不祥事の時こそ、ネット活用を
消費者から企業への問い合わせは専門的になってきている。そんな出だしで始まる記事を、先週の日経産業新聞で見かけました。
■ トラブル防止虎の巻 -- 専門的になる消費者の苦情 (日経産業新聞 2009年4月16日第18面)
例によってネットでは記事が公開されていないので、ちょっと説明しておくと、書かれたのはACAP研究所副所長の清水きよみ氏。消費者から企業に対して寄せられる質問や相談、苦情に対し、どのような対応をすべきかを解説されています。この中で、最近の消費者の傾向について以下のような一節がありました:
――ACAPは1999、2003、07年に企業の消費者対応体制を調査した。消費者の相談内容はどう移り変わってきたか。
(中略)
「07年はインターネットなどで消費者自身が調べたうえでの細かく専門的な相談が増加。企業に書面やデータによる詳細な情報開示を求め始めたことも特徴だ。
買った製品/受けたサービスについて疑問や不満があれば、まずはネットで調べてみるというのは個人的にも「最近そうしてるな」と感じる方が多いでしょうし、また各種調査でも似たような傾向があることが明らかになっています。特に日本人の場合、いきなり誰かに電話で聞くというのは何となく気が引ける、という奥ゆかしさ(?)も影響しているかもしれません。いずれにしても、「続きはネットで」ならぬ「何かあればネットで」という姿勢はごく一般的になってきていると思います。
この傾向に対応するため、ウェブサイト上でFAQ的なコンテンツを充実させる企業も一般的になりました。SEOをしっかり意識している会社であれば、検索エンジンに疑問を打ち込んだ場合でも、ちゃんと企業サイトが上位表示されて彼らのページに誘導されるということが達成できています。それがさらに消費者の「ネットで調べればいいかもしれない」という意識を促し、結果として「誰かに相談するまで自分でかなりの情報を集めている」という状態を生み出しているのではないでしょうか。
この状態は、企業にとってプラス(ex.自分で調べてくれるので対応コストが減る)ばかりではありません。先ほどの記事、続きはこうなっています:
ネットの影響のせいか、いいかげんな情報をうのみにした問い合わせや、定年退職した男性からの電話も増えた。
もちろんネットにあるのはいいかげんな情報ばかりではありません。しかし消費者がネットを頼りにする姿勢を強めれば、以前よりもネット上の誤情報に左右されるリスクも強まるのは当然のことでしょう。特に悪いニュースの場合、企業が余計な問題を起こすのを恐れて黙り込んでしまうと、そこに生まれた「情報真空」を埋めるのは多くの場合「人目を引きやすいガセネタ」です。不安な時にはワラにもすがりたくのが人情ですから、正確な情報を広める努力もせずに「いいかげんな情報をうのみにして」と非難するのは正しいことでしょうか。
考えてみれば、調子が良いときは自社製品/サービスについてネット上で大いに語ってもらって、不祥事のときは口をつぐんでもらいたいというのは勝手な話です。たとえ一時的には黙らせることに成功したとしても、最後にはバレて炎上してしまうというのが今の世の中でしょう。それならば悪いニュースこそネット上で速やかに、かつ広まりやすい形で流すというのが、逆にいいかげんな情報の蔓延を防ぐことにもなるのではないでしょうか。
そういえば先日のドミノピザの一件(店員が食材を使って悪ふざけしているビデオを撮影、YouTube に投稿した)でも、すぐに社長が謝罪し、その様子を YouTube の公式チャンネルという対応を行いました:
■ 米Domino's Pizza、YouTubeの「鼻くそサンド」ビデオで謝罪 (ITmedia News)
この場合は謝罪というメッセージですが、オフィスの一室に記者を集めて頭を下げるという(某国でお馴染みの)やり方よりも、よっぽど消費者に伝わりやすい方法ですよね。
【○年前の今日の記事】
■ 本が次世代メディアだった時代 (2008年4月19日)
■ ちょっと待って、新人教育 (2007年4月19日)
■ 「エンゼルメイク」という発想 (2006年4月19日)