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IT技術者教育に携わって25年が経ちました。その間、変わったことも、変わらなかったこともあります。ここでは、IT業界の現状や昔話やこれから起きそうなこと、エンジニアの仕事や生活について、なるべく「私」の視点で紹介していきます。

コミケと写真とアイドルと

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今年も世界最大の同人誌即売会「コミックマーケット」、通称「コミケ」または「コミケット」に、「独立猫写真家集団『まぐにゃむフォト』」として出店する。念のため説明しておくと、この名前は「マグナムフォト」から拝借したものである。 「マグナムフォト」を知らない人は検索して欲しい。

 

猫写真の作品レベルの向上

2008年に初めてコミケに行ったとき、猫写真のジャンルがあることを発見した。素晴らしい写真もあったものの、失礼ながら、全体的には意外にレベルが低かった。これはチャンスだと思い、翌年から友人たちと参加した。

ところが、2009年頃から写真のレベルが急に上がり、我々のレベルでは特に目立たない状況となった。もうちょっと早く参入すれば、もっとたくさん売れたはずである(そういうことにしている)。

調べてみると、2008年にデジタル一眼レフカメラの平均単価が10万円を切っている。フィルムカメラに比べればまだまだ高価だったが、現像とフィルム代を考えると納得できる価格になった頃だ。

デジタルカメラの普及により、2つの大きな変化が起きた。

1つは撮影枚数の増加である。フィルムカメラ時代、36枚撮フィルムを毎週1本以上使う人は少なかった。我々(「まぐにゃむフォト」のメンバー)が通っていた写真教室でも、目標撮影枚数は「週にフィルム1本以上」だった。

それが、デジタルカメラになってから、1回で30枚、40枚と撮る人が増え、週に数百枚撮る人も珍しくなくなった。質を高めるにはまず量である。量をこなしても質が上がらないことはあるが、質を上げるには一定以上の量が必須である。

もう1つは「撮ってすぐみんなで見られる」ことである。フィルムカメラで撮った写真を見るには現像とプリントが必要である。一般的な店頭現像機(ミニラボ)では待ち時間が通常60分、最短でも30分である。しかも写真を見ることができるのはその場にいる人だけだ。

デジタルカメラでは、撮った数秒後には鑑賞できるし、撮った写真をインターネットで共有することも簡単にできる。日本でのSNSの草分けであるmixiのID数が1,000万を超えたのが2007年、Twitterの日本でのサービス提供2008年、ちょうどデジタル一眼レフの普及期と重なっている。

技術を習得するためには、一定の量をこなすことと、迅速なフィードバックが必要である。デジタル化に伴って技術レベルが上がったのは、撮影枚数が増え、SNSを使ったリアルタイム性の高いフィードバックが得られたためである。こうして写真家の裾野が大きく広がった。

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アイドルユニットのパフォーマンスレベルの向上

量をこなし、迅速なフィードバックを得ることでレベルが向上するのは何でも同じである。

たとえば、かつては「アイドル」といえば「可愛いけど、歌や演技は下手」というのが常識だった。もちろん、レベルの高い人もいたのだが、そうでない人が圧倒的に多かった。先日、一時は「国民的」とまで言われたアイドルのCDを聞き返して幻滅した。

ところが、最近のアイドルは単にかわいいだけでなく「パフォーマー」としてのレベルが本当に高い。モーニング娘。の登場や、沖縄や広島の「アクターズスクール」出身のタレントが増え、レベルの高いパフォーマンスを目にすることが増えたからだろうか。また「握手会」システムにより、ライブを見た観客がその場で感想を言うようになったこともあるかもしれない。

私が考える最大の理由は「アイドルの裾野が広がった」ということだ。いわゆる「地下アイドル」は「今日からアイドルです」と言えば誰でもなれる。「今日からロックです」と言っても相手にされない。何しろ「今日からロックです」と言ったアイドルは30年近く経った今も笑われているくらいだ。しかし「今日からアイドルです」は十分成り立つ。

最初はオリジナル楽曲すら必要ない。必要なら、アマチュア音楽家に発注することもできる。今はパソコン1台でカラオケが作れるし、音楽CDも焼ける。しかもかなりレベルの高い曲を作る人がいる。YouTubeやブログを使った告知・宣伝も可能だし、SNSを使ったコミュニケーションもできる(このあたりは「セルフサービスと分業~地下アイドルとまなみのりさ~」に書いた)。

「パートタイムアイドル」というべき人もいる。「地上OL×地下アイドル」を自称する「Framboise(フランボワーズ)」の2人は、キャッチコピー通りの会社員だが、80年代アイドル風の歌とダンスを披露する。なかなか見せるパフォーマンスなので、試しに見てみてほしい。こちらは楽曲制作や振り付けも自分たちで行っている「セルフサービスアイドル」である。

 

高い山は裾野も広い

もちろん、トップアイドルとパートタイム地下アイドルの差は歴然としている。「この前はだめだったけど、今日は良かった」というパフォーマンスのばらつきはトップアイドルにはない。アマチュアのレベルがいくら上がっても、トッププロのレベルはもっと上がる(ただし、底辺のプロがアマチュアに追い越されている事実はある)。

師事していた猫写真の先生は「本当に可愛い写真は、飼い主だけが撮れる」とおっしゃっていた。確かに「奇跡の1枚」的な写真は飼い主にしか撮れないが、プロの安心感、特に納期に対する信頼はアマチュアにはない。昔から、写真機材はプロもアマチュアも全く変わらないが、この信頼感はアマチュアにはない。

もっとも、裏を返せば「偶然の1枚はプロを越えるものがある」というのも事実である。同人誌には、そういう「奇跡の1枚」を含んでいる可能性があり、継続して出展している人にはファンもつく。「まぐにゃむフォト」ですら「新刊ないんですか」とたまに聞かれるくらいである。

機材の発達や、SNSの普及により、なんであれアマチュアのレベルが高くなった。しかし、プロはそれ以上にレベルが高くなった。「高い山は裾野も広い」という。アマチュアが増えれば、プロのレベルも上がっていく(上がらざるを得ない)ということだ。

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