共感ビジネスとオンラインセミナー
●資本主義経済
1995年のことだから、20年ほども前のことである。友人たちと中国を旅行した。第4回世界女性会議に併設されたNGOフォーラムで発表するためである(なんでそんなものに参加したのかというのはまた今度)。
その時同室だった経済学者の方とテレビを見ていたたら、日中戦争を扱った一種の歴史クイズをやっていた。大学対抗のチーム戦のようだが、クイズ番組で一般的な早押しではなく、回答者が順番に答えるのが不思議だった。
同室の経済学者が
「なんでこんな形式(順番制)なんやろね」
というので
「早押しは資本主義的やし、嫌なんちゃうやろか」
と言ってみたらえらく受けた。
そこから経済学で言う「市場」の話になった。
「完全競争市場」と呼ばれる状態では、物価は需要と供給で一意に決まる。
しかし、実際にはそうなっていない。これは、現在の市場が不完全だからではなく、需要と供給という経済モデルそのものが間違っているのではないかという意見が出てきた。
というのである。
完全競争の主な条件は、独立した買い手と売り手が多数いて、すべての情報を誰でも入手できて、売り手も買い手も自由に市場に参入できる場合である(正確な定義は各自でお調べください)。
たとえば、現在のインターネット通販は、実際に多くの人が利用しており、価格比較サイトなどで情報の完全性が高く、ショッピングサイトを提供するサービスを使えば容易に参入できる。完全市場に近い形態と言えるが、実際にみなさんは価格が一番安いところから買っているだろうか。多くの人は、購買者の評価情報を参照し、そこそこ安くて、そこそこ評判のいいところを選ぶのではないだろうか。
そこには、需要と共有だけではなく「評価」や「共感」というものが存在する。評論家の岡田斗司夫氏は、これを「評価経済社会」と呼んだ。「評価経済社会」の特徴は、売り手個人の評価によって売り上げが左右されること、そしてその評価はインターネットを通して多人数で共有されることである。要するに「あいつから買うより、彼/彼女から買おう」ということである。そのうち買い手も評価対象になり、嫌われた客は「あんたはんに売るもんはあらしまへん」ということになるかもしれない(京都弁に他意はない)。
●共感ビジネス
評価よりもっとストレートなのが「共感」や「体験」である。均質なサービスやモノに対してではなく、自分自身だけの特別な「体験」に価値を見出す人が増えてきた。
動画共有サイトとして有名な「ニコニコ動画」は、動画にコメントを付けることで、擬似的な「共感体験」を実現した。これにより、同種のサービスでは世界でもかなり早い時期に黒字化を達成したと言われている。
「ニコニコ動画」のリアルタイム「共感」感は恐ろしい。冷静に考えれば録画された動画がリアルタイムなわけないのだが、実にリアルな体験が生まれる。まるで、録画番組に表示された臨時ニュースに驚く自分のようである。
また、音楽分野では、CDの売り上げが低迷し、ダウンロード販売にも陰りが見えてきたそうだ。
宇田川ガリバー哲男氏のブログ記事「アーティスト至上主義の到来」によると、2014年4月21日付のオリコン週間シングルCD売上げ60位は722枚らしい(CDシングル売上がさらに縮小...オリコン週間30位が史上初の1500枚割れ、50位で900枚割れ、100位は僅か354枚 : The Natsu Style - オリコン&音楽ランキング分析)。路上ミュージシャンの宮崎奈穂子(みやざきなほこ)さんは、「ねえ...」というシングルCDを50日で4700枚ほど売った。週に700枚以上売ったこともあったので、オリコン60位相当ということになる。
▲「LIGHT UP NIPPON Beach Fes 2014」に出演する宮崎奈穂子さん(2014/7/19)
自主製作に近い形でCDを出したシンガーソングライターの風見穏香(かざみしずか)さんは、ファンに「タワーレコード渋谷店で買って」と呼びかけた結果、6月6日発売のミニアルバム「ありがとう。」が、TOWER RECORDSオンラインデイリーチャート3位、渋谷総合チャート9位、渋谷インデーズチャート3位を記録した。事務所に所属せずフリーで活動していても、デイリーチャートとは言えランクインできる時代なのである。
しかし、これほど音楽の売り上げが落ちている一方で、ライブハウスに来る人はむしろ増えているという。ライブハウスの入場料は概ね2,000円から3,000円とCDアルバム並みであるが、多くの場合、目当てのアーティストの持ち時間は15分から30分と短い。時間単価にすればCDの方が得であるが、ライブも盛況である。
考えてみれば、宮崎奈穂子さんも、風見穏香さんも、路上ライブを頻繁に行っており、ファンとの直接接触が多い人である。彼女らのファンは、本人から直接CDを買うことはもちろん、タワーレコードで購入したことも「買ったよ」と話しかける体験につながる。
悪名高いAKB48のCD販売手法も(私は悪いとは全く思っていないし、ファンの目から見ると、むしろ素晴らしいアイデアだと思うが)体験型である。
もはや、著作物は体験でしか売れない時代になったと考えた方が良いのではないだろうか。
●オンライントレーニング
最近、私の勤務先(グローバルナレッジ)が、オンライントレーニングを提供する会社Schooの公認団体となった。「公認団体」というのは、場所を借りてはいるが、独立して運営しているクラスである。詳しくは、グローバルナレッジのeラーニングチームのブログ『「教育」×「IT」最前線』の記事「schoo(スクー)」の公認団体として無料授業を始めます!」を見て欲しい。
従来、オンライン教材というのは録画をしておいて、いつでも好きなときに学習するスタイルが多かったが、Schooではリアルタイム性を重視する。
実は、グローバルナレッジでは、以前からeラーニングクラスや教材を提供している。昔はVHDビデオ教材だったし、その後CD-ROMに動画を収めたこともあるし、Schooのようにリアルタイムクラスもある。最近では、リアルな教室での講義をインターネットでビデオ中継する「ハイブリッド型」クラスも行っている。
こうした経験から言えることは、ビデオ教材など「いつでもどこでも受講できる」というストック型のコンテンツを完遂する人は非常に少ないということだ。時間的な制約のあるリアルタイムクラス、言ってみれば「フロー型」のコンテンツの方が達成率は高い。もともと、決められた時間を確保するだけモチベーションの高い人が集まっているせいもあるだろうが、あまりにも自由だと後回しになってしまうことが多いようだ。
7月23日には、Schooを使った(私としては)第1回目の授業「Microsoft Azure IaaS講座: 5分で作れるサーバーシステム(1限目) ~とにかく仮想マシンを作ってみよう~」を実施した。「体験」という意味では反省点も多々あったので、8月5日(火)に開催される第2回目の授業「Microsoft Azure IaaS講座: 5分で作れるサーバーシステム(2限目) ~落ちない仮想マシンを作ってみよう~」では、さらに改善したものをお届けしたい。受講は無料である。