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「手術なう」の価値

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結婚に出産、そして葬儀まで。いまや Twitter で中継されないものはないといった感じですが、いよいよ手術までがその対象に入ってきたようです:

Twitter opens a door to Iowa operating room (AP)

アイオワ州で行われた手術の際、(患者の合意の上で)その様子が病院スタッフの手で Twitter 中継され、患者の家族や友人が見守ったというニュース。以前から病院でのソーシャルメディア活用は始まっていましたし、このブログでも「病院も Twitter する時代」や「Twitter は医者と患者を救えるか?」というエントリを書いたことがありますが、それはあくまでも手術/診断前後の時間の話しかし今回は、まさしく手術の様子が Twitter 上に流れたのでした。

His mother, who underwent a hysterectomy and uterine prolapse surgery, had given her OK for hospital spokeswoman Sarah Corizzo to post a play-by-play of the operation on Twitter, a social-networking site that lets users send out snippets of information up to 140 characters long using cell phones or computers.

Corizzo sent more than 300 tweets over more than three hours from a computer just outside the operating room's sterile field. Nearly 700 people followed them. Eight tweeted questions to Corizzo about the procedure and a Cleary family member commented on how fascinating it was to follow the surgery.

The primary goal of the Twitter posts was education, Corizzo said, but it had the added benefit of keeping the family informed during surgery.

彼女の母親(※手術を受けた患者である、70歳の Monna Cleary という女性)は子宮摘出手術を受けたのだが、その際に病院の広報担当者である Sarah Corizzo に対して、手術の様子を Twitter (携帯電話やPCを使って、140字という短いメッセージを送信できるSNSサイト)で実況中継することに同意した。

Corizzo はPCを使い、手術室の無菌スペースのすぐ外側から、3時間で300以上のメッセージを送信した。700名近くがそれをフォローし、8名が手術の流れについて Corizzo に質問した。Cleary の家族は、手術の様子が追えたことが素晴らしかったとコメントしている。

Corizzo によれば、今回の Twitter 中継の主な目的は教育だったが、手術の様子を家族に伝えられるという価値も生まれたとのことである。

ということで、「家族に手術の経過を伝える」というのは付随的な目的だったようですが、結果として家族は安心できたようです。ちなみにこの手術が終わった後、Corizzo の最後のポストは

"She's doing great. She'll see you soon."

「彼女はとても元気です。すぐに面会できますよ。」

という言葉だったそうです。このつぶやきを読んだ時に家族がどれだけ安心したか、想像に難くありません。

ただ脅かすわけではないですが、100%成功する手術などないのですから、Twitter のつぶやきが家族を安心させるだけとは限らないでしょう。また医者にとっては普通の状況でも、家族が聞いたら「そんなことになって大丈夫なのか」と感じてしまうような場面もあるはず。さらに遠く離れた場所でもリアルタイム情報を受けられるという Twitter の価値が、逆に何かあったときには遠隔地にいる人々の不安を増す、という恐れもあるのではないでしょうか。家族に情報を伝えることの価値・責任は理解しつつも、そんなに Twitter 中継が簡単に成功するだろうかというのが個人的な感想です。

一方で、望むと望まざるとに関わらず、ソーシャルメディアの力で誰もが情報発信できるようになりました。仮に手術室の目の前で携帯電話を使うということはできなくても、何かあったときに(あるいは何かあったと誤解したときに)家族が「あの病院はダメだ」とネットに書き込むという事態は容易に想像できます。病院の側から積極的にネット情報開示を進めるというのは、そういった事態を防止するという効果もあるのではないでしょうか。

さらにプライバシーの問題、病院だけでなく患者や家族に対する「炎上」の問題、中継サービスのコストを誰が負担するのかといった問題……等々、付随する要素を考え出せばきりがありません。ただいずれにしても、様々な問題があるからといって、Twitter を医療の現場に持ち込むという流れは止まらずに続いていくのではないかと思います。また医療関係者はリスクを恐れずに、患者や家族のためになるIT活用に取り組んでいって欲しいというのが個人的な願いです。

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