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【書籍紹介】『フェイクニュースの見分け方』烏賀陽弘道~その2~

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衆議院選挙が終わった。選挙といえばフェイクニュース。ということで、今回も前回に続いて『フェイクニュースの見分け方』(烏賀陽弘道)の紹介である。「【書籍紹介】『フェイクニュースの見分け方』烏賀陽弘道)」とあわせて読んでいただければ幸いである。


「フェイクニュースを見分けるためには一次情報にあたれ」という原則がある。本書にも何度かそのような記述が登場する。しかし改めて目次を見ると、冒頭に「公開情報に当たる重要性」があるだけで、全体としては逆に「一次情報には十分注意しろ」のように書いてある。一次情報にアクセスするのはあまりにも当たり前で、むしろ「一次情報だけに頼るな」と主張しているようだ。

たとえば「第4章ビッグ・ピクチャーをあてはめよ」では、時間軸と空間軸を広げ、書いていないことに注目し、前提条件を疑えとある。「第5章フェアネスチェックの視点を持つ」では、単純な話を信用したり、現実を単純化したりするなと主張し、第6章のタイトルはなんと「発信者を疑うための作法」である。

実は、Wikipedia(本書では、その内容が批判されているが、私は一定の評価をしている)では、一次情報の記載を避けるように指示している(Wikipedia:信頼できる情報源)。一次情報は、記録した人の主観が入っていたり、思い違いがあったりして、必ずしも正確ではない。(まともな)ジャーナリストは複数のソースを照合して、正確な事実を突き止める。Wikipediaでは、これは「独自研究」となり不適切とみなされる。Wikipediaが重視するのは「学者によって書かれ、学術的な出版社によって出版された二次資料」「二次資料を要約した三次資料」である。

多くの人にとって、複数のソースを照合し、まとめるのは難しい。だからニュース記事に価値があり、ニュース記事を書くジャーナリストが重要なのである。たとえば、烏賀陽氏の著書『福島第一原発 メルトダウンまでの50年――事故調査委員会も報道も素通りした未解明問題』では、多くの取材を重ねることでで真実に迫っている。

ところが、現在のメディアは、ネットニュースはもちろん、新聞記事でさえ、こうした原則が守られていない。ありとあらゆるところにフェイクニュースの罠が待ち受けていると言ってもいいくらいだ。

幸い、専門職に頼らなくても簡単に確認できることも多い。本書を読んでフェイクニュースを見分ける原則を理解すれば、基本的な誤謬は防げるはずだ。特に私が強力なツールだと感じたのは「第4章ビッグ・ピクチャーをあてはめよ」である。

たとえば選挙の日、こんなツィートが流れて来た。

なるほど、確かにその通りである(立憲民主党の公式Twitterアカウント)。別に間違ったことは言っていない。不思議に思うのは無理もないし、私もそう思う。

しかし、一方で自由民主党の公式Twitterアカウントのフォロワーは13万人で、リツイートは1,000程度である。リツイート数はツイートごとに大きく違うので、正確な分析はできていないが、私の印象では自民党が若干少ないくらいなので、フォロワーの数とだいたい合っている。また、どちらのコメントも賛否両方あり、極端な差があるようには思わない。あくまでも感想なので、正確な分析があればぜひ教えて欲しい

似たような話は前にもあって、疑惑は「立憲民主党は公式Twitterアカウントのフォロワーを買っているのではないか」だった。こちらはBuzzFeedでフォロワーの分析結果が紹介されている(【検証】立憲民主党Twitter「フォロワーを購入」は本当か? 急成長で自民党を抜いたけれど… )。結論は「証拠なし。フォロワーのアカウントの質は、調べられる範囲では自民党も似たようなもの」ということだった。

「立憲民主党は~だ」と言われれば、「じゃあ自民党はどうか」と視野を広げてみることで、書かれていないことが見えてくる。時間軸と空間軸を広げ、書いていないことに注目し、前提条件を疑うことでビッグ・ピクチャー(全体像)に気付くようにしたいものだ。


フェイクニュースの見分け方 (新潮新書)

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