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「iPhone 向け教科書」は登場するか?

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iPhone に教科書を全部入れて、持ち運んで好きなときに勉強する。iPhone 好きなら喜びそうなアイデアですが、現実にはまだ少し問題があるようです:

Texting? No, Just Trying to Read Chapter 6 (New York Times)

米国でメジャーな5つの教科書出版社が共同で設立した、CourseSmart という会社が提供している教科書用電子ブックアプリについて。アプリそのものは無料で、テキストを購入する際にお金がかかる(ただし紙版の半額で購入できる)というモデルのようです。既に7,000冊以上のタイトルが揃っていて、大学生に大人気……といきたいところですが、以下のような問題点があることが指摘されています:

  • 画面が小さいので、何度もスクロールしたり、画面の拡大・縮小を行わなければならない
  • テキストは単に紙版をデジタル化したもので、iPhone に最適化されているわけではない
  • テキスト全体のデータを一括でダウンロードするわけではなく、読んでいる箇所のデータを取得するという形式のため、ネットできない環境でないと使えない
  • さらに読み終えた箇所でも戻ろうとすればデータを取得せねばならず、表示にいちいち時間がかかる

とのことで、いずれも大問題ではないものの、やはり紙版の手軽さにはかなわないと思わせるような要素です。

ただし教科書、特に大学のテキスト市場は電子書籍にとって有望な分野であり、アマゾンの電子ブックリーダー Kindle もここでのシェア拡大を狙っていることを以前ご紹介しました:

大型 Kindle が教科書市場を制する?

Kindle DX であれば、当然ながら「画面が小さい」という問題が解決されるわけで、従って紙版をそのままデジタル化したものでもそれほど問題は違和感は感じられなくなるでしょう。しかし気になるのはその価格。実に489ドルもかかり、大学生が簡単に購入できる金額ではありません。実際、個人ブログの方でも触れましたが、米フォレスターリサーチがこんな調査結果を発表しています:

電子書籍は価格が鍵、アマゾンとソニーは50ドルに端末値下げを-報告 (ブルームバーグ)

米調査会社フォレスター・リサーチのリポートによると、電子書籍端末の「キンドル」を手掛ける米アマゾン・ドット・コムと「リーダー」を販売するソニーが電子書籍市場の飛躍を望むのなら、端末価格を約50ドル(約4600円)に引き下げる必要がある。

要は「消費者は企業が思ってるほど端末にはお金を出したがらないよ」という話。いくらなら電子ブックリーダーを買っても良いかという質問に対して、98ドル以下と答えた人々が全体で6割を超えるという結果になっています。現状では100ドルを切るような端末を出すのはどのメーカーも難しい状況ですから、であれば消費者が既に持っている端末――iPhone にアプリを載せて電子ブックリーダーにしてしまえ、という方向性が生まれてくるはずです。で、話は冒頭に戻ると。

個人的には、iPhone で本を読むのは不可能ではないものの、やはり普通の教科書をそのまま持ち込むことには無理があると思います。特に図表が多いテキストでは、何度も画面を拡大・縮小せねばならず、それだけでかったるくなってしまうはずです。しかし iPhone はコンテンツを楽しむために生まれてきた端末のはず――ならば「iPhone に教科書を載せる」ではなく、「iPhone で教育コンテンツをつくる」という発想でテキストを再構成すれば良いのではないでしょうか。文字だけではなく、画像・音声・動画を通じても知識を得ることができ、さらにハイパーリンクを多用して簡単に操作できるようなコンテンツ。既にそんなアプリが登場し始めていますから、決して不可能ではないはずです。

しかし当然ながら、そのためには授業スタイル自体を変えていく必要があるでしょう。その意味で、「iPhone 向け教科書」ならぬ「iPhone 教育アプリ」が普及する日はまだまだ先のことになると思います。しかし授業を必要としない領域、例えば通信教育や個人学習の分野ではこうしたアプリも一般的になっていくのではないでしょうか。

【○年前の今日の記事】

なんでもセラピー (2007年9月6日)
「物語」を伝えているか (2006年9月6日)

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