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「ジャスミン革命」がエジプトにも波及?

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チュニジアの政権崩壊、いわゆる「ジャスミン革命」が起きてすぐに、同じ動きが北アフリカで強権政権を敷く諸国にも波及するのではないかという予想がなされました。その予想が現実のものとなるかのような、気になる動きがエジプトで起きています:

■ エジプト各地で反体制デモ=ムバラク大統領の独裁を批判 (時事ドットコム)

エジプトの首都カイロなど各地で25日、民衆運動でチュニジアのベンアリ独裁政権が崩壊したことに呼応する大規模なデモがあり、ムバラク大統領の独裁支配に抗議した。AFP通信によると、治安当局集計でデモ参加者は1万5000人前後に膨れ上がった。治安当局はカイロ中心部だけで2万~3万人の警官隊を動員するなど、デモ拡大に神経をとがらせている。

■ カイロで「反ムバラク」デモ…チュニジアに共感 (YOMIURI ONLINE)

エジプト各地で25日、約30年にわたるムバラク大統領の強権体制を批判するデモが行われた。

チュニジア政変に共感した若者らが交流サイト「フェースブック」などを通じて呼びかけたもので、AFP通信によると、首都カイロで約1万5000人がデモに参加した。エジプトはサダト前大統領が暗殺された1981年以降、非常事態令下にあり、反体制デモがこれほどの規模で行われるのは極めて異例。

首都カイロをはじめとして、アレクサンドリアやスエズなどの数箇所で反政府デモがあり、死者も出ているというニュース。チュニジアの事件がきっかけを作った形にはなっていますが、エジプトでもチュニジア同様、経済の停滞や政府の腐敗などに対する不満が国民の間にあること、そしてTwitterやFacebookといったソーシャルメディアが当局に邪魔されないコミュニケーションに役立てられていることなどが指摘されています。

そして早くもTwitterへのアクセス規制が行われているようです:

Twitter Is Blocked In Egypt Amidst Rising Protests (TechCrunch)

現在エジプト国内からはTwitterがブロックされており、プロキシを介さないとアクセスできないとのこと。またFacebookについては以下のような記述があります:

Facebook is also being used to organize the demonstrations, with groups also popping up around the world to document the uprising and lend its support. For instance, one Facebook Group called We Are All Khaled Said, features up-to-the-minute updates on the protests and photos from the scene. Khaled Said was “a young man brutally tortured and killed by police in Alexandria,” explains Blake Hounshell on the Foreign Policy blog, and his death has become a rallying point for the demonstrations which fall on “Police Day,” a national holiday in Egypt.

Facebookもデモを組織することに使われており、また世界中に様々なグループが現れ、暴動の記録や援助を行っている。例えば"We Are All Khaled Said"というFacebookのグループは、抗議活動に関する最新情報と現場の写真を更新している。Blake HounshellがForeign Policy誌のブログ上で解説しているところによると、Khaled Saidとは「アレクサンドリアで警察に暴行を受けて亡くなった若い男性」とのことである。彼の死が契機となり、エジプトの祝日である"Police Day"にデモが行われることとなった。

また他のソーシャルメディアがどのように活用されているかについては、Fast Companyの記事が詳しいです:

Massive Egyptian Protests Powered by YouTube, Twitter, Facebook, Twitpic [Pics, Video] (Fast Company)

それによると、携帯電話からのウェブアクセスは非常に遅いものの、PCからアクセスする形でFacebook、YouTube、TwitPicなどのサービスに写真や動画が投稿されているようです。その中の1つが、MFMAegyというユーザーがアップした次の映像:

Internet World Statsによれば、エジプトのインターネットユーザー数は約1,700万人で、人口のおよそ21.2%。去年8月31日時点でのFacebookユーザー数は約408万人で、人口の5.1%にあたります。チュニジアではFacebookユーザーが約167万人、人口の15.8%でしたからそれには劣りますが、発言の自由が制限された環境では、貴重なコミュニケーション手段と言えるのかもしれません。

一方で、チュニジアの政権崩壊の際にも指摘された通り、ソーシャルメディアはあくまでもツールにしか過ぎません。昨夜GLOCOMで山崎富美さん(@fumi)、そしてチュニジアから来られたRafik Dammakさん(@rafik)がディスカッションを行うイベントがあったのですが、Rafikさんは「ソーシャルメディアが革命を起こした」というメディアの安易な見方を危惧されていました。

例えばチュニジアの事件では、ウィキリークス(ローカルのクローンで「チュニリークス」というサイトも登場したそうです)に流された政府の腐敗情報が蜂起に一役買ったというような報道がありましたが、Rafikさんによればそれらは既にチュニジア国民が知っている情報であり、チュニリークスはネット上に流れた情報を整理するまとめサイトのような機能を果たしていたとのこと。確かに「話題のウィキリークスが革命をも促した!?」というストーリーは注目を集めやすく、かつ即座に理解しやすいものであり、メディアだけでなくそれを消費する私たちの側も簡単に飛びついてしまうという背景があるでしょう。またソーシャルメディア上で抗議活動が組織化されたという見方も行き過ぎであり(実際に首都チュニスでそれが行われようとした際には、警察に察知されて現場に多数の警官が配置されたとのこと)、コーディネーションにはあくまでも地元の活動家が持つ知識やネットワークが駆使されたのではないか、との意見でした。

一方でRafikさんによれば、Facebookは市民の間で「何が起きているのか」を共有するためのツールとして、Twitterは海外に対してチュニジアの現状を発信するためのツールとして、それぞれ役立てられていたとのこと。エジプトでも同様の活用がなされるのか、また当局がどのような対応を行うのか、不正行為が行われた場合にウェブサービスの運営者はどう対応するのかなど、冷静に推移を見守る必要があると思います。

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