春画とアニメとアイドルと
前回に引き続き、同僚の田中淳子氏のブログ「「春画展」に行ってきた。スゴい「エロ」の世界だった。」を受けたエントリである。
以前から、春画については興味があって、ぜひ行きたいと思っているが、かなり混んでいるそうで躊躇している。東京の人気展示は、なぜあんなに混むのだろう(単に人が多いからか)。
この展示に関しては、既に多くの記事が出ているが、中には「単なるポルノではない」といった論調が割に多い。まだ見ていないのに決めつけるわけにはいかないが、単なるポルノでないはずがない。春画が単なるポルノではないとしたら、春画についての勉強不足か、ポルノグラフィについての勉強不足か、あるいはその両方である。
春画は浮世絵のひとつのジャンルであり、浮世絵は大衆娯楽である。歌舞伎役者を描いた浮世絵はアイドルブロマイドと同じだし、美人画はグラビア写真、マンガに相当するものもある。料理を描いたものもあるそうで、これがFacebookの料理写真の源流かもしれない(適当に言ってみた)。結果として芸術性の高い作品は多く生まれているが、芸術性とは本来無縁である。
芸術は、人の生き方に影響を与え、時には不安にさせ、自分自身について深く考えさせるものである。浮世絵は大衆娯楽であり、今日を楽しみ、明日を元気に迎えるためのものである。深く考えるような性質のものではないはずだ。
浮世絵は、大衆娯楽として支持されていたが、社会的な地位は低かったようである。日本で評価されたのは、パリ万博でヨーロッパ人に評価されてからだとされている。それも、伊万里焼の包装紙に使ってあったものが目に止まったというから、日本人がいかに浮世絵を下に見ていたかが分かる。産地直送の野菜を頼んだら、緩衝材に使われていた新聞記事に目がとまったようなものである。
新聞の場合は記事が本題であり、新聞紙の価値は低い。しかし、芸術作品だったら、たとえコピー(版画)だとしても、包装紙に使おうとは思わないだろう。
ただし、日本で評価されたのは浮世絵の一部のジャンルだけであった。春画は、そもそも一般に公開するような性質ではないこともあって評価対象から外れた。ヨーロッパでも、特別高く評価されたわけではないだろうが、少なくとも話題にはなっていたようである。「日本人はこんなにすごいのか」と驚いた話が伝わっている。
日本製のアニメや特撮も、ヨーロッパで評価されることで初めて日本人の評価が高まった。しかし、こちらは大半のジャンルが評価対象から外された。日本アニメーションに代表される名作路線が高く評価された反面、変身ものやロボットもの、魔法少女ものはほとんど評価されていない。ましてアダルトものは、その存在すら語られていない。
しかし、フランスで人気があるのは「UFOロボ『グレンダイザー』」であり、「美少女戦士セーラームーン」であり、特撮ドラマ「宇宙刑事シャリバン」である。日本アニメーションのアニメも人気はあるが、突出して有名なわけではないそうだ。ところが日本では「アルプスの少女ハイジ」を評価しても「セーラームーン」を評価しない人は結構多い。
そういえば、アイドル歌手も、アジア圏では高く評価されているのに、日本では評価しない人が多い。アイドルが好きだと会社に内緒にしている人も多い。私が、顔と名前と勤務先を公開していると言ったら驚かれた。ストーカーなどのリスクを承知で顔と本名をさらしているアイドルに比べれば別にどうってことはない。
アイドルも、ヨーロッパで評価されたら日本でも評価されるようになるのだろうか。それとも、ロボットアニメや春画のように、いつまで経っても評価されないままなのだろうか。
▲知る人ぞ知るアイドルユニット「まなみのりさ」
インディーズ系アイドル界では結構有名なのだが、一般の知名度は低い
(珍しく写真撮影と公開が許可された)
ついでに書いておくと、日本製のアダルトビデオの海外進出はめざましい(らしい)が、まったく語られない。日本の場合、局部が見えるか見えないかという形式規制が厳しい割に、内容の審査がないため、表現技法が高度に発達した結果らしい。有名な、葛飾北斎の「蛸と海女」も、当局の表現規制を避けるためという説がある。それが本当だとしたら、アダルトビデオと全く同じ図式である。