オルタナティブ・ブログ > シロクマ日報 >

決して最先端ではない、けれど日常生活で人びとの役に立っているIT技術を探していきます。

「誤報ツイート」は削除すべきか?

»

昨日のエントリで触れた、米連邦下院議員のガブリエル・ギフォーズ氏が銃撃され、一時死亡説が流れた事件。その際も簡単に解説しましたが、ロイターなど海外のメディアで最初に誤報が流れ、それを元に記事を書いた国内メディアでも「議員死亡」という情報が流れてしまったようです。

では海外のメディアでは、今回の誤報がどう論じられているのでしょうか。様々な議論が行われているのですが、「誤報ツイートをどう扱うか」という視点で書かれている記事がありました:

How incorrect reports of Giffords’ death spread on Twitter (Lost Remote)

当然ながら、ニュースサイトに掲載されている記事については訂正が行われ、"UPDATE: …"のような形で訂正箇所が明記されます。しかしツイッターで速報を流しているような場合はどうするか。一度投稿したツイートは再編集することが不可能で、できることは削除しかありません。「訂正ツイート」を流すのは大前提として、「誤報ツイート」は削除すべきでしょうか、それとも残すべきでしょうか?

上記の記事によれば、メディアの中でも対応が分かれているようです。まずは読売新聞の誤報の原因ともなったロイターですが、後に死亡を報じたツイートを削除。一方でNPR(@nprnews)とBBC News(@bbcbreaking)については、貼付したリンクからも分かる通り、誤報ツイートをそのまま残すという判断を行っています。この判断の差はどこから生まれたのか――興味深いことに、記事のコメント欄にNPRの関係者が登場し、次のように解説しています:

I very briefly considered deleting the incorrect tweet, but concluded it was both pointless and inappropriate. Pointless in the sense that it had already been retweeted scores of times, so there was no way we could bottle it back up. And inappropriate in the sense that it was a matter of record that we had reported her death incorrectly, so deleting the tweet would come across as covering up our mistake. With around 2 million people following @nprnews and @nprpolitics, deleting the original tweet wouldn't have altered the fact that many of those followers had already seen the mistaken tweet and retweeted it. So based on that reasoning, I decided to be transparent about the mistake and not try to hide it.

私は誤報ツイートを削除しようかと一瞬考えましたが、それは無意味だし不適切な行為だと結論づけました。無意味というのは、既に当該ツイートがリツイートされてしまっていて、「覆水盆に返らず」という状況だったからです。また不適切というのは、私たちが誤って彼女の死亡を伝えてしまったことを記録しておくのには意味があり、削除はミスを隠すような印象を与えかねないからです。@nprnewsと@nprpolitics(※両方ともNPRのニュース配信用アカウント)には約200万人のフォロワーがおり、元ツイートを削除したとしても、大勢のフォロワーたちが既に誤った情報を読み、それをリツイートしているという状況を元に戻すことはできません。こういった理由から、ミスを隠さずに公開しておくという結論に至ったわけです。

ということで、「誤報ツイートを削除しても、誤った情報の流通を止められるわけではなく(無意味)、逆にミスを隠すことにつながってしまう(不適切)」と2つの理由からツイートを残したわけですね。

一方で、誤報ツイートを削除するという判断にも一定の根拠はあると思います。例えば公式リツイート(ツイッターのリツイート機能を使用したリツイート)を行っていれば、元ツイートを削除することでリツイートの方も流通をストップさせることが可能です。また個々のツイートを単体で表示できる環境、つまり「この情報は誤っている」という訂正が同時に表示できないような環境において、誤った情報をそのまま載せていることはメディアの責任としてどうなのだろうか?という議論も考えられるでしょう。

それではどちらの判断が、より「正しい」と言えるのか。個人的には、NPRの判断の方を支持したいと思います。ツイッターをはじめとしたリアルタイムウェブでは、情報はフローとして処理され、次から次へと新しい情報がユーザーの元に流れ込みます。そのような環境ですべきことは、過去のツイートをどうにかして訂正することではなく、正しい情報をフローにのせてユーザーに届けることでしょう。確かにこれまでメディア上で行われてきた慣行とは異なるかもしれませんが、リアルタイムウェブの時代には、新たな訂正のあり方が情報の送り手と受け手の間に確立されてゆくのではないでしょうか。

ニューヨークタイムズの記事によれば、2010年に同紙が行った訂正は3,500箇所に上るとのこと。多くはスペルミスだそうですが、ミスが生まれる原因として、ハイスピードな情報提供が迫られる環境に置かれていることが挙げられています。だとすればリアルタイムウェブ上では、たとえメディア企業が流すニュースの中にも、「誤報」が多く含まれることになるでしょう。ただしそれはリアルタイムウェブの価値を決定的に損ねるものではなく、「まだ確定していない情報、あるいは不正確な情報が含まれるが、最新のニュースが得られる環境」で情報を拾い、何が起きているのか自分で判断したい場合はリアルタイムウェブを、一方「ある程度古い情報になるが、正確であるとの裏付けがなされ、場合によっては専門家による分析までが得られる環境」で情報を拾い、自分が詳しくない分野の知識を学びたい場合には従来のウェブサイト(ライトタイムウェブ)、あるいは(紙の)新聞・雑誌・書籍等を利用するという使い分けが定着するのではないかと思います。

「誤報ツイート」の問題はその側面の1つであり、これからさらにリアルタイムウェブの時代におけるジャーナリズムのあり方が論じられることでしょう。しばらく混乱の時期が続くと思いますが、最終的には何らかの着地点が見出されるのではと楽観しています。

< 余談 >

ここから先は余談ですが、先ほどのNPR関係者の話によると、「自社サイトで記事が公開される→ヘッドラインが自動的にツイートされる」というシステムを使っていたために、訂正ツイートは手動で投稿しなければならなかったようです(元記事の修正は新しい記事の投稿という形ではなく、文字通り元記事の内容に書き加えるという形で行われていたため)。しかししばらくして、新しい情報は新しい記事として投稿されるようになったため、手動で訂正ツイートを書く必要がなくなったと。同社のような自動連動・投稿の仕組みは何ら不自然なものではありませんが、今後は訂正もある程度自動的に流れるように、システムの側でも対応が進むかもしれませんね。

リアルタイムウェブ-「なう」の時代 (マイコミ新書) リアルタイムウェブ-「なう」の時代 (マイコミ新書)
小林 啓倫

毎日コミュニケーションズ 2010-12-25
売り上げランキング : 12658

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

【○年前の今日の記事】

「スマートグリッド・ディバイド」の懸念 (2010年1月10日)
教育メディアとしてのケータイ小説 (2008年1月10日)
つくること - 思い = ゼロ (2007年1月10日)

Comment(0)