「物語」を伝えているか
今日の日経流通新聞で、看板を効果的に使って売上を伸ばした美容院の話が紹介されていました:
■ 招客招福の法則(121) -- たかが看板、されど看板(日経流通新聞 2006年9月6日 第3面
日経MJの人気コーナー、招客招福の法則の記事。どんな内容かというと:
- ある美容院で、これまで出していなかった看板を出してみようということになった。
- 3,980円で黒板型の立て看板を購入、メッセージを書いて店頭に立てた。
- その看板が奏功、多い月には前年同月比倍以上の新規客が獲得できた。
という話。そしてこのケースから得れる教訓として、「看板とは店の前を歩いている人々を立ち止まらせ、店に関心を持ち入店してもらうための装置だと考える視点が重要」と述べています。
確かに仰る通りだと思います。しかし僕がもっと興味を引かれたのは、看板に書き込まれた内容でした。記事によれば:
...新規見込み客に向けて「初めてお越しのお客様へ」と呼びかけ、「この町で美容室を始めて二十五年余り。今年も新入社員三名加わり、十五の笑顔でお客様をお迎えしています」とご挨拶し、自慢のシャンプーのことなどをPRしたのだ。
とあります。店の前を通り過ぎる人々に注目してもらおう、という発想も大切ですが、より重要だったのはこのメッセージだったのではないでしょうか。
仮にこの看板に「いまならカット30%オフ!さらにシャンプーも半額でお買得!」という内容が書かれていたらどうなっていたでしょう。通行人は「よくある宣伝の1つだ」と瞬時に判断して、気にもとめなかったのではないでしょうか。しかしこのお店では、ターゲット(新規見込み客)を明確に決めて、彼らが興味を持つような話(地元で25年も続くほど信頼されており、しかも新入社員という新しい風を入れることも忘れていないお店)を語りました。それが3,980円の看板「だけ」で売上倍増という効果をもたらしたのだと思います。
先日のエントリ(ストーリーのある塩)でも触れましたが、最近はお客様に語りかけ、魅力的な「物語」を伝えることの重要性が説かれています。上記の立て看板に書かれていたのは、まさにこの「物語」でした。逆に多大な費用を使いながら、魅力的なメッセージが欠けていたために、思うような効果が得られなかった広告・宣伝というものも存在します。上記の美容院の話は、「店の前を通る人々に注目した」ことと同時に、「物語を伝えた」という点にも注目しないと、単に「それじゃウチも看板買ってくるか」と真似してみても失敗するだけでしょう。
ブログを始める企業やお店が相変わらず増えていますが、そのうちいくつが「物語」を伝えているでしょうか。読み手を無視し、書きたいことを書くだけのブログでは、3,980円の立て看板にすら敵わないと思います。