OS標準ゲームの歴史
本稿は2010年11月8日に、Web媒体「Computer World」に掲載したものを基に、加筆修正したものである。
秋の夜長といえば、読書の他にゲームである。そして、どういうわけかウインドウシステムにはゲームが付いてくる。今回はゲームの話をしよう。
●私とPCとゲーム
最初にお断りしておくが、私はゲームをあまりやらない。最後に購入したゲームソフトはPC-9801版の「プリンセスメーカー」(ガイナックス)である。何と四半世紀近く前のことだ。
ちなみに「プリンセスメーカー」が、戦略ゲーム「信長の野望」の戦闘訓練から派生したことは最近知った(岡田斗司夫なう「【赤井孝美特集】世界初の育成シミュレーター『プリンセスメーカー』」より)。変われば変わるものである。
とは言え、OS付属の無償ゲームはいろいろ試した。会社で使っているOSでもゲームが残されていることも多い(Windowsの場合はインストールを禁止することもできる)。少し振り返ってみよう。
●15パズル
個人用途で利用可能な最初のウインドウシステムはMacintoshと考えてよいだろう。私はMacintoshを本格的に使ったことはないが(一時期会社で使ったが、あまりの難解さに投げ出した)、確か「15パズル」が付属していたたように思う。
「15パズル」は、16のマス目に1から15までのコマを置き、空いた1箇所を使ってコマをスライドさせることで1から15までを並べるパズルである。
私が最初に使ったウインドウシステムはDECwindows(OSF Motif版になる前)で、これにも「15パズル」が付いていた。DECwindowsは、X Window Systemをベースに作成されたDigital Equipment社(DEC)のウィンドウシステムである。
「15パズル」は古典的なゲームだが、完了させるのに少々時間がかかる。だから「15パズル」で遊んでいる人を見たことはほとんどない。もちろん、私もほとんどやらなかった。
●ソリティアとマインスイーパー
私はWindows 2.0を使った記憶があるのだがゲームをした記憶がない。当時使っていたPCはNECのPC-9801シリーズであり、解像度は640×400ドット。ウインドウシステムが実用的に利用できる状況ではなかったせいもある。何らかのゲームはあったはずだが全く思い出せない。
仕事でWindowsを使い始めたのはWindows 3.0の頃である。これには「ソリティア」と「マインスイーパー」が付属していた。
いずれも現在のWindowsでも利用できる(ただしWindows 8.xはストアアプリとして別途ダウンロードする必要があるとマイクロソフトから告知されている)。
「ソリティア」はあまり面白いとは思わなかったが、「マインスイーパー」には結構はまった。今やってみると、結構辛気くさいので、続けてやろうとは思わないのが不思議である。一生分やり尽くしたのだろうか。 ちなみに「ソリティア」はトランプの一人遊びの総称で、Windowsに付属していたのは「クロンダイク」が正式名らしい。
「マインスイーパー」で、私の生産性は確実に10%以上低下した。これに懲りて、しばらくゲームはしなかったのだが転機が訪れる。
▲マインスイーパ―(Windows 3.1)
指定したマスの周囲8マスにある地雷数のヒントを元に、地雷処理をしていく
▲マインスイーパ―(Windows Vista)
ここでは右下の青いマスのうち上の方に地雷があることになる
●フリーセル
Windows NTの講習会をしているとき、受講者から「フリーセルのルールを教えてください」と言われた。本題とは関係ないので答える義務もないのだが、そこはお客様の質問である。ちょっと調べてみたらなかなか面白い。これ以降、私の生産性は20%低下することになる。
「フリーセル」は、今やっても数回繰り返してしまう。なかなか良いゲームである。
フリーセルをやらなくなったきっかけはよく覚えていない。おそらくインターネット、特にWeb掲示板やブログが普及したからだろう。掲示板とブログを巡回していると、ゲームをしている暇などない(ただし、いずれにしても個人の生産性は上がっていない)。
●そして現在
フリーセルのあと、私はほとんどゲームをしていない。前述の通り、インターネット時代を迎えたせいもあるが、付属ゲームが大がかりになってきたことも大きい。たとえば「スパイダーソリティア」の画面を見て欲しい。最前列にスペードの2が2つあるのが分かるだろう。3列目まで見るとスペードの4が4枚あることも分かる。これはもうトランプの絵柄だけを使った別のゲームである。
全く新しいゲームも含まれているが、私はもうどのゲームもやってみたいと思わない。どのゲームも複雑すぎる、あるいは少なくとも複雑なように見えてしまい、やる気が出ないのである。私に周りを見渡しても、フリーセルやソリティアにはまっていた人はいても、最近の新しい付属ゲームに興じている人はほとんどいない。
無駄な時間が取られないので良いのだが、これらのゲームがOSに標準搭載されていることに留意して欲しい。ゲームを作っているプログラマの給料は誰が払っているのだろう。
私は、ビジネスPCであってもちょっとしたゲームがあっていいと思っている。本当のPC初心者なら、マウス操作をゲームで覚えることもあるだろう。ダブルクリック操作は初心者にはかなり困難な作業であるが、これをゲームで習得できれば悪くない。しかし、こんなに複雑なゲームが本当に必要なのだろうかと思うのである。
そのせいか、Windows 8になってからは、Windowsの標準機能としてはゲームが搭載されなくなった。ストアアプリとして、いくつかの会社から無償提供されているが、マイクロソフトの手からは離れたようである。
無償提供している会社が何で収益を上げているのかは気になるが、おそらくは上位版や他の有償ゲームに誘導するのだろう。それはよく理解できる。ただ、多くのユーザーはよく知らない無料ゲームのインストールをするよりは、友達が使っているソーシャルゲームを使うだろうから、本当にこれで収益が上がるのかはよく分からない。
そもそも「標準的な無償ゲーム」という時代は、もう終わったのかも知れない。調べたわけではないが、Windows 8.1ではゲームよりもTwitterやFacebookアプリの方がインストール率が高いように思う。同じ時間を使うなら、ひとりで遊ぶよりも、他人と遊ぶ方が面白いのではないかと思うのだがどうだろう。