話やGPS受信機、RFIDタグ等々は、ネットワークで結ばれた空間と、その中にいる人々とのコミュニケーションを仲介する位置測定技術の例に過ぎない。こうした技術が私たちの居場所を認識するという状況は、必然的に、私たち自身が自分の居場所をどう認識するかという点にも影響を与えるのだ。

例えば何も見ずに街を歩くときと、地図を片手に歩くとき、そしてGPS付き携帯電話でリアルタイムに変化するグーグルマップを見ながら歩くときでは、私たちが自分と周囲の空間をどう認識するかという点は確実に異なってくるでしょう。また単に頭の中のイメージが変化するだけでなく、例えばGPS付き携帯電話を持っている時には、地元の人々しか知らない裏道を通るようになるといった行動の変化も生まれるはずです。これは最も簡単な例であり、他にも様々な先進的事例とそれが投げかける問いかけが本書で紹介されています。

そしてこうした個人の認識・行動の変化が、社会全体のあり方を変えて行くかもしれないと本書は指摘します。例えばこれは『AR-拡張現実』でも書いた話ですが、ARアプリケーションを通じて現実世界を見るという行為がある程度一般的なものになれば、何も書かれていない壁にAR広告を表示させるスペースとしての価値が生まれてくるかもしれません。それが進めば、何もない壁・何もない土地に何かをつくるのではなく、あえてそのままにしておくという状況も出てくるでしょう。またもっとあり得る話としては、「周囲に存在するようになった」ウェブにアクセス可能な状態を保つため、電源を提供するカフェが増える、落ち着いてモバイル端末を操作できる個室スペースが増えるといった可能性が考えられるはずです(きたない話で恐縮ですが、男子トイレでも個室利用が増えてきているのは、携帯電話の普及と無縁ではないのでは?と勝手に推測しています)。

他にも居場所が共有されることによるプライバシーの問題や、グローバリゼーションとの関係、公的機関の対応などなど、"Net Locality"が引き起こす様々な課題が本書では考察されています(中でも"Net Locality"先進国として、日本の事例がいくつか取り上げられているのは嬉しい限り)。時に哲学的な話になることもあり、頭をひねりながら読まなければならない箇所も少なくなかったのですが、それだけに様々なヒントを与えてくれるはず。モバイル、位置情報サービス、そしてARと、これからのネットと社会の進化を考える上で土台となる一冊だと思いますよ。

Net Locality: Why Location Matters in a Networked World Net Locality: Why Location Matters in a Networked World
Eric Gordon Adriana de Souza e Silva

Wiley-Blackwell 2011-05-17
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