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IT技術者教育に携わって25年が経ちました。その間、変わったことも、変わらなかったこともあります。ここでは、IT業界の現状や昔話やこれから起きそうなこと、エンジニアの仕事や生活について、なるべく「私」の視点で紹介していきます。

コンピュータに仕事を任せたら、人間は何をすればいいのか

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「○○が仕事を奪う」というのは何度か書いてきた。

私が書いたものも含めて、一般的には

技術的なことは機械によって自動化されるので、より知的な部分で勝負しましょう。

ということになっている。「機械的なことは機械にやらせる」が原則だ。

  • タイプライターが発明され、誰でも読みやすい文字を扱えるようになったら、文字ではなく内容がより大事になった。
  • 表計算ソフトの発明で、誰でも簡単に集計ができるようになったら、集計結果の解釈がより大事になった。
  • クラウドの発達で、誰でもサーバーを立てられるようになったら、ビジネスモデルの方がより大事になった。

どれも技術ができる前から言われていたことではある。

私も新入社員時代「コンピュータ(そのもの)を欲しがる顧客はいない」と習ったし、マーケティング分野には「ドリルを買いに来た人はドリルが欲しいわけではない(穴を開けたい)」という名言がある。

コンピュータは道具なのだから、それをどう使うかが重要である。「道具が使いやすくなっても、道具の目的が変わるわけではないから、道具の目的をしっかり見ていきましょう」ということだ。

 

●人間は何をすべきか

自動化や機械化に対する対応は2通りある。

  • 機械では実現できないくらい高いレベルを目指す
  • より人間的で、自動化できない分野を目指す

一般に「自動化」は、開発期間や製造コストの問題から「下手な人よりもうまいが、最高レベルではない」程度に落ち着く。だから、機械よりももっと高いレベルを狙う戦略は十分あり得る。

ただし、それは「量産品」対「職人の手作り作品」という構図になってしまい、市場が限定される。「良質な手作り作品」は、文化の継承という意味でも、生活を豊かにするという意味でも大事だが、誰でも熟練工になれるわけではないし、それほど多くの人を必要とされない分野でもある。

そのため、「より人間的で自動化できない分野」を目指す方が一般的である。たとえば、自分が本当は何を必要としているのかを分析し、アドバイスしてくれるコンサルティングは「自動化できない分野」の典型例である。

IT分野で言えば、「顧客が欲しいのはコンピュータではなくビジネスの道具」つまりアプリケーションである。Macintoshがデスクトップ出版(DTP)分野で高いシェアを持っていた頃、そして1人1台のPCがな買った頃、あるデザイン事務所では、「Macintoshを使わせて」ではなく「Illustrator使わせて」と言っていたらしい。

「Illustrator(デザイン画作成ソフト)使わせて」
「何するの?」
「Photoshop(写真編集ソフト)の仕事したいので」

なんだかよく分からない会話であるが、それくらいアプリケーションの存在感は大きい。

そういうわけで、多くのIT技術者がOSやネットワークの分野から、アプリケーション分野やコンサルティング分野に移行しつつあるようだ。

 

●上流工程だけでいいのか

IT分野では(おそらくプロジェクト管理一般で)、人間(ビジネス)に近い領域を「上流」、実装技術(コンピュータシステム)に近い領域を「下流」という(「上流階級」の「上流」ではなく、単に仕事の流れを意味している)。ビジネスを分析し、どうすれば自動化できるのかを考えるのが「上流工程」であり、実際にプログラムすることが「下流工程」である。

多くの自動化は、下流工程で起きているため、エンジニアの移行の流れは「下流から上流へ」と言い換えてもよい。

ここで注意したいのは、「上流工程の担当者は下流工程を知らなくてもよい、というわけではない」ことだ。

1990年代に「新人技術者研修でプログラミングを扱わない」企業が散見された。「SEの仕事は、顧客の問題を分析し、解決策の提案と仕様書を作るまで(上流工程)であり、プログラミング(下流工程)を含まない」という理屈だった(実際のSEの職分ははかなりあいまいで、実装まで含むと考える人もいるが、ここでは設計担当者を指す)。

しかし、プログラミングを知らないSEに、実装まで考慮した仕様書が書けるわけもなく、すぐにプログラミング研修が復活した。

最近聞いたのが、服飾デザイナーの話である。主にステージ衣装を受託製作し、自分もステージに上がっているMOBACO.さんが、Twitterでこんなことを書いていた。

ステージ衣装の場合、発注者のアーティストが明確なイメージを持っていることが多いため、初期デザインという上流工程が大幅に簡略化されているらしい。だから、下流工程にこそプロの存在価値がある、正確には「下流工程を熟知した上で、上流工程を完璧に仕上げる力が必要である」という主張だ。

考えてみれば、IT分野でもこのまま自動化やアプリケーションパッケージが進化すると、上流工程が大幅に簡略化され、場合によってはなくなってしまう可能性もある。SEがいくらがんばっても、ビジネスに関しては経営者や経営コンサルタントを超えるのは難しいだろう。この時、本当に役に立つのは上流工程だけに詳しいSEではなく、上流工程と下流工程の両方を知った上で「その方法でもできるが、CPU時間が増えすぎるのでやめた方がいい」とか「この方法はディスク容量が大量に必要になるが、ビジネス面での影響を考えるとぜひ採用すべき」といった、具体的なアドバイスができる人ではないだろうか。

機械では実現できないくらい高いレベルの実装(下流工程)を目指すと、できた製品は高価なものになりやすく、市場が小さくなる。より人間的で、自動化できない分野(上流工程)は本物のプロにかなわない。

「だからエンジニアの出番はもうない」というわけではなく、本当に最適な提案をするために上流工程と下流工程の両方に詳しいエンジニアなら、まだまだ活躍する機会があるだろう。これが「フルスタックエンジニア」の意味である。

グローバルナレッジネットワークでは無料セミナーイベント「G-Tech 2014」を東京10月10日(金)、大阪10月17日(金)に開催する。テーマは「ビジネスを加速させるフルスタック、マルチスキルエンジニア 」。詳細は以下のWebサイトで紹介しているので、よかったらぜひ参加して欲しい。セッションは私もセッションを1つ担当する。また、懇親会では「IT業界トリビアクイズ大会」を開催する予定である(賞品付き)。

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今週のおまけ写真

今週のおまけ写真はMOBACO.さんのステージ。もちろん衣装はすべて自作。

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