医学部入試で出題された「他人のおにぎり問題」は何を求めているのか?
唐突ですが、小学校でトロッコ問題を扱った件ではブログを書くタイミングを逸してしまいました。
医学部入試で出た「他人のおにぎり問題」というのがあるそうで、わたしの興味を引きました。
まだ知らないという方はこちらの記事をご覧いただければと。
当該記事では、「出題の背景で問われている概念をさらに明確化するため、今回は問題文に少々手を加えさせていただいている。」としたうえで以下のように紹介しています。
【問題】
あなたは高校の教師である。ある日、授業の一環として稲刈りの体験作業があり、僻地の農家に田植えの体験授業に生徒を連れて出かけた。稲刈りの体験作業の後、農家のおばあさんがクラスの生徒全員におにぎりを握ってくれた。しかし、多くの生徒は他人の握ったおにぎりは食べられないと、たくさん残してしまった。[問1]
あなたは、おにぎりを食べられない生徒に対しどのように指導しますか。[問2]
あなたはこの事実をおばあさんにどのように話しますか。(2019年 横浜市立大学 医学部医学科小論文試験 改題)
まず自分がこの記事を見て最初に感じたのは、たしかに自分の子供が通った小学校でも最近はイベントで調理したりすることが出来ないとか、機会が減ったというような話を聞きますので、こういう状態は容易に想像できるよな...と。
ただ、マーケティングやブランディングの観点からすると「手作り」というのは差別化、付加価値、手間を掛けたことによる高価格化を実現する要素でもあります。
消費者の側も「手作り」というネーミングがある商品に対して割高な出費を認めている事を考えたときに、その態度の差異がどこから生じるのかが仕事柄気になりました。
さて、現代ビジネスの記事では問題の内容を書き換えているということだったので検索してみると、河合塾が配布しているPDFにこちらの問題に対する解説が記載されたものを見つけることができました。
こちらでは設問について以下のように紹介しています。
高校の授業の一環として稲刈りの体験作業があり、自分はそれに同伴した指導者であると想定する。
農家の高齢の夫婦がお礼にとおにぎりを握って持ってきてくれたが、多くの生徒は知らない人の握ったおにぎりは食べられないと、たくさん残した。これについてどのように考えるか。また生徒と農家の方にどのように話すか。
これを見て改めて感じたのは、この手の問題で自分は判断を下す状況についての情報が少なすぎると自分は感じるのですが、先ほど紹介した河合塾の答案作成上のポイント・学習対策にこんな記述をみることができます。
そもそも高校の行事において、食中毒や集団感染を予防する手立てを考えておくということは、管理者の責任だろう。かといって農家の夫婦が感謝を表すためにしてくれた行為に対して、かような振る舞いで応えるのは、いかにも非人間的であり、心ない行動といえる。
農業体験はかのような行動に陥りやすい現代人に対して、生産し消費する人間の原点を体感させるものであるべきで、その意味で農業体験は失敗していたのである。このように捉えて、それでは今後どのようにすれば、より意義のある農業体験とすることができるか、その手立てを考えていくことになる。
これを読むと、現場対処も適切にできないといけないのですが、事前の段取り(PM的な素養)を重要視しているようですね。
今日紹介した「他人のおにぎり問題」、食べられない子供から社会課題を論じることも当然できるのですが、河合塾の解説を読みつつ、技術面の進歩は著しいものがある現代社会において、説明能力という人間ならではの能力が求められていることに、現代社会の縮図を感じました。
また設問の要求として、生徒と農家に対する説明を求めている。率直に問題の所在を明確にし、責任回避をせず、爾後どのように対処すべきかを明確にして説明するというのは、医師に不可欠の能力である。誠実で明確な対応を心掛けたい。
最後に、この問題の意図が分からないとする受験生が60名ほどのうち5割居たと現代ビジネスでは紹介しており、それはそれで大丈夫か!? ということを付け加えておきたいと思います。