【書評】『未来型サバイバル音楽論』
年末のイベント「ソーシャルメディア忘年会」(KNN神田さん主催)に参加した際に、津田大介さんから『未来型サバイバル音楽論―USTREAM、twitterは何を変えたのか』をいただきました。ありがとうございます。ということでいつものようにご紹介&書評を。
本書はお馴染み津田大介さん(@tsuda)と、音楽プロデューサー牧村憲一(@makiji)さんによる共著で、お二人が行われてきた「未来型音楽レーベル実践講座」というセミナーの内容をまとめたもの。津田さんと牧村さんによる対談に加えて、バックグラウンドとなるような知識をまとめた章(お二人がそれぞれ担当パートを執筆)が間に挟まれるという構成になっています。テーマを一言で言えば「音楽(業界)とアーティストの未来」といったところで、これまでの音楽、音楽業界、そしてそれを取り巻く技術・社会の変化を俯瞰した上で、将来の音楽のあり方が考察されています。
未来を見渡すためには、当然ながら過去の流れをしっかり押さえておくことと、いま何が起きているのかを把握することが欠かせません。その意味で、これまで日本の音楽業界の中で活躍されてきた牧村さんと、ソーシャルメディアの状況を的確に考察されてきた津田さんの組み合わせはベストと言えるのではないでしょうか。もちろんお二人とも過去・現在について豊富な知識をお持ちですが、それぞれの得意パートを補完し合うことで、非常に内容の濃い議論が展開されています。
また対談をまとめた文章の場合、ベースとなる文脈がどうしても欠けてしまいがちになりますが、先ほど述べた通り本書では「講義」的に過去の音楽(業界)の流れをレクチャーしてくれるパートが挿入されています。僕はまったくこの分野に詳しくないので、お二人の対談を理解する上で非常に参考になりました。特に第4章「未来型音楽のバックグラウンド」は、この章だけでも本書を手にする(って、僕はタダで頂戴してしまったわけですが)価値があるほど的確にまとめられた文章だと思います。
さらに言えば、本書は音楽産業だけでなく、他のコンテンツ業界の将来を考える上で役立つ一冊となってくれるでしょう。もちろん個々の業界にはそれぞれ特有の問題があり、他の業界で上手くいったアイデアがそのまま通用するわけではありません。しかし津田さんと牧村さんがどのように音楽業界の状況を捉え、新しいテクノロジーの長所と短所を理解し、そこからどうやって新しいモデルを生み出そうとしているのかを理解することで、他のコンテンツ産業においてもアイデアを生み出すヒントが得られると思います。特に「音楽というものを中心にコミュニケーションが生まれること」に価値が見出されているのだという指摘は、小説やマンガ、映像コンテンツなどにも当てはめられるのではないでしょうか。
個人的には、本書を読み終え、音楽産業の将来は楽観できるのではないかという思いに至りました。もちろんその中にいるアーティストの方々は試行錯誤の連続でしょうし、笑って構えていられるような状況ではありません。しかし既存のシステムが崩れ、新しいテクノロジーによる新たな音楽ビジネスのあり方が可能になったいま、かつては不可能だった音楽の生み出し方/楽しみ方が追求できるようになっているのではないでしょうか。まさしく津田さんや牧村さんのように、新しいスタイルに果敢にチャレンジして行く人々が増えれば、その中からきっと答えが見つかって行くはず――そんな思いを抱かせる一冊でした。
未来型サバイバル音楽論―USTREAM、twitterは何を変えたのか (中公新書ラクレ) 津田 大介 牧村 憲一 中央公論新社 2010-11 売り上げランキング : 1918 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
【○年前の今日の記事】
■ 無力化する「Google八分」 (2009年12月29日)
■ 【書評】マルコム・グラッドウェルの最新作"Outliers -- The Story of Success" (2008年12月29日)
■ ブット元首相暗殺とTwitter、ある懸念 (2007年12月29日)
■ 脳内も大掃除を (2006年12月29日)